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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-友達-

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38 私が贈る意味


「ありがとう、早速つけてみようかな」


 すると陽葵(ひなた)は、意外にも乗り気でアンクレットを身に着けてくれるようだった。

 すぐに自分から言ってくれたのだから、お世辞でもなく本当に気に入ってくれたのかもしれない。

 それなら良かったと心から思える。


「せっかくなら、私がつけるよ」


「あ、いいの?」


 陽葵は自分で着ける事は出来ただろうけど。

 誕生日の記念に、私が着けさせてもらうのも悪くないと思った。

 こうした方が記憶に残る気もするし。


「足、出して」


「……」


「陽葵?」


 当然の事だけど、アンクレットは足首に巻き付けるもので。

 それには足を出してもらわないと困る。

 だと言うのに、陽葵は私の顔を見たままその動きを止めていた。


「やっぱりやめない?」


「いや、なんで」


「自分でつけようかなって」


 それは特に理由にはなってはいない。

 ついさっき私が着けると言って、陽葵もそれを了承したのだから、いまさら断らなくてもいいと思うし。

 私にとっては理由がよく分からないままなので、四つ這いで陽葵の足元へ近づいて行く。


「いいから、ほら足こっちに向けてよ」


 陽葵はいわゆる体育座りになっていたので、その足をこちらに伸ばしてもらう必要があった。

 

「いや、冷静に考えたらそれが恥ずくなったんだって」


「……なにが?」


(ゆき)に足向けるのって何か気が引けるっていうか」


 急に羞恥心が沸いたという事らしい。

 だけど分かるようで、やはり分からない。

 と言うのも、この部屋での私と陽葵とで思い出すのは過去の出来事で。


「この前は裸見せたんだし、いまさらじゃない?」


 そのイメージは鮮烈だった。


「はっきり言いすぎ、ていうかそれとこれとは別なんだって」


 既に私は陽葵の裸体を目にしている。

 それなのに今さら足を向けるので、どうのうこうの言い出す陽葵の方がよく分からない。

 そもそも罰と称して人の体に散々イタズラしてきたのは、どちらの方だったか。


「私に罰とか言って色々したくせに、私が陽葵に誕生日に何かするのは断るっておかしいと思うんだけど」


「ああ……そうくるか、そういう事になっちゃうか。分かってるんだけど……はぁ、分が悪いなぁ」


 私の主張に陽葵は強く出れないようで、頭を掻いていた。

 私と陽葵の間にあった以前のようなわだかまりは減りつつある。

 だから以前に起きた出来事を天秤にかけて不均等があれば、私はそれを追求する。

 そうすれば、私の意見は少なからず通るだろう。

 今がその時だった。


「分かった分かった、じゃあお願いするから」


 すると陽葵はおもむろにソックスに手を掛ける。


「待って」


「なに、まだ何かあんの?」


「全部私がやるから、陽葵は足だけ伸ばして」


「……えー」


 何て言うのだろう。

 普段ならその動きに何とも思わないはずなんだけど。

 陽葵の今の動きには、“少しでも私への接触を減らす”ような意図を感じた。

 私が意図していない動きはして欲しくない。

 陽葵の誕生日なのだから、今日に限っては彼女は奉仕される側であっても誰も咎める事がないのだから。

 私も私がしたい事をしたかった。


「……なんかさぁ、変態っぽくない?」


 観念したように陽葵はこちらに足を伸ばす。

 だけど、その主張は何度も言うけど今更過ぎる。


「陽葵に比べたら変態のへの字もないと思うんだけど」


「……いや、これは逆にレベル高いと思う」


 よく分からない事をずっと陽葵は言っている。

 ソックスを脱がしてアンクレットを付ける事に、どんな変態性があると言うのだろう。


「はい、もうやるよ」


 話していたらいつまで経っても陽葵がブツブツ言ってくるので、私はもう言葉を止める。

 伸びる足に手を伸ばして、脱がしたソックスはそのまま床に置く。

 露わになった素足、その足首を眺める。

 ふくらはぎから踝の当たりにかけて、きゅっと細くなっていて綺麗な足つきだなとか思ったりする。


「見すぎじゃね?」


「……文句言い過ぎじゃね」


 ちょっと眺めすぎていたのは認めるけど、やはり陽葵が非難めいた口調で話してくるので私もあえて同じように返す。

 このまま言葉を重ねても埒は空かないから、その足首に手を伸ばしてアンクレット巻き付ける。

 私が慣れていないので時間が少し掛かりながらも、留め具を止める。

 離れてみると、陽葵の足首にシルバーと花柄のチャームが艶やかに輝いていた。


「似合うね」


「……あ、ありがとう」


 そう言うと、陽葵はすぐに足を引っ込める。

 そんなに足を晒すのが嫌だったのだろうか。

 本当に今更なのに、その感情の押し引きが私にはよく分からない。


「でも本当、初めてだから嬉しいよ。可愛いし」


 陽葵は自分の足首に手を伸ばしてそのアンクレットに触れる。

 口元は少し緩んでいて、柔らかい雰囲気が流れていた。

 その姿に、私も何か温かな気持ちになる。


「よかった」


 自然と私も笑っていたように思う。

 渡した物を喜んでくれると、まるでこちらが何か貰ったような気持ちになる。

 こんな喜びがあるとは知らなかった。


「ずっと着けようかな」


 陽葵がそんな事を言うせいだからだろうか。

 それともこれもアクセサリーの力なのだろうか。

 まるで私が陽葵の一部になったような、そして縛りをもたらすような感覚が沸き上がっていた。

 そして、その感情が私の奥に引っ込めていた言葉を押し上げてくる。


「それなら、ずっと私と一緒にいたらいいんじゃない?」


「……え」


 誕生日という一年に一日だけの時間だからだろうか。

 部屋に二人だけの空間のせいだろうか。

 アンクレットを気に入ってくれたからだろうか。


 とにかく、まだ言う気のなかったその言葉を私は押し留める事が出来ずに吐いてしまっていた。

 放ってしまった言葉は、もう取り返す事は出来ない。

 出来るとするのなら、その言葉の意味を正しく伝わるように言葉を重ねるくらい。


「離れる理由がないのなら、これから先も私と過ごす方がいいと思う」


 それが私の目的だった。

 彼女との時間を取り戻し、その最後に至る理由を見つけ出す。

 だから、その為には彼女と同じ時間を過ごす必要があった。

 その未来を陽葵が認めてくれるのなら。


「……えっと、それは、どーいう意味?」


 陽葵は混乱しているのか、聞き返してくる。

 私の説明では言葉足らずだったのかもしれない。

 どうするべきかを具体的に説明する必要があるのだろう。


北川(きたがわ)さんとじゃなくて、私と同じ大学に進学しよう」


 陽葵との未来を描くなら、彼女の側にいる必要が私にはあった。




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