3.姫様と針
第4章の27、フェリスからの書簡からの着想です。
「いたっ」
布地を突き破って出てきた銀の針にずぶりと刺されて、フェリスは声をあげた。
――こんな小さいくせに、なんでこんなに痛いのよっ!
「姫様、今日はもう……」
「大丈夫だからほっといてっ」
このやり取りも何度目だろう。侍女の言葉さえも呪わしくて、フェリスは声を荒げる。
「ですが」
「いいのっ、これはわたくしが作り上げなきゃいけないんですのっ」
声をかけた年かさの侍女は、そっと眉根を寄せた。
いつもなら、ある程度頑張ったあたりで助け舟を出せば、あっさりとあきらめて侍女にあとを譲るのに、今日だけはなかなか諦めようとしない。
「姫様、ですが明日の予定もございます。そろそろお休みになりませんと」
でも、と言いかけてフェリスは部屋の中を見回した。壁際に何人もの侍女が所在なげに佇んでいる。
明日も朝から茶会の予定が入っている。そのためにフェリスを磨き上げようと待っているのだ。
手の中のそれに視線を落とし――密かにため息をつくと、机の上のカゴに戻した。
「……わかったわ」
年かさの侍女の合図で若い子たちが寄ってくる。その導きに従いながら、フェリスは後に残る年かさの侍女を振り向いた。
「それ、そのままにしておいて。絶対自分でやるんだからっ!」
「姫様、御声を荒げるなんてはしたのうございますよ」
「わたくしに黙って手を加えたりしたら、あとがひどいんだからっ」
「はいはい、承りました」
「絶対だからねっ!」
若い侍女たちに囲まれてフェリスが部屋を出ていくのを見送って、年かさの侍女は表情を和らげた。
「まったく、こんなところばかり王妃様そっくりなんですから」
侍女は目尻にシワを寄せながら、カゴの中に押し込まれたものを取り出した。
刺したままの針を針山に戻す。
手の中のそれは、あちこちいびつでなんの形をしていると一言では言いがたい。
机の上に散らばる型紙と雑に置かれたチェック柄のぬいぐるみ。
いつもならもっと前の段階で放り出されていたそれは、頑張った痕跡は見えるものの、ここからの挽回はかなり難しいのが見て取れた。
すくなくとも初心者のフェリスには無理だろう。
あれほどまでにこだわるからには、このぬいぐるみには何か理由があるのだろう。
でも。
「……これ、贈られたら軽くホラーですわねえ……」
元は白かったであろう布地はあちこち赤く染まっている。血が出るほどに強く刺したのだ。でもそんな様子はまったく悟らせなかった。ずっと我慢していたのだ。
さぞかし今日の湯浴みは辛かろう。明日の茶会までに痛みが和らいでいればいいのだが。
「まったくもう……」
侍女はため息をついた。
「フェリス様にも手ずからお教え致しましょうか」
あの姫がおとなしく聞いてくれれば良いが、ともう一つため息をついた。
辺境にいる大好きな姉様に白い可愛らしいウサギが届くのは、それからしばらく後のことだった。
王妃様も実はお裁縫は苦手でした。
刺繍は上手いのにねえ……




