09 探検隊
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1班のメンバーが装備を整えている間、書きかけの報告書を超高速で仕上げる。冒険の前に不可能はないのだ。執筆速度において自己ベストを記録した俺は、驚くアルマを尻目に武具置き場に駆け出した。
フォート家の装備は軽装を旨としている。革の裏に鉄板を仕込んだ、鎧というより服といった見た目の防具、ブリガンダイン。表に鉄板があると森のなかじゃ色々引っかかって良ろしくないのだ。そして丈夫なバックパック。不測の事態に備え、ある程度の野営や単独行動を想定している。
武器は剣が半分、後は斧か槍だ。剣や斧は槍と比べてリーチの面で心もとないが、あえて採用するのにはわけがある。フォート家が治めるランサム地方は密林+河川という地形が多く、蔦や樹の枝を切り払いながら進む必要があるのだ。
実際のところ、剣とは言っているものの、元をたどるとコイツは鉈である。うちのご先祖様達が脳筋パワーで川を下っている時、「持ち替えが面倒すぎる!」ということで鉈一本でモンスターと戦ったのが始まりと言われている。その後、「やっぱりリーチも欲しいかも…。」「突きができるようにならんのか?」という意見を取り入れ、鉈というには長く、先の尖った、剣に近いフォルムに落ち着いた。じゃあ剣でいいじゃんと言われてもそうはいかない。握りや刃の反りが微妙に違うので戦い方もまた微妙に違うのだ。こだわりである。
まぁ、何度も訂正するのも疲れるので対外的には「剣です。」と通しているんだけどね…。
俺は支度を終え、黒い大剣、もとい、黒い大鉈を担ぎ、冒険へと旅だった。
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「ぬおおおおおお!」
バシィン!ドサッ…。
本日10匹目の大蛇を仕留め、1班はその場で停止することにした。
「うーん、さすがに数が多いな。」
「団長さすがです!」
明るく元気に褒めてくれるペンネ。でも君な、凄惨な死体が散らばる中心でそれはちょっとしたホラーだぞ。
「解剖は慣れてますから!」
歴戦の兵士たちすらドン引きである。
今俺達は、川を上流へ向けて進撃中だ。ご先祖様とやってることが一緒だって?モンスター多いから避けろ?違う、違うんだ。決して脳筋的発想でやってるわけじゃない。作戦はこうだ。前回見つけた河川は幅が広めで流れは比較的緩やかだった。つまり、上陸に使ったボートを漕いで川の真ん中を進めばモンスターに襲われずに進むことができるのだ!ナイスアイディア!
しかし、川の真ん中で佇んでるだけでは調査とはいえない。俺達はある程度進むごとに上陸を繰り返し、植生、モンスターの生態などを調べることにした。誤算だったのはペンネが慣れた足取りでどんどん進んでしまうことだった。あいつ、身のこなしが尋常じゃない。一瞬ヴィーツが放ったアサシンかと思って身構えちまったぞ…。
何でも、好奇心が強い上にモンスターを避ける方法を熟知しているのでお構いなしに進んでしまうのだとか。ペンネ一人で調査するならそれでもいいのだろうが、ついて行く俺達にとってはたまったもんじゃ無い。追いかける先々でモンスターと遭遇してご覧の有様である。これはそう、強行偵察、強行偵察なんだ!と自分を励ましながら、またもや姿を消した彼女の後を追いかけていくのであった。
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ラダムとペンネが壮絶な追いかけっこをしている頃、セスタ率いる2班はといえば4班と合同でモンスター狩りの真っ最中であった。
1班が出発して1時間ほど経った頃、急ごしらえの見張り台に登っていた兵士が、平原を行くモンスターの群れを発見した。通常であれば無視するか防備を固めるところだが、よく見ればそれほど手強くない小型モンスターであり、魚に続いて肉を切実に欲していた開拓団は全会一致で討伐を決めた。
「団長からはあんまり出るなって言われてるんだけど…。」
頬を軽く手で抑えながらセスタはその明晰な頭脳で状況判断。
「来ちゃったものはしょうがないわよね!」
オニール家先祖代々の悪い癖である。
そして現在、セスタは獲物を絶賛包囲中である。猟師が追い立て、兵士が槍をずらりと並べて退路を断ち、リーチを活かして次々と屠る。完璧な用兵であった。オニール兵もフォート兵もここぞとばかりに奮闘する。
彼らは一つ大事なことに気がついていなかった。
モンスターの群れが移動するのはどんなときか?
ひとつ、餌を探しているとき。
ふたつ、餌にされそうなとき。
それは、目前まで迫っていた。
鉈というかマチェーテというかそんな感じです。フォート家のはそれよりもやや長めなのですが。ブリガンダイン×マチェーテ。どちらも好きな武具ですが、組み合わせて使われた例はあるんですかね…?