拾われた力士
気を失ったジョナ山、目覚めると……?
焚き火の音と共に目を覚ますと、胃袋を握りしめられたような食欲がぶり返してきた。
「ご……わす……」
焚き火を囲む人影には見覚えがある。気を失う寸前に見た、東の果てからやって来たという一団だ。おいどんは、どうやら彼等に救われたらしい。
「お、目覚めたか。いましがた、ちゃんこ鍋が完成したんだ。おめぇも食え」
一団の中で最も年配の男が、スープボウルをずいっと差し出してきた。受け取ると、湯気と共に深みのあるブイヨンのような香りが鼻を突き抜ける。息を吸えば、胸いっぱいに幸せが広がった。
「おいおい、まるで深呼吸したみてぇに湯気が吸い込まれてったぞ」
「はははっ」
おいどんの様を見て、他の男2人が笑った。エルフに、ドワーフ。どういう構成なのだこの一団は。しかし、今はそれよりもスープに意識が向いてしまった。
「はい、どうぞ。匙で食べてください」
少女から渡されたスプーンのような食器で具材を掬う。これは……肉団子か? だが、牛や豚の時のような嫌悪感はない。
「いただくでごわす」
締め付ける胃袋に催促され、おいどんは熱々のそれを口に入れた。
「!?」
うまい。
うまいっ!
うんっまいっ!!!
鶏だ! 鶏の肉団子だ。
「つくね汁、気に入ったみたいね」
おいどんは、目の前の至上のスープを食すのに必死で、少女の言葉に頷くことしかできなかった。この肉団子は、つくねと言うのか。東の地、恐るべし。
「その……申し訳ないのでごわすが、パンを恵んではもらえぬでごわすか? 地上に戻れば、必ず対価を支払うでごわす」
スープの肉団子と野菜を食べ尽くしてしまい、残すは汁のみ。しかしこの体には、どうも少しばかり物足りなかったのだ。穀物由来のものが欲しい。おいどんは厚かましいのを承知で、頭を下げた。
「構わんよ、だが生憎パンはない。代わりにこれを食うといい」
年配の男が、白い穀物の塊をスープに入れてくれた。茹でた麦のようなそれは、なぜか無性に食欲を掻き立てる見た目をしていた。
「今朝炊いた米だ。とっくに冷や飯になっちまったが、汁に入れれば美味いもんだぞ」
「こめ……でごわすか」
穀物の塊は、スープによって一粒一粒が独立し、サラサラとほぐれてゆく。口に運べば、適度に汁を吸った穀物の優しい甘さが際立った。
「ごわす!?」
「どうだ、イケるだろ」
噛み応えもあるし、喉越しも良い。米は汁と共に、みるみる胃袋へと吸い込まれてゆく。
「うめぇ、うめぇ!」
胃が満たされ、力もみなぎる。やはり穀物は偉大だ。肉体に力を与えてくれる。それだけじゃない。このちゃんこ鍋、どうも体との相性が良いようなのだ。
「ふはぁ、こんなに美味しい食事は初めてでごわす」
「そりゃそうだ。このちゃんこ鍋はな、力士に最適化されたものなんだ」
「なんと!?」
年配の男は、笑いながらそう打ち明けた。力士に最適化された食事? つまり、彼等は力士を知っているのか? 頭の中で回る疑問を整理するため、空になったスープボウルに目を落とした。
「力士を――この職業を知っているのでごわすか?」
「もちろんさ。俺たちの故郷ではな、大事な役割を持った神聖な戦士だ」
この職業は呪われているのではないか。今まで渦巻いていたそんな疑念を、たった一言で打ち払ってくれた。力士のことを、もっと知りたい。初めてそう思うことができた。
「偉大な先人の言葉にな、同じ鍋のちゃんこを食うというものがある」
「元は苦楽を共にする仲間のことを言うんだがな、まさしくお前は同じ鍋のちゃんこを食ったわけだ」
エルフとドワーフも声をかけてきた。どうやら独特の言い回しで、おいどんをからかっているようだ。だが悪意というよりも、友好的な雰囲気を感じる。
「お前、力士の立ち回りを知らんのだろう?」
年配の男が膝を叩いて立ち上がり、おいどんの前に立った。そして、手を差し伸べてくる。
「飯も持たず、腰布一枚。行く当てがないなら、一緒に来い。稽古をつけてやる」
さてさて、次回は騎士団側のお話となります
お楽しみに!




