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「お約束」な少女漫画  作者: 相田 渚
第二章 動き始めた物語
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家庭科部

くまのキーホルダーは幼馴染の再会のきっかけ作りに貢献してくれたようだ。

そして、同時に新たな繋がりの橋渡しの役目も果たした。


「あ、あの…宮本さん。えっと、けーちゃんから聞いたんだけど、このキーホルダーについてるくまのぬいぐるみ拾って直してくれたって…。ありがとう」


四時間目の数学Ⅰの授業が終わり、さぁお昼を食べようと鞄からお弁当を出した瞬間、どこか緊張した面持ちの百瀬がもじもじと茉莉花と結衣のところへやって来た。


まぁ、彼女の持ち物を直したわけだから、この展開は予想はしていたけど…。


百瀬は素直で明るくていい子、という設定だ。

ぬいぐるみを拾って直してもらったら、彼女の性格上お礼を言いに来るのは自然の流れだろう。


『スイートチョコレート』では何話からか、百瀬は茉莉花と王崎と速水と行動していることが増えていた。

少しでも可能性を増やすためにも漫画通りの行動は避けたいし、何より好き好んでライバルに近づきたいと思わない。

だから茉莉花は今まで積極的に百瀬と関わろうとしなかった。


しかし、あのキーホルダーをそのままにしておくには少々忍びなかったし、キーホルダーを速水に渡していなかったらきっと彼は今でも百瀬に話しかけることができなかっただろう。

そう考えると、昨日の茉莉花の行動は間違っていないはずだ。


とはいえ、これ以上繋がりを持ちたくない茉莉花は、百瀬の言葉をさらりと流した。


「大したことではないから、気にしないで。私こそ勝手にアレンジしてしまってごめんなさい」


一応、元持ち主の「けーちゃん」に了承は得ているが。


「そんな!あのキーホルダーね、大切な物なんだけど、こんなにかわいくしてもらったから、もっともっと大切な物になったよ!本当にありがとう!」


百瀬は頬をうっすらと赤く染め、にっこりと笑った。

さすがヒロイン、笑顔が眩しいと考えていると、茉莉花の席で一緒にお昼を食べようとしていた結衣が会話に入ってきた。


「なに?茉莉花くまのぬいぐるみ直したの?」

「うん。昨日教室でくまのぬいぐるみがついてるキーホルダーを拾ったんだけど、頬が裂けてて。そこを少し縫っただけよ」

「普通に裂けたところを縫ったんじゃなくて、赤い布でほっぺたを作ってくれたんだよ!もうそのアレンジがとってもかわいくて」

「はぁ~。料理だけじゃなくて裁縫もできたんだ、茉莉花」

「料理?」


小首を傾げた百瀬に、結衣がにやりと笑い茉莉花のお弁当箱の蓋を開けた。


「じゃーん!見てこの凝ったお弁当!もちろん味もすんごく美味しい!!」


斜めに切った部分を合わせたハート型の甘い卵焼き。

葉の形に切ったキュウリと、薔薇のようにくるくるとまいたピンクの蒲鉾と、隙間にチーズをちくわに入れたもの。

ミートボールを半分に切りバンズに見立て、中にスライスしたうずらと少しのキャベツを挟みピックで刺した、小さな甘酸っぱいなんちゃってハンバーガー。

たらこパスタの上には小さなお花の形でくり貫かれたにんじんのグラッセが散らばっている。

猫型に揚げられたコロッケは、ちゃんと顔もヒゲも描いてある。

海苔をまいたおにぎりの上には円形のにんじんのグラッセ。グラッセの横は葉っぱ型にきられたキュウリが海苔の上に置かれている。そしてグラッセの上には、小さなお花の形に切り抜いたたくさんのハムが密集するように固定されている。


「アジサイのおにぎり!?すっごーい!かわいい!!ハムで作ったの?!すごーい!!」

「でしょ、すごいでしょ!味も毎日おかずを少しもらってる私のお墨付き!あ、今日はハンバーガーみたいなミートボール一個と、バラのちくわちょうだい」


きゃあきゃあと騒ぐ二人に苦笑しながら、茉莉花は結衣のリクエストに従っておかずを移した。


「うわぁ~かわいい~おいしそう~」


いいなぁと顔にでかでかと心情を書いた百瀬が呟いた。


「…よければ、どうぞ」

「えっ。でも宮本さんのお弁当がなくなっちゃうから…」

「もともと結衣用に多く入れてるから。どれでもどうぞ」

「ありがとう!嬉しい!!」


おあずけをくらった犬のような表情の百瀬を無視することは、茉莉花にはできなかった。


「ねこちゃんコロッケ、顔がかわいくて食べるのもったいないけど…いただきます!…ん~!おいしい!衣がサクサクで中はほくほくしてる」


かわいいと言ったわりに一口で豪快に猫型コロッケを食べた百瀬は、片手を頬にあてて顔を緩ませた。


「宮本さん、すごいねぇ。料理も裁縫も…。習ってるの?」

「いいえ、料理は家で毎日している程度。裁縫も趣味でやっているだけ」

「後は部活だよね、茉莉花は」

「部活?」


結衣、よけいなことを…!


いつだったかも抱いたその感想を、茉莉花が口から出ないようにしているうちにも、結衣と百瀬の会話が進んでいく。


「家庭科部だよ。料理とか裁縫をする部活。ちなみに私は陸上部!百瀬さんは部活何に入ってるの?」

「私、まだ入ってなくて…。そっか、宮本さん家庭科部なんだ」


ボールがあたった百瀬を気遣いながら住宅地を歩く王崎。そんな彼を頬を赤く染めて眺める百瀬。

ああ、私、王崎君のこと、好きだなぁ。


昨日茉莉花が阻止することができなかった『スイートチョコレート』のワンシーンが頭の中をリフレインする。


彼女はもう、宮本茉莉花に憧れ自分に劣等感を持つだけの少女ではないのだ。

諦めきれない恋心を自覚したヒロインだ。


嫌な予感に無表情ながら冷たい汗をかいていると、百瀬がにっこりと笑顔を向けてきた。


「私、宮本さんみたいに料理とか裁縫上手くなりたい。だから家庭科部に入部する!」


ヒロインのかわいらしい笑顔は、まるで悪魔のようだった。

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