vol.14
「真澄ちゃん、はいご注文の品~」
遠江さんが追加注文したカクテルを持ってきてくれる。
この一杯で最後にして後はウーロン茶にしよう。
これ以上飲むと明日がヤバそうだし。
「ありがとうございます」
そういって受け取ると、遠江さんの視線は
私の腰あたりにそそがれている。
「…遠江さん?」
少し不信に思って尋ねると、ウェストポーチを見せてほしいと頼まれた。
別に構わないので外して手渡す。
裏返したりひっくりかえしたりして見ていた
遠江さんがちょうどウェストポーチを探していたらしく
私のが目に留まったそうだ。
どこで買ったのか聞かれ、場所を答える。
試しにつけてみてもいいか?と聞かれたので
私は何も考えず快諾した。
似合う?と聞かれ、似合ってたので頷くと
彼は嬉しそうに真琴ちゃんにも聞いてくると
つけたままテーブルの向こうに行ってしまった。
まあしらない人じゃなし
帰りに返してもらえばいいだろうと
その時は思ってしまったのだ。
まさか数時間後にああなるだなんて思わずに。
*
今日見てて気がついたのは
もしかしたら遠江さんは真琴さんが好きじゃないかということ。
一生懸命真琴さんの気をひこうと話しかけてるも
真琴さんは立野さんや下村さんと話すほうが楽しいみたい。
男女間の好きとかじゃなくて
純粋にお二方のファン?そんな感じ。
でもそれが遠江さんはあまり面白くてなさげな感じで。
そしてそんな遠江さんを立野さんたちがからかってる?
そんな気がしていた。
見てると年上なのに、なんだかほほえましい
つい目でおったまま自分の前にあるグラスを掴み
中身を……
あれ?っと私が思うのと、仁さんが「ああ!?」と
叫ぶのがほぼ同時だった。
強いお酒だったのだろう、視界がぐるりと回る。
しまった、やっちゃった!
真琴さんが慌てて大丈夫かと聞いてくる。
本当はちょっとヤバイけれど醜態をみせるのは嫌なので、
根性で耐え、大丈夫ですとこたえる。
しばらくじ~っと私をみていた真琴さんは
ため息を1つついて安堵の表情になった。
仁さんが差し出してくれたお水を有り難く頂戴する。
ばれない程度にお水を飲んで薄めなきゃ…
私を見つめる仁さんの視線にも気づかずそんな事を考えていた。
*
それからすこししてお開きになる。
久音さんはまだこれからナレーターのお仕事があるそうだ。
立野さんはご家族がお待ちなので私達より少し早く帰られていた。
それまでの支払いもすませて。
それを知った仁さんと久音さんは
今度お返しをしなきゃとつぶやいてた。
で、肝心の遠江さんは珍しく酔ったようで
真琴ちゃんは俺が送ると言い倒し
根負けした真琴さんがしぶしぶ頷いていた。
私もバイクがあったけどお酒を飲んじゃったので
電車で帰ろうとしたら代行を頼んだ仁さんが
送ってくれると言い出した。
家と仁さんの家は確かに同じ方向だけど距離が違う。
遠慮する私に酔った女の子を一人で帰せないとちょっと真剣に怒られた。
真琴さんもそのほうがいいと言い、私の意見は
年長者達に黙殺されてしまった。
まず代行で仁さんの家に車を運び
その後タクシーで私を送ってくれるという
仁さんも飲んでるんだからそれが最善な方法
なんだろうけど、余分なお金をつかわせることに
ただひたすら申し訳なかった。
*
タクシーが玄関の前に止まる。
「真澄ちゃん着いたよ、大丈夫?」
「あ、はい。ありがとうございました」
少し車の中でうとうとしてたんだろう。
軽くゆさぶられ目を覚ます。
少し眠った事で気分の悪さは消えていた。
これならバレずに家にもどれる。
お礼を言ってタクシーを降り
門を開け家の敷地へ入った瞬間
ホッとしたのか酔いが一気に足へきて私はその場に崩れ落ちた。
タクシーへ再度乗り込みかけていた仁さんが
慌てて門の中へ飛び込んでくる。
ああ、迷惑かけちゃう…
抱きしめられた腕の中で最後に見えたのは
仁さんのどアップだった。