5.女騎士になるためには
第6章の32からの着想です。
それを将来の夢に決めたのは何がきっかけだっただろう。
街に遊びに行く時、いつも付いてきてくれた護衛のドッジさん?
悪者を懲らしめてた街の兵士さん?
きっと違う。
わたしの脳裏に残るのは、青い服を着て、当時のわたしより大きな剣を豪快に振り回していた、顔に傷のある強面の大きな人。
それが砦の主だということ、兄の剣の師匠であることを知って、押しかけた。
もともとこの地は北への出入り口で、領主一族はみんなの剣となり盾となり、国と領民を守ってきた。
わたしもその一員だから、兄様と一緒にここを守るの。
そう言って重たい木剣を引きずって、毎日通った。
年上の子たちには、ままごとでもやってろとか言われたっけ。
でも、わたしはベルエニーの人間だもの。
その時に足手まといになるのは嫌なの。
女性騎士の存在を教えてくれたのもお師匠様だった。
王都にしか女性騎士の養成所はない。
十四になればわたしもデビューするために王都に行く。
その時に見学させてもらおうと思っていたのに。
……まさか、あの日から世界が変わるなんて、思ってもいなかった。
だから、今度こそ。
王国騎士団のなかでも、女性騎士団は特殊だ。
女性しか入れないのはもちろんだけれど、能力さえあれば平民でもなれる。
ここでいう能力は、護衛に必要なものばかりじゃない。あ、もちろん最低ラインは超えていることが必須らしいけど。
騎士団と言っても事務仕事や力仕事もあって、色々な人がいる。
一度見学に行って、わたし程度の騎士はいくらでもいるのだ、ということを思い知らされた。
でも、諦められない。
城にいた時には彼女たちに守ってもらうこともあった。基本的には王族の護衛だから、王妃様とフェリスについてることがほとんどだったけど、公の場所でわたしやほかの妃候補がいる時には守ってもらっていた。
本当ならあちら側にいたはずなのに、と思うことは何度もあった。
剣があればと思う時もあった。
でもそんなことは許されなくて。守られるだけの自分が歯がゆかった。
でも、今なら。……ただのユーマに戻った今なら、挑戦できるかもしれない。
そのために、体も引き絞っているし、鍛錬も欠かさない。
お師匠様に聞いたけど、知らんの一点張りだった。
女性騎士がここに来るはずもないし、興味もない、ですって。
ひどくない?
六年前、あれほどわたしに女性騎士を目指せとか吹き込んできたくせに。
一度、フェリスに問い合わせてみようかしら。それとも、騎士団長にお手紙書こうかしら。
……ああ、でもだめね。
ただの子爵令嬢が、王国騎士団長に手紙なんて、送れるはずない。
顔を知っているからって問い合わせなんかしたら……迷惑よね。
頼っちゃだめ。
わたしは自力で立たなくちゃ。
そうでないと、また立てなくなっちゃう。
王都にいる知り合いの伝手は使えない。となると、どこかで一度、王都に行く必要があるわね。
……今はまだ、無理だけど。
いつか、行けるようになるかしら。
……あの人のいる町に。
……いつか、騎士となった姿を見せたい。
そして、わたしは幸せだと……笑顔であの人に言える日が来るのかしら。
今はまだ何も見えない。
王都のことを考えるだけで、こんなにも胸が苦しい。
わたしはそっと目を閉じる。こぼれた涙は見ないことにした。




