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子爵令嬢小話  作者: と〜や


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2/9

2.執事の名前

 ふわりと風が吹く。

 ベルエニー領と違ってこの時期でもまだ風が暖かい。日差しも十分な温もりを与えてくれるから、こんな薄着なのに中庭でお茶会ができてしまう。

 お茶会と言いながら、わたし一人なのだけど。

 すぐそばにはリューイが控えている。

 セリアが休みの間はリューイが何くれと気を使ってくれる。

 もともと自分のことは一人でできるから、侍女はセリアひとりで足りるのよね。だからついずっとたよってしまっていたのだけれど、最近は侍女兼護衛のソフィアがいるおかげで休みを取ってもらっている。

 今日は二人で王都見物をしてくるようにと送り出したのだ。


 そうでもしないと休みを取らないのよね。


 王都の館は領地とは違って必要な時に必要なだけ雇うようにしている。シーズンでもない今の時期は館を維持するための最低限の人数しか置いてない。

 兄様やカルイが時々使ってるらしいから、それでも多い方だと思うけど、セリアやソフィアの負担はベルエニーにいた時より重くなってるに違いないのよ。

 でも、頑なに休もうとしない。

 本当はもっと人を雇うべき、なんだけど……。


「どうかしましたか? お嬢様」


 リューイが覗き込んでくる。


「いいえ、大丈夫よ。それより、あなたもちゃんと休みを取れてる?」

「ええ。普段十分に頂いております」


 まあ、基本的に来客はないものね。お茶会や晩餐会をすることもない。シェフは腕のふるい甲斐がないと嘆いてそうだけど、わたしが目立つことをするわけにはいかないの。

 今のわたしはここにいるはずがないのだもの。


 でも、じっとしているのも気が滅入る。

 こんな時、ベルエニー領にいたら気分転換に馬を走らせられるのに。

 王都ここは何もかもが集まるところだけれど、やっぱりわたしには息苦しく感じる。


「お茶のおかわりはいかがですか?」


 膝の上の本をため息とともに閉じたタイミングでリューイが寄ってきた。


「ええ。お願い」


 優雅な手つきで紅茶の準備をするリューイを見つめる。


「そういえば、聞いてみたいことがあったんだけど」

「なんでございましょう」

「今ごろこんなことを聞くのも変なんだけど……」

「はい、何なりと」

「あの、ね。……リューイの名前って、リュイじゃなかったの?」


 父様も兄様もリューイって呼んでた。だからきっと本当はリューイなんだろうなとは思うんだけど、でも、一応、ほら、間違えて呼んでいたら失礼じゃない?

 リューイはといえば、サーブしていた手を止め、目を丸くしている。


 や、やっぱりショック、よね?

 わたしが彼の名前を覚えていないなんて聞いて、いい気はしないわよね、やっぱり。

 そーっとリューイの方を盗み見ると、しばらく硬直した後、手にしたポットをテーブルに置いた。

 残念そうに眉を寄せて、首を横に振る。

 えっと……?


「ち、違ったのならごめんなさいっ。……わたし、てっきり……」

「いえ、お嬢様」


 言葉を遮られた。じっと見ていると、リューイは寂しげに微笑んだ。

 わたしが覚えているのは十四の時、春の宴に出かけるわたしたちを見送るリューイの姿。


「お忘れならいいんです」

「えっ」


 わたし、何か忘れてるの?


「少し寒くなってまいりましたね。何か羽織るものを持ってまいります」


 リューイはカップをテーブルに置くと一礼して去っていった。

 なんだかものすごく悪いことをしたみたい。

 リューイの名前ってものすごい長いのよね。古くからある家らしくて、普段は最初と最後の名前だけを名乗ってるの。

 初めて会った時にフルネームを聞いたはずなんだけど、覚えられなかったのよね。

 ……今も間違えないかと言われると自信がないけど。

 その頃からリュイって呼んでた気がする。


 程なくショールを持ってリューイが戻ってきた。受け取りながら「ありがとう、リュイ」と言うと、嬉しそうに微笑み返してくれた。


 でも、結局どちらが本当なのかは教えてくれなかった。

久しぶりの更新がこれですみません。

第1章の8の疑問に対する小話で、シーンとしてはずっと後になって王都の館に来た時の話です。

護衛の娘の名前は変わるかも?



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