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そして、月日は巡りゆく。
当代魔女は魔力がゆっくりと枯渇し、終わりが見えてきていた。
けれど悲しいことは一つもない。
背負わされた重責と呪いから、やっと解き放たれるのだ。
次代魔女が当代魔女として引き継いだその瞬間、ほんのひと時だけ人になれる。
当代魔女はその時を、ずっとずっと楽しみにしていた。
自分を捨てた両親の墓を、参りに行くのだとそう決めていた。
恨んだこともあったけれど、それでも大人になり年月を過ごしてくれば分かる。
異端な者を抱えるには、人は弱い。
人としていられる時は短いが、すでに地図上にはない風化したその生まれ故郷へ行くのだとずっとずっと心に決めている。
そして人々に恐れられているしろきひとは、未だに恐怖の眼差しを向けられていた。
重度の人見知りは軽減したが、幼い頃から語られてきた「しろきひと」の噂が十八歳の彼女を絡め取る。
成長した「しろきひと」に、人々は更なる恐れを抱いた。
現実は。
しろき幼子は、輝くばかりの乙女に成長していた。
雪融けの白は、艶を含み白銀に輝く。
そして。
しろきひとをただの子供だといった男児は、あの日から絶えることなく彼女との逢瀬を重ねている。
幼き男児は、見まごうばかりの青年に成長していた。
大柄な体は見る見るうちに大人と比べても遜色のない体躯となり、十八歳の彼のこれからを周囲は期待と羨望の眼差しで見つめていた。
大国である彼の国の中で、実力ある者しか所属できない第一騎士団の一員としても。
彼の実家である公爵家が、誰もはむかうこともできない程の力を持っていることも。
そして本人が家の事も身分の事も歯牙にかけず、広く知己を持つ素晴らしい男性だということも。
なによりも――
「ネアイラ」
「ヘリオス!」
しろきひとが傍に近づくことを許す、唯一人の男として。
ゆっくりと育まれた愛情は、二人を近づけ結びつけた。
けれど月の魔女は婚姻を許されない。
しかし当代魔女は、婚姻は許さずとも望むなら青年の命が消えるまで傍にいる事を許した。
両親の愛情を、そして愛する者を、一つとして得ることができなかった当代魔女の最後の贈り物。
しかしそれは人々の思惑により、破滅への道筋として利用された。
 




