銀の城 1モノクロボーイズ-1
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「…だから、おれは別に、知り合いが泊まっている部屋の鍵を開けて欲しいだけですってば」
鈴は、到着してから数十秒で、この古びた宿屋に来たことを早くも後悔していた。木造の、今にも崩れそうな宿だったが、この街では一番安全なぶ類にはいる。
「こまるんですよ、お客さん。本当に知り合いなら中から開けてもらえばいいじゃないですか」
宿屋の主人が迷惑そうに鈴にそう言い返す。
「それが出来ればとっくにそうしてますよ。おれが行ってもあいつは扉を開けません」
「それならなおさら開けられませんね。あんたに会いたくないってことでしょう?」
「…ぐぅ」
鈴は言葉につまった。宿屋の主人と鈴がカウンターを挟んで無言で睨みあう。二人の間にバチバチと火花が散る。
「…分かりました。良いでしょう」
先に目をそらした鈴に向かって、宿屋は大きくガッツポーズを掲げた。鈴はそんな彼に冷たい視線を送り、言い放つ。
「そこまでいうなら、こっちにも考えがありますから」
喜びにひたっていた宿屋は表情を固くした。
「…何をするっていうんだ」
「こっちにはボロ屋の扉の一つや二つ、ぶち壊す方法があるってことですよ」
宿屋の顔からさーっと血の気が失せた。鈴はそれに構わず宿の奥へすたすたと進む。
「おれの知り合いってこっちの部屋で合ってますよね」
鈴は途中で振り返り、宿屋に満面の笑みを投げかけた。
「…は、はいっ!」
宿屋は更に顔を青白く変化させてすっとんきょうな声をあげた。そのままお化け屋敷の従業員に大抜擢されそうな顔だ。
「…ここです」
しばらく奥へ進んだ先の扉の前で二人は足を止めた。最低限の安全が保たれるであろう、しっかりとしたただの木の扉だった。手で扉をなで、それとなく素材を確かめた鈴が宿屋を振り返り、改めて聞く。
「まだ開けてくれる気にはならないんですね」
宿屋はとたんに困ったように口をもごもごさせる。
「…それは、その…なんと言うか。うちだって信用を失いかねないわけで」
「分かりました」
ドッゴーン!
言い終わるか言い終わらないかのうちに扉が嫌な破壊音を立てた。宿屋のものと思われる甲高い悲鳴が建物をつんざく。ぱらぱらと木片が宙を舞う。元は扉の形を成していたのだろうが、今は原型もとどめない。
鈴は楽しげに、いつの間にか手にしていた鉄パイプを肩に担いだ。
「さあ、行きましょう。―そんな悲痛な顔をしないでくださいよ。大丈夫です。お金なら払いますってば」
見るからに同情したくなる表情の宿屋を置き去りにして、もうもうと木片の立ち込める部屋に入っていく。コツコツと、ブーツの音が威嚇するように床に響く。鈴は上機嫌で、鼻歌でも歌いだしそうな気配だった。
部屋の中央まで来て、埃がおさまるのを待つ。視界が晴れると、鈴の足元には黒い毛布をかぶった塊があった。
鈴はそれを見るとにんまりと笑い、無言でその塊に鉄パイプを勢いよく振り下ろした。




