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子爵令嬢小話  作者: と〜や


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3/9

3.姫様と針

第4章の27、フェリスからの書簡からの着想です。

「いたっ」


 布地を突き破って出てきた銀の針にずぶりと刺されて、フェリスは声をあげた。


 ――こんな小さいくせに、なんでこんなに痛いのよっ!


「姫様、今日はもう……」

「大丈夫だからほっといてっ」


 このやり取りも何度目だろう。侍女の言葉さえも呪わしくて、フェリスは声を荒げる。


「ですが」

「いいのっ、これはわたくしが作り上げなきゃいけないんですのっ」


 声をかけた年かさの侍女は、そっと眉根を寄せた。

 いつもなら、ある程度頑張ったあたりで助け舟を出せば、あっさりとあきらめて侍女にあとを譲るのに、今日だけはなかなか諦めようとしない。


「姫様、ですが明日の予定もございます。そろそろお休みになりませんと」


 でも、と言いかけてフェリスは部屋の中を見回した。壁際に何人もの侍女が所在なげに佇んでいる。

 明日も朝から茶会の予定が入っている。そのためにフェリスを磨き上げようと待っているのだ。


 手の中のそれに視線を落とし――密かにため息をつくと、机の上のカゴに戻した。


「……わかったわ」


 年かさの侍女の合図で若い子たちが寄ってくる。その導きに従いながら、フェリスは後に残る年かさの侍女を振り向いた。


「それ、そのままにしておいて。絶対自分でやるんだからっ!」

「姫様、御声を荒げるなんてはしたのうございますよ」

「わたくしに黙って手を加えたりしたら、あとがひどいんだからっ」

「はいはい、承りました」

「絶対だからねっ!」


 若い侍女たちに囲まれてフェリスが部屋を出ていくのを見送って、年かさの侍女は表情を和らげた。


「まったく、こんなところばかり王妃様そっくりなんですから」


 侍女は目尻にシワを寄せながら、カゴの中に押し込まれたものを取り出した。

 刺したままの針を針山に戻す。

 手の中のそれは、あちこちいびつでなんの形をしていると一言では言いがたい。


 机の上に散らばる型紙と雑に置かれたチェック柄のぬいぐるみ。

 いつもならもっと前の段階で放り出されていたそれは、頑張った痕跡は見えるものの、ここからの挽回はかなり難しいのが見て取れた。

 すくなくとも初心者のフェリスには無理だろう。


 あれほどまでにこだわるからには、このぬいぐるみには何か理由があるのだろう。


 でも。


「……これ、贈られたら軽くホラーですわねえ……」


 元は白かったであろう布地はあちこち赤く染まっている。血が出るほどに強く刺したのだ。でもそんな様子はまったく悟らせなかった。ずっと我慢していたのだ。


 さぞかし今日の湯浴みは辛かろう。明日の茶会までに痛みが和らいでいればいいのだが。


「まったくもう……」


 侍女はため息をついた。


「フェリス様にも手ずからお教え致しましょうか」


 あの姫がおとなしく聞いてくれれば良いが、ともう一つため息をついた。




 辺境にいる大好きな姉様に白い可愛らしいウサギが届くのは、それからしばらく後のことだった。

王妃様も実はお裁縫は苦手でした。

刺繍は上手いのにねえ……

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