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 イトラがやってきて、数日後。

 保に耳を小さくさせたリーア、それからゼルはローブを頭まですっぽり被り、アキホはいつもより小奇麗な服を着ていた。わざわざドレスを着ていく訳ではなく、国家魔法師の礼服として王家の印が刺繍された白いポンチョのような物を上から着ていた。

 朝早くに馬車が来て、アキホだけ出て行くかと思っていた保達だったが、当然のようにアキホから同乗するように指示されてバタバタとしながら馬車に飛び乗った。

 およそ半日ほど馬車に揺られていると、王都ラフィンテイルが見えてくれば、城門を潜り、賑やかな城下町の中を馬車は突き進む。

 リッドガリアも交易が盛んで活気のある街だと思っていたが、王都はその比ではなかった。

 馬車が潰れてしまいそうなほどの多くの人々が道の脇を埋めており、商人達の大きな声が自然に耳に入れば、馬車のカーテンを開けてゼルと共に外を覗いた。見たことも無い売り物に、リッドガリアとは雰囲気の違う人々、密集した建物や民家は空いたスペース一ミリも無駄にしないようにどこまでも並んでいた。


 「なんだか、ここの人達は垢抜けているなぁ」


 リーアは小さくした自分の耳を撫でながら、呆けたように呟いた。

 なるほど、これがこの世界での垢抜けているということになるのかと保は一人納得した。だからといって、この王都が保の居た世界の大都会と重ねてみるが、中世ヨーロッパ的な景色は保からしてみればレトロな感じなのでセンスを理解できるのは時間がかかりそうだった。


 「意外と緊張してないようね」


 アキホは少し驚いたように言った。対して保は、いやいやと手を横に振る。


 「現実感が無いだけだよ」


 「ゼルも同じ」


 保とゼルは二人で、「ねー!」と言い合えばのほほんと外の景色を眺め始めた。

 

 「下手なことをすれば、首が飛ぶ可能性があるからな」


 「アキホさーん、こっちの世界で無職になるつもりですかー?」


 見慣れない都市に加えてVIP待遇の保はおどけるように言う。明らかに調子乗っている保にアキホは肩眉を上げて気だるそうに声を発した。


 「いいや、物理的にだ。覚悟ができているならいいだろ」


 「……ゼル、少し大人しくしてようか」


 そうこうしている内に、保達を乗せた馬車は場内へと吸い込まれていくのだった。




                       ※ 





 荘厳な城壁に囲まれた城の内部で大きな門を抜けて、馬車から降りた保達は兵士から危険物の持ち込みは無いか簡単な身体検査を受けた後に城の中へと入ることになる。

 国家魔法薬師は身体検査は免除されるらしく、軽く手を広げるだけで通してもらった。最初に検査を受けたアキホは二、三兵士に言葉を告げるとリーアとゼルには女性兵士を担当させるように手回しをさせたようだ。

 こういうところは、本当に気が利くなぁと保が感心していると保の目の前には、同姓が見ても鳥肌が立つような美青年が立っていた。

 長い前髪から見える大きな目は女性的過ぎるわけではなく、戦士然とした頼もしさも備えていた。また、その瞳は目が合った人の記憶に一生残るような輝きがあり、軽装の鎧から見え隠れする程よく鍛えられた肉体の下はきっと見惚れるようなバランスのとれた肉体美を持っていることだろうは想像に難くない。

 「そいつを、よろしく頼む」とアキホが美青年騎士に言う。恭しく、頭を垂れた青年は突如――内股になった。


 「おにいさぁん、お城ははじめてぇ? アタシィ、ダイトアて言うのよぉ」


 「え」


 「一名様ごあんなーい」


 ダイトアと名乗った美青年騎士は、声のトーンを高くさせて保の手を引くと何故か城の影に向かおうとする。


 「――て、ちょっと待てぇい! その喋り方は何だ!? 後、何で俺だけ別室に連れて行こうとする!?」


 ふぅと困ったように短く息を吐いたダイトアは、顎の下に右手を置いた。


 「オカマだからよ」


 「でしょうね! でも、それと俺だけ個室ご案内される意味は小指の先程も理解できないのですが!?」


 「……同性愛者だからよ」


 「……ノンケなんで許してください」


 「じゃあ、ここで検査するわね」


 すっと真顔に戻ったダイトアはそれ間接どうなっているのと思ってしまうような動きで手をくねくねさせながら接近してきた。


 「あ!? ちょ!? いや!? なんで!? 服を!? ぬがせ!? 脱がせるの!? あうぅ!?」




                                ※



 「はーはっはっはっはっ! どうだった、新しい道は開けたかい?」


 「アキホさん……わざとあの変態を俺にぶつけやがったな」


 保的には無事に抜け出せたかどうか怪しい所だが、一行は王様の待つ玉座の間を目指して歩く。長い通路は一定の間隔で、護衛の騎士が並び、保達を待っていたイトラが先頭で案内していた。 

 大笑いをするアキホを前に、保は思い出し寒気を感じるのか両肩を撫でた。


 「変態とは失礼だよ、保君。差別の多すぎるこの世で、彼ほど自分というものを揺るぎなく持っている人を私は知らないよ」


 「同性愛に偏見はねえけど、奴のボディタッチは完全にセクハラの域だ。俺、女の子だったら泣いちゃっているよ!? トラウマなっているからな!」


 「女の子じゃないでしょ、それにダイトアは男にしか興味ないわ」


 「なお悪い!」


 「なあ、タモツお兄ちゃん」とリーアが保の袖を引いた。


 「なんだよ……」


 「タモツお兄ちゃんに特殊な趣味があっても、私は好きでいるからな」


 「ねえよ! 後、ありがとう!」


 店でのやりとりをそのまま持ってきたような光景をゼルはぼんやりと見ていると、チラチラとこちらに視線を送るイトラに気づく。


 「どうかした」


 「あ、い、いえ……ほとんどの人は急に王様に呼ばれたら緊張しているものなんですが……あまりにも砕けているというか普通な感じで……」


 ゼルに声をかけて、人と話すのが苦手であろうイトラが必死に頭の中から言葉を探すように答えた。


 「いつだって、タモツ達は変わらない。どんな困難でも、タモツもアキホもリーアもいつも通り」


 イトラは感心したように「ほへえ」と声を漏らし、少し考えるように顎に手を当てた。


 「もしかしたら、どんな状況でもありのままでいる貴方達だからこそ、王様はこの場に呼んだのかもしれませんね……」


 いつも以上に小さな声のイトラの呟きはゼルの耳には届いたが、言葉の意味も分かるわけなく首を傾げるだけだった。




                          ※




 ガヤガヤと言葉を交わしながら、いつもの雰囲気をそのままに保達は王の前に立った。


 長い通路の先には二人係で左右から押さないと開かないほど大きな扉の前に辿り付いた。その先が玉座の間になっており、射抜くような兵士達の視線が気になりつつも保達は玉座の間に入った。

 赤い絨毯を十メートル程進んだ先には、三段程高くなった位置に豪華な装飾のされた椅子が置かれていた。すると、誰かが教えたのか、保達が到着するとほぼ同時に椅子の置かれた場所の脇から二人の侍女と二人の騎士と共に王様が現れた。

 ザブリウス王は、長い髭に何重にもシワの重なった顔をしていた。年齢は、ぱっと見ただけでは七十歳前後という感じだ。だが、そこら辺の老人達とは違い、そこに現れただけで空気がガラリと変わるような重圧を見ているこちら側にも与えてくる。他者とは明らかに違う。生まれ持った王者の気質というもを備えているのかもしれない。

 白い鎧に身を包んだ二人の騎士の内一人は青年、もう一人は若い女性騎士だった。その内、青年騎士が茶髪の隙間から覗く鋭い眼光でこちらを見渡すと前に出た。


 「王の御前だ、頭を垂れよ」


 気づくと立ったままの保を残して、アキホもリーアも、ゼルまでもが片膝をついて頭を下げていた。慌てて保も片膝をつけて頭を下げることにする。

 気難しそうに騎士の青年は保を見て鼻を鳴らした。


 「そうカッカッするではない、ウィルギス。この客人を呼んだのは私だ。些か、その反応は失礼というものだろう」


 思ったよりも優しい声でザブリウス王がウィルギスと呼ばれた青年騎士を諭す。釈然としない表情でウィルギスはザブリウス王に軽く頭を下げて、「失礼しました」と共に現れた女性騎士よりも後方に下がった。

 シワだらけの顔をさらにくしゃっとさせるザブリウス王は、最初に与えたイメージよりも随分と身近に感じさせた。


 「アキホ、それにゼクスィの諸君もよく来てくれた。活躍は私の耳にも入っておるぞ」


 「いえ、国家魔法薬師として当然のことをしたまでです」


 普段聞いたことのないほど事務的に返事をした。


 「そう謙遜するでない。じゃがまあ……アキホ、お主は長い歓談はあまり好きではない性分じゃったな」


 「舞踏会や貴族様方の御食事会に参加しない件ならば、仕事が忙しいからです。それに、出生もはっきりとしない私のような卑しい身分の者と同席したがらない方も少なからずいらっしゃいますから」


 「ふむ、わしとしてはそういうつもりは無いんじゃが……。まあお主の気持ちを尊重しよう」


 「ご配慮感謝します」


 城に入ってから度々感じていた冷たい視線や、ウィルギスの冷然とした口調にずっと疑問を抱いていた保だったが、ようやく理解できた。

 異世界からやってきたアキホの身分はいろいろと怪しい部分が多いのだろう。どの世界でも、苦労して前に出て来た者を気に食わない人間が居るのだろう。身分に左右される世の中なら尚更だ。

 ふと忘れかけていた疑問を保は思い出した。アキホが住民証として見せていたものを、保は異世界に来る前に受け取っているのだ。家に戻ってから、今一度アレを確認してみる必要がありそうだ。どうせ異世界の文字だからと直し込んでしまっていたが、今は多少文字を読むことができる。それに、あの紙にこの世界に来ることになった秘密だって書いてあるかもしれない。

 忙しさの中で忘れかけていた重要な案件だった。よし、文字を調べてからアキホにも聞いてみようと考えた時だった――。


 「――単刀直入に言おう、アキホ。お主をリッドガリアを含む領地の領主に任命しよう」


 王様の告げた衝撃的な発言に、早くも直前まで考えていたことを忘れそうな保だった――。 

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