7.鑑定される俺
冒険者ギルドは町の中心部にある大きな石造りの建物で、朝から多くの冒険者で賑わっていた。入口の両脇に剣と杖を交差させたギルドの紋章が掲げられていて、扉の向こうからは喧騒が漏れ聞こえてくる。
中に入ると、冒険者たちの視線が俺に集まった。男も女も、一様にじろじろと見ている。……なんだろう、この感じ。村人だった頃は誰にも見向きもされなかったのに。注目されること自体が居心地悪い。
いや、見られてるのはこの顔と体か。アルたんの反応を見てなんとなくわかってはいたけど、どうやら俺──というかこの体は、相当な美人らしい。自分では実感が湧かないのだけれど。
「受付はあっちだ」
アルたんが周囲の視線を遮るように俺の前を歩いてくれた。無意識なのか意識してなのかはわからないけど、ちょっとだけ嬉しい……いや、助かる。助かるだけだ。
受付には、眼鏡をかけた真面目そうな女性が座っていた。
「いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ」
「この人のステータスの確認をお願いしたい」
アルたんが俺を示すと、受付嬢は少し驚いた顔をした。
「冒険者登録はお済みですか?」
「い、いえ……まだです」
「では、まず登録からですね。こちらの水晶に手を触れてください」
カウンターの上に置かれた透明な水晶玉を示される。鑑定用の魔道具だ。冒険者が自分のステータスを確認するための標準的な装置で、手を触れると名前・レベル・職業・スキルなどの情報がカードに転写される。
俺がパーティーにいた頃は、こいつに触れるたびに『村人 レベルXX スキル:なし』と表示されて、毎回心を抉られていたものだ。
深呼吸をして、水晶に右手を置いた。
水晶が光を放った──けれどその輝きは、俺が知っている鑑定の光とは明らかに異質だった。普通は淡く白い光が一瞬灯る程度なのに、水晶が金色にまばゆく輝いて、受付嬢の眼鏡に反射を走らせる。
光が収束して、傍らの金属製のカードに文字が刻まれていった。受付嬢がそれを手に取り、内容を確認する。
彼女の表情が、みるみるうちに変わった。
「…………え?」
眼鏡の奥の目が見開かれる。カードと俺の顔を、何度も交互に見比べている。
「あの……これ、なにかの間違いでは……? いえ、鑑定は嘘をつきません、けれど……」
「どうしたんだ?」
アルたんが怪訝そうに尋ねると、受付嬢は震える手でカードをカウンターに置いた。
「ど、どうぞ……ご自身でご確認ください」
アルたんと一緒にカードを覗き込む。
そこには、こう刻まれていた。
名前:エミ
職業:大魔術師
レベル:30
スキル:
《全属性魔術適性》S
《魔力操作》A
《並列詠唱》A
《魔力感知》B
《身体強化》C
目が点になった。冗談だろ?
大魔術師? あの、魔法使いの最上位職って言われてる、あの大魔術師?
スキル欄も意味がわからない。全属性魔術適性がSランク? 通常の魔法使いでもAが一つあれば天才と呼ばれるのに、S……しかも全属性? 並列詠唱もA──これは複数の魔法を同時に行使できるスキルで、一流の宮廷魔術師でもBがせいぜいだと聞いたことがある。
レベルは30のまま変わっていない。ということは、これは経験値で得た力じゃない。この体そのものが持っている能力だ。
「これ……本物ですか?」
受付嬢に確認するまでもなく、鑑定の水晶が嘘をつかないことは俺自身が身を以て知っている。何度だってスキルなしの村人と表示されてきたんだから。
「鑑定に、誤りはございません。このスキル構成は……失礼ですが、お客様はどちらで修行を?」
「いえ、その……わたしにもよくわからないんです」
嘘じゃない。本当によくわからないのだから。
ただ、昨夜の夢で聞いた声が頭の中で反響している。『わたしの魔術の才能が、今はあなたのものになっているのよ』──あの天才美女の言葉は、紛れもない事実だった。
「エミ」
アルたんが、妙に改まった声で俺の名を呼んだ。振り向くと、真剣な目がまっすぐにこちらを見ている。
「お願いがある。俺たちのパーティーに入ってくれないか」
……来た。
予想していなかったわけじゃない。アルたんは昨日、俺を追放する時にこう言ったのだ。『おまえの代わりに魔法使いでも入れたいんだよ』と。
そして今、目の前に大魔術師がいる。しかもアルたんが既に恩を売っている相手だ。勧誘しない理由がない。
──けど、なんだろうな。この感情は。
嬉しいような、苦いような。
昨日まで一緒に旅をしてきた仲間として求められることはなかったのに、一日で別人として求められている。結局、必要なのは俺じゃなくて、俺の能力なのか。いや……エミールの能力ですらない。この体の元の持ち主の能力だ。
でも。
「……考えさせてください」
即答を避けた。感情がぐちゃぐちゃで、今は冷静な判断ができそうにない。
「あぁ、もちろんだ。急かすつもりはない。ただ──」
アルたんがなにかを言いかけた、その時だった。
「ちょっと待ちなさいよ!」
甲高い声が、ギルド中に響き渡った。




