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「お約束」な少女漫画  作者: 相田 渚
第三章 ずれた物語と修正された物語
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百瀬亜依と王崎栄司の夏祭り

桃色地の浴衣には葡萄色と群青色の大ぶりな朝顔がいくつも咲いている。

黄色の帯は基本の蝶結び。

黒色の下駄をカランコロンと鳴らしながら歩くと、くまさんの髪ゴムでとめたおさげが肩の下あたりでゆらゆらと揺れた。

暑さに加えて緊張からだろうか、籐の鞄を持つ手はじっとりと汗ばんでいる。


百瀬がいつもより小さな歩幅で時間をかけて待ち合わせの時間に行くと、そこにはすでに王崎がいた。


「お、お待たせっ王崎君!」

「今来たところだから、大丈夫だよ。それより、浴衣似合ってるね。かわいいよ」


にこっと笑う王崎に百瀬は頬を赤らめながら、お礼を言う。

褒める王崎は、残念ながら浴衣ではないが初めて見る私服にテンションがあがりっぱなしである。


花火まで時間があるから、屋台をまわろうという王崎の言葉に従って色んなお店を冷やかす。

祭囃子と人のざわめきをBGMに、お面の屋台で最近流行のお笑い芸人のお面があることに笑ったり、大きなりんご飴が甘酸っぱいと感想を言い合ったり、金魚すくいの屋台でユラユラ水中を泳ぐ金魚を眺めたり、最後の最後で型抜きに失敗して悔しがったり。

祭りをひとしきり楽しんだ百瀬はふと手元の時計を確認した。


「そろそろ、花火の時間かな?王崎君」


そう問いかけようとした時だった。

百瀬は隣に王崎がいないことに気がついた。


「うそ、王崎君?どうしよう、はぐれちゃった…!」


あたりを見渡すも、キラキラとした明るい茶髪はどこにも見えない。

携帯電話を取り出してみると、肝心な時に充電切れ。

先ほどまで楽し気に聞こえていた祭囃子も、人々のはしゃいだ声も、どこか遠くに聞こえる。

まわりから一人取り残されたように感じて、百瀬は不安感を消すように王崎の名を呼びながら歩き出す。


「王崎君、どこ…?おうさきくん…」


どれだけ探しても、道に溢れかえる人の中から王崎の姿を見つけ出すことができなかった。

王崎とはぐれてしまった後悔、周囲から取り残されるような孤独感、このままずっと王崎を見つけることができないのではないかという予感等、様々な感情が百瀬を飲み込んでいく。


百瀬は立ち止まって、俯いて零れそうになる涙をぐっとこらえた。

慣れない下駄で歩きまわったせいか、立ち止まった今、じんじんとした熱と痛みを感じる。

体力も、そして心も折れてしまいそうで、役に立たない携帯電話をお守りのようにぎゅっと抱きしめ、小さく王崎の名を呟いた。

しかし、その百瀬の声も花火が打ちあがるヒューッという甲高い音にかき消された。


その瞬間、「見つけた!」とチョコレートのような甘い声が百瀬の耳に届く。

百瀬が顔をあげたと同時に、ドンッという音と衝撃を伴って花火が打ちあがり、夜空に明るい灯を灯した。


そして、花火の光に明るい茶髪をキラキラと金色に反射させ、安堵の表情を浮かべた王崎が百瀬の目の前に立っていた。


「よかった、百瀬さん…。ごめんな、不安にさせてしまって」


ハァと息を切らし、汗をぬぐう王崎。

初めてみる焦った姿に、百瀬は再会の喜びや、感謝の言葉を述べる以前に驚きでぱちぱちと目を瞬いた。


「どうして、ここがわかったの…?私もずっと探してたけど、全然見つけられなくて…」

「どんな人混みでも見つけてみせるよ、百瀬さんのことなら。…なんて、本当はその桃色の浴衣が遠くからでもはっきり見えたからなんだ」


王崎は息を整えながらいたずらっぽく笑う。


「ちょっと始まってしまったけど、花火、見ようか」

「おっ、王崎君、あの…」

「うん?」


花火を見ようという言葉と共に、自然に王崎に手を繋がれ百瀬は真っ赤になった。

なんてつっこむべきか、言葉にできず王崎を見つめながらあわあわとしていると、彼は花が咲くように綺麗にほほ笑んだ。


「こうしておけば、花火に見とれてもはぐれることはないだろう?」

「そう、だね…」


どうか、花火の音でこの心臓の音が消えますように。


百瀬はきゅっと手を握り返しながら、赤や黄色、緑、青等、夜空を色とりどりに飾る花火を見上げる。


きっと今日見たどの美しい花火よりも、繋がれた手の大きさや、暖かさの感触は鮮明に記憶に残るのだろうな、と百瀬は予感した。

・短いですが、きりがいいのできります。

次の話の冒頭に書きますが、『スイートチョコレート』ではテストのお礼に二人でデートした夏祭りは、本来こんなんだったよ、って話です。


・お祭りの屋台は各地によって様々で、いろんな県の出身の方に話をきくと楽しいです。

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