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勇者パーティーから追放されたけど金髪巨乳にTSしたのでざまあしてやります  作者: かわうそ


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27.暗転する俺

 フィーネに連れられて二階の空き部屋に入ると、そこには数着のドレスが吊るされていた。壁のフックに掛けられたそれらは、宿の女将が持っているにしてはあまりにも上等で、しかもどれも大人の女を演出するためだけに仕立てられたような意匠だった。もしかしてフィーネの若い頃の服なのだろうか。いや、聞かないほうがいい。


「あんた、普段のあの格好だと上品すぎて逆に目立つのよ。繁華街の夜に溶け込むには、もう少し崩す必要があるの」


 フィーネが最初に取り出したのは、深い赤紫の、胸元が大きく開いたドレスだった。手に持っただけで生地の重さと質感が伝わる。上等な絹で、表面に微かな光沢がある。背中も腰の辺りまで開いており、スカート部分にはスリットが太腿の半ばまで入っている。


「……これ着るの?」

「試しなさい」


 有無を言わさない眼力で押されて、着替えた。下着の上からドレスを滑り込ませると、絹が肌に吸い付くように馴染んだ。背中の大きく開いた部分から涼しい空気が入って、肩甲骨の間を撫でる。

 鏡の前に立つ。

 ──これは、まずい。

 胸元から覗く谷間が深い。この体の胸は──客観的に言って大きすぎるのだ。ドレスの胸元が強調するように設計されているから、白い膨らみの上半分が布地から溢れるようにして露出している。背中の露出が、肩甲骨の下まである。背骨の窪みに落ちた影が白い肌の上を一筋の線となって走り、腰の曲線に沿って消えている。スリットから太腿の白い肌が見え隠れして、歩くたびにちらちらと覗く。

 自分で自分に見とれてどうする、と思うのだが、鏡の中の女は──客観的に見て、とんでもなく綺麗だった。金色の長髪と蒼い瞳が、赤紫のドレスと妖艶なコントラストを作っている。首筋から鎖骨、胸元にかけての曲線が、ドレスの開口部に沿って流れるように露出して、そこに蝋燭の光が橙色の影を落とすのだから、もう反則だった。


「……えっち」

「ほら、いいじゃない」


 フィーネが満足げに頷いた。切れ長の目が鏡の中の俺を射抜いて、唇の端がわずかに持ち上がる。


「あとは髪。下ろしたままじゃ清楚すぎるから、片側に流して──こう」


 フィーネの手が俺の髪をかき上げて、左側に流した。右の耳と首筋が露出する。うなじに指が触れて、ぞくりとした。フィーネの指先は冷たくて細くて、まるで水銀が肌の上を滑るような感触だった。髪を流す動作の中で、指がうなじの産毛を撫で、耳の裏を掠め、鎖骨の窪みを辿る。──フィーネの手つきには、必要以上の丁寧さがあった。


「耳飾りをつけて──これ。首元は開けたままのほうが色気が出る」


 小さな金の耳飾りをつけられた。鎖のついた滴型で、頭を動かすたびに揺れて光を弾く。フィーネが最後に、俺の唇に紅を引いた。固い練り紅が唇の上を滑る感触に、体がこわばる。上唇の弓なりのカーブをなぞって、下唇の柔らかい膨らみを辿って、紅が乗っていく。フィーネの目が至近距離で俺の唇を見つめていて、その真剣な表情は職人のそれだった。


「完成」


 鏡を見た。

 そこにいるのは、もはや「追放されたかつての村人」の痕跡など微塵もない、繁華街の夜に咲く花──まさにフィーネが言った通りの姿だった。金髪が左に流れて右の首筋を晒し、耳飾りが揺れて、紅を引いた唇が蝋燭の光を受けて濡れたように光っている。赤紫のドレスが体の線に沿って流れ落ち、スリットの奥から太腿がちらりと覗く。


「……これ、怒られない?」

「誰に」

「アルフレッドとか……」

「あの勇者くん? たぶん顔真っ赤にして固まるわね」


 フィーネが意地悪く笑った。


「でもいいの。固まってくれたほうが、犯人に付け入る隙を与えずに済むでしょ。あの勇者くんが本気で守ろうとすれば、そうそう危険はないわ」


 含蓄のある言葉だった。この女将、ただの宿屋の主人にしては鋭すぎる。



 夜。

 繁華街の大通りに、俺は立っていた。

 魔石灯の橙色の光が、石畳の道を照らしている。路傍には酒場や賭博場が並び、開いた扉の向こうから笑い声と楽器の音が溢れ出ていた。弦楽器の旋律が夜風に乗って流れてくる。どこかの店からは焼いた肉の香ばしい匂いが漂い、別の店からは甘い葡萄酒の芳香が立ちのぼっている。行き交う人々は冒険者や商人、夜の仕事の男女と様々で、空気には酒と香水と炭火焼きの匂いが何層にも重なって混ざっている。石畳は昼間の熱をまだほんのり残していて、薄手の靴底を通してぬるい温もりが足裏に伝わった。

 俺はフィーネに仕上げてもらった姿で、できるだけ自然に、けれど目立つように歩いている。赤紫のドレスのスリットから太腿を覗かせ、金髪を夜風に揺らしながら。一人で歩く美女──それが犯人への餌だ。歩くたびに耳飾りが揺れて、魔石灯の光を散らす。すれ違う男たちの視線が、磁石に吸い寄せられるようについてくるのがわかった。


 通信用の魔石がブラウスの内側に仕込まれている。アルたんとクルトの声が聞こえる。


『エミ、聞こえるか。俺は大通りの反対側の屋根の上にいる。視線は確保してある』


 アルたんの声。低くて硬い、戦闘時のトーン。


『俺は路地側。三本先の角にいる』


 クルトの声。二人が別方向から監視している。これなら、どの角度から接触されても対応できるはずだ。


「聞こえてるよ」


 小声で返す。周囲に聞こえないように、唇をほとんど動かさずに。


『いい感じだ。……しかし、その格好は』


 アルたんの声が少し詰まった。


「なに?」

『いや、なんでもない。集中するぞ』


 アルたん、出発前に俺の姿を見たとき、三秒くらい固まってたよな。フィーネの予言通りだ。口をぱくぱくさせて、それから顔が耳の先まで真っ赤になって、「その、なんだ、気をつけろ」としか言えなかった。クルトも一瞬だけ目を見開いて、すぐに目を逸らした。ゲオルクだけが「おお……」と声を漏らして拝むような仕草をしたので、リーゼが杖で小突いていた。


 一時間が経過した。

 何人かの男に声をかけられたが、どれも普通のナンパで、犯人グループとは思えなかった。丁重に断って歩き続ける。


 二時間目。

 繁華街の奥──少し灯りが少なくなるエリアに差しかかった頃、声がかかった。


「お嬢さん、一人で歩くには遅い時間ですね」


 振り向くと、上等そうな服を着た中年の男が立っていた。濃い灰色のフロックコートに銀のカフス、磨かれた革靴。整った顔立ちで、物腰が柔らかい。口元には穏やかな微笑を浮かべているが──目が笑っていない。俺を見ているその瞳の奥に、値踏みする光がある。宝石商が原石の質を見定めるような、あの冷たい計算。


「よかったら、うちの店に寄っていきませんか。特別なワインがあるんです」


 丁寧な言い回し。しかしその丁寧さ自体が罠だ。本当の紳士は、夜の裏通りで見知らぬ女に声をかけたりしない。


『エミ、そいつは怪しいな。少し泳がせろ』


 アルたんの声が耳に響いた。


「お店……? この辺りにあるんですか?」


 少し興味があるふりをして、男の反応を見る。髪を耳にかける仕草をしてみせた。フィーネに教わった、相手の警戒を解く所作だ。


「ええ、すぐそこです。この路地を入ったところに──」


 路地。裏道に誘い込もうとしている。


「じゃあ、少しだけ……」


 男について路地に入った。犯人がどこに拠点を構えているのか、できるだけ深く潜りたい。路地は磨かれた石畳から荒れた砂利道に変わり、魔石灯の間隔が広がって影が濃くなっていく。壁の両側に積まれた木箱の隙間から、鼠が走り去る音がした。


『エミ、あまり奥に入るなよ。視線が──』


 アルたんの声が途切れた。

 同時に──路地の両脇の壁から、人影が飛び出した。


「っ!」


 一人じゃない。三人──いや、四人。路地の入り口を塞ぐ形で二人、奥から二人。完全に包囲されていた。暗がりの中にぼんやりと浮かぶ四つの人影は、揃いの黒いマントを纏っていて、顔の下半分を布で覆っている。


「失礼。少し眠ってもらいますよ」


 案内役の男が手を挙げると、背後から甘い匂いの霧が俺を包んだ。睡眠魔法か──いや、これは魔法じゃない。薬だ。嗅覚を通じて作用する即効性の睡眠薬。花のような、けれど不自然に甘ったるい香りが鼻腔を侵して、一呼吸のうちに頭の中が綿に包まれたようになった。


「アル──」


 叫ぼうとしたが、声が出ない。舌が痺れている。体から力が抜けていく。膝が折れそうになるのを、必死に堪える。意識が急速に遠のいていく。


『エミ! エミ、応答しろ! くそ、何かが──妨害結界だ! 魔石通信が──』


 アルたんの声がノイズに埋もれて消えた。通信用の魔石が無効化されている。妨害結界。犯人は、護衛がいることを想定していたのだ。用意周到な連中だ。これは街のチンピラの仕業じゃない。プロだ。


 膝から崩れ落ちる俺を、男たちが支えた。粗暴にではなく、丁寧に──商品を傷つけないように。意識が遠くなる。視界が暗くなっていく。最後に見えたのは、最初に声をかけてきた男の口元に浮かんだ冷たい笑みだった。魔石灯の光がその歯に反射して、一瞬だけ光った。


「やはり、色の良い花だ。これなら高く売れる」


 売れる──その言葉が、薄れゆく意識の中で妙に鮮明だった。

 人身売買。美女を攫って売り飛ばす組織。俺は──囮のはずが、獲物になった。


 意識が、暗転した。

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