第39話
僕は花音さんのあとに続き階段を登る。
僕の後ろをゆっくりと相坂さんが着いてくる。
しばらく薄暗い廊下を歩き、関係者以外立入禁止の扉を抜け、さらに奥へ進むとドアノブの無い扉が現れる。
『廻ちゃん、ここまででいいわ。』
「はい。」
相坂さんは一礼すると、その場から動かず待機する。
『もう引き返せませんよ?』
覚悟は・・・あるかという事だろうか?
「平気です。よろしくお願いします。」
花音さんは胸元からIDカードらしきものを取り出すと、ドアに接触させる。
【認証コードを確認中。顔を認識エリアに収めてください】
機械音声が顔認証を促す。顔認証をするほど重要なエリアだということがうかがえる。
【認証はクリアされました】
扉がスライドして入口が開く。
「スライドだったのか・・・。」
僕は率直な感想が口から洩れてしまった。
『ふふっ。みんな最初はそう言います。』
「す、すいません。」
奥へと進む花音さんに続く。
『ここの向こうに篝が居ます。』
花音さんは扉の前に立ち、僕に先に入るように促す。
「あれ?花音さんは入られないんですか?」
『恋人同士の邪魔をするほど野暮じゃありませんわ。』
「いっいえっ!決してそういう関係では!!!」
『ふふっ。やっぱり篝の話していた同級生ってあなたのことだったのですね。』
「え?」
『こちらの話です。どうぞ、篝に会ってください。』
僕は扉のノブをゆっくり回す。
「・・・。」
部屋は薄暗い。特別病室になっているようで部屋そのものはすごく広い。
間接照明しか灯っていない。
「・・・。」
機械の一定のリズムの電子音が響く。
「か、篝・・・さん?」
僕は入口のそばで声をかける。
反応がない。
心電図の機械が目にとまり、ディスプレイを見る。
一定の鼓動が刻まれている。
生きてる!
篝さんは生きている。
僕はゆっくりとベッドへ向かう。
「篝さん?寝ているの?」
反応は変わらず無い。
ベッド脇に立つ。
「・・・篝さん。」
僕は涙が出てきた。泣いているわけじゃない。泣くより先に涙がこぼれた。
顔の一部にはガーゼ。頭部には包帯。でも、髪はそのまま。頭部の手術は行われていないようだ。
酸素マスクをしている為、その呼吸を直接確かめることはできない。
「篝・・・さん。」
僕は点滴が行われている腕を見る。
ちょっと擦りむいている。
僕が・・・。僕が彼女をこんなひどい目に合わせてしまった。
「ごめん・・・・本当にごめん・・・。」
僕が弱かったばっかりに・・・。
僕は篝さんの手に自分の手を重ねる。
「早く、また笑顔を見せて。」
周りの様子を見ると、きっと篝さんはまだ意識が戻っていない。
『ありがとう。』
「!!」
不意に背後から花音さんの声がする。
『ごめんなさい。驚かせたわね。』
「い、いえ!」
『篝はまだ事故から意識が回復していません。まるで・・・・あの時のよう。』
花音さんの過去と何か状況が似ているようだ。
「あの時?」
『私が秋伸さんと出会ってしばらくしてから、みんなで出かけた先で事故があったの。』
「事故?」
『ええ。その事故で私も目覚めないくらい重症を負ったことがあるの。その時は百合ちゃんが私を看病してくれていたわ。』
『そして、守ってくれていた。今の廻ちゃんみたいな感じで。』
「・・・。」
『そして、私に会う為にいろいろな難関を潜りぬけて私の病室にたどり着いたのが秋伸さん。』
『どこか、似てるのよ。』
「・・似てる?」
『ええ。もし、これも同じ運命が動いているのだとしたら、あなたは近い将来、不思議な人に出会うかもしれない。』
「不思議な人?」
『ごめんなさい。私のただの勘よ。』
花音さんの過去と同じ状況が世代を超えて訪れているというのか?
そんなこと現実世界であり得るのか?
僕は再び篝さんを見つめる。
これから何が起きるかは置いておいて、ひとつだけ確かなのは、篝さんは・・・僕が守る。
絶対に。
その思いは何があっても変わらない。
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