6
自国で突然持ち上がった、しろきひととヘリオスの婚姻の話。
ヘリオスは、猛然と拒絶した。
当代魔女に、婚姻はならぬとすでに言い渡された後だったからだ。
婚姻を結べば、世界の理は綻び始める。
月の宮は誰のものにもならぬ、不可侵の場所。
誰か一人のものには、ならぬもの。
ネアイラもヘリオスも、それは納得していた。
仕方がない事なのだ。
世界の理を変えることは出来ない。
けれど寄り添い生きていくことはできる。
体を重ねることはできずとも、心は融け合い満たされていた。
「私の言うことを聞け!」
「これだけは、父さんの言うことでも聞けない!」
拘束されたヘリオスは、父親の企みに今まで気づかなかった自分が情けなかった。
お膳立てされたネアイラとの逢瀬は、彼女を自国に取り込むためだったとは。
しろきひと
そう呼ばれているネアイラが国につけば、周辺国への多大なる牽制となる。
実際は恐怖から遠い場所にいる彼女だけれど、幼い頃から流されている噂は簡単には消えない。
婚姻は許されないと当代魔女に言われた時、ヘリオスは苦しみながらもそれを受け入れた。
本当はネアイラと、いつ何時でも共に在りたい。心も体も、全てを自分のものにしたかった。
そして、ネアイラのものにして欲しかった。
それでも。
傍にいる事だけしか許されなくても、ネアイラと共に生きていけるのなら。
まだまだ若い青年は数多ある願いと欲と引き換えに、ネアイラと共に在ることを望んだ。
「ヘリオス、言うことを聞かぬか……!」
頼むから――!
父親は思い通りにならない息子に苛立ちを感じ、そして同時に焦っていた。
しろきひとを取り込むことは、自身だけではなく国王までもが加担した企み。
今さらヘリオスの拒否だけで、立ち消えになる計画ではないのだ。
企みの挫折、家の行く末、そしてヘリオスの立場が……
「どけ、公爵」
それは、王者の声音。
びくりと肩を震わせた父親は、壊れたブリキのおもちゃのように声の聞こえた方へと振り返る。
普段より粗末な服をまとった国王が、一人の黒いローブを着た者を連れてそこに立っていた。
「王……」
驚いたのはヘリオスも同じ。
拘束されている椅子の上で、目を見開いて国王を見ている。
「最後に聞く、しろきひとを我が国に迎えることをそなたは拒否するか」
ゆったりとした歩みで近づきながら、国王は再度ヘリオスに問いかけた。
国王を目の前にして呆然としていたヘリオスは、口を引き結んで頭を下げた。
「こればかりは国王陛下といえども、その命に従うことはできませぬ。当代魔女と次代魔女との約束ゆえ」
「わかった」
あっさりと頷く国王に驚いたように顔を上げたヘリオスの前には、枯れ木のような小さな掌。
なんだ? と、思うこともなく彼の意識は落ちた。
そして紡がれる、昏き呪。
自然の理に背く、魔の言の葉。
「月の宮へ行き、しろきひとをそなたの伴侶とせよ」




