強化合宿と小さな闇【4】
シアさんと一緒に大通りを通っていると、先程まで何も売っていなかった場所に、ずらりと商品が並んでいた。それにランニングをしていた時の10倍、いや、20倍もの人が溢れかえっていた。
「今日もいい品が揃ってるね。こういうものはすぐに無くなっちゃうから、朝早くから市場に来ないといけないよのね」
そう言いながら真っ先に肉を売っている店に立ち寄り、肉の塊を4つ買っていた。店のおっちゃんは何も驚かずに肉を包んでいく。それもそのはず、毎朝シアさんが塊を買っていくらしく、肉塊もそのために置いているんだとか。
「まいどあり!これからもルヴェル生肉店をご贔屓にー」
包まれた肉の塊を皮の袋に詰め込んで、再び歩き出す。
「セネくんは市場は初めてかな?」
「はい。だから、なんだか慣れなくて……人の波に飲まれそうです」
ランニングで真っ直ぐ走っていた道も、人がこれだけいたらくねくね曲がった道のようにも感じれた。
「迷うことは無いと思うけど……じゃあ、手を握っていたら波に飲まれることは無いね」
そっと手を握られ、引っ張られる。やはりシアさんは慣れているようで、人と人の間を通り抜けていく。つまずきそうになりながらもシアさんについて行く。
生肉店から少し歩いたら、人通りが少なくなってきて、やがては周りに誰も人がいなくなった。
「あの、市場の通りから外れたようですけど……」
「ローツくんとの集合場所だよ。といっても、まだ時間はあとなんだけどね。ちょっとお話しましょ」
そう言って近くにあったベンチに腰をかける。
季節的にいえば今は春で、暖かい風が吹いているはずなのだが……黙りとした空気感。冷たい風が頬に当たる。空には熱い雲がかかっていて、日の出の時間をもうとっくにすぎているはずなのだが、暖かい日差しが差し込む様子はない。
「……話ってなんですか?」
自分から切り出してみた。おおよそ何の話かは察せる。昨日の話の延長だろう。
「ええっと、冒険者について、どう思っているとかなって思って」
「人助けができる仕事だと思っています。他の仕事も人助けができるかもしれませんけど、冒険者だったらより人のためになるかなって」
自分にとって冒険者とはその程度のものだろう。英雄に憧れているのは確かだ。ただ、英雄の心の強さに自分は憧れを持っている。何に対しても挫けず、立ち向かう様子が自分の心を打たれた。だから、様々なジャンルの人助けができそうな冒険者がいいのだ。
シアさんは僕が言った本心に疑問を被せた。
「強くなりたいとか、一攫千金とか、それこそ英雄になりたいとか。そんなんじゃないの?」
「夢はありますけど、そういうのって才能に恵まれたほんの一部の人しかなれないですよね?僕は生まれつき体が弱いですし、才能もありませんでした。『ルピスカルス』を読んで、英雄みたいな人のためになるような事が出来たらなあって思ったんです。それなら頑張って努力していれば、報われるような気がして」
自分のことは自分が1番わかっていて、それを話しているだけなのに、やっぱり「才能がない」とか「体が弱い」って言うのは、なんだか哀しくなる。無理に笑顔を作っているのがバレて、シアさんが気を使ってくれたのか。次に何を言おうと考えているのかは分からないが、それからしばらく何も言わなかった。
「……セネくんはもう立派な心を持った子だよ。そんな子に才能がないだなんて言わせるなんてね。神様は見る目がないよ。二物を与えていい子なのに」
シアさんはベンチに置いていた僕の手をぎゅっと握ってくれて言った。なんでそこまで言ってくれるのだろうか。まだあって数日しか経っていないし、僕が言っていることが本当かどうかなんて分かるわけもないのに……
温もりが感じられた。繋がっている手の温もりと同時に、心を包んでくれているような、そんな温もり。この瞬間、いや、出会った瞬間に薄々感じていたが、シアさんと出会えて本当に良かったと思う。
「約束を守ってくれるなら、冒険者になっていいよ。もちろん合宿も行っていい」
悩んでいることが全て吹っ飛ぶような嬉しい情報だけれども、その感情を一旦抑えて、顔を見て聞く。
「条件ってなんですか?」
無理難題を押し付けるような人ではないので、すんなりと聞けた。
「定期的に私たちのお店、「コメル」に顔を出して、冒険者はどんな感じか私たちに教えて欲しいな。みんな気になっていると思うから」
「わかりました。約束は守らせて頂きます」
少ししたらローツくんも来て、一緒に僕らの店「コメル」に帰っていった。その時、かかっていた雲は無くなっており、暖かい日差しが僕らの背中を押すように差し込んでいた。




