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転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第3章 情熱の国 ~スペイン編~

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第52話:【すれ違う乙女心】

【あらすじ】

ミツウロコ科学班の遺産「剛柔一体呼吸法」を会得した吉良氏真は、スペインのカデテ(U-15)リーグにてエンジと青のユニフォームを纏い、無双の活躍を見せていた。彼の理不尽なまでのプレーは、未来のジャーナリストを夢見る少女ルナと、女子チームの天才司令塔エレナの心を強烈に惹きつける。ファインダーと戦術盤、交錯する二人の乙女心を躱す氏真。そんな中、宿敵が待つ冬の全国大会の組み合わせが発表される。


1. 蹂躙する矛と、スペインユースの過酷な航海


古来より、戦の勝敗を分けるのは「剛の力」だけではない。柔をもって剛を制す――それは極東の島国で培われた深い精神性であり、現代スペインの育成組織カンテラというシステマチックな戦場においても、異彩を放つ圧倒的な「美学」であった。


カタルーニャ州の強豪クラブが集う『ディビシオン・デ・オノール・カデテ(地域1部リーグ)』の第10節。


FCバルシーノのチームカラーである、誇り高きエンジとブラウグラナのユニフォームを纏った吉良氏真は、ペナルティエリアの境界線で静かにボールの到達を待っていた。


対峙するのは、CFサン・アンドレウU-15の屈強なセンターバック、パブロ。


15歳にしてすでに180センチを超える体躯を持つ彼は、貧しい移民街から這い上がり、病気の家族を養うために「絶対にプロ契約をもぎ取る」という重い十字架を背負っていた。


パブロの充血した瞳には、名門バルシーノで涼しい顔をしてプレーする極東のエリートに対する、どす黒い怨嗟が渦巻いている。


(……来るか。あの巨漢、殺気で息が乱れておる。だが、背負うものの重さが、かえって己の身体を硬直させていることに気づいておらぬな)


氏真は、パブロの肩の筋肉の強張り、重心の僅かな傾きを俯瞰的に読み取っていた。カオスな戦場の中にあって、氏真の網膜網(RAS)は、パブロの背後に広がる「空白地帯スペース」だけを黄金色にハイライトして捉えている。


中盤を無尽蔵のスタミナで駆け回るダイナモ、マテオから鋭い縦パスが供給された。


氏真がボールを収める寸前、パブロが「絶対に壊す」という明確な意志を持って、猛烈なショルダーチャージを見舞う。


だが、力と力の衝突を、氏真は決して選ばない。


かつて母・有理が、ウォール街の敏腕ファンドマネージャーとして巨大な資本の濁流を力で逆らわず「流れを読んで」いなしていたように。氏真もまた、緊迫したピンチの場面でこそ、肉体と精神の緊張を完全に解き放つ。


>> スキル発動:【剛柔一体の呼吸・零式:ランクA】

守備・補助系 / 効果:自己バフ(極限脱力・衝撃完全吸収)と「発動条件:敵の物理的接触の直前」


筋肉の緊張を水のように解き、相手の運動エネルギーをそのまま受け流し、自らの推進力へと変換する究極のクッションコントロール。


激突の瞬間。氏真が鋭く息を吐き切り、丹田を鋼のように硬直させ、直後に全身を極限まで脱力させる。


ドスッ、という鈍い音が響いたが、弾き飛ばされたのは氏真ではなく、自らの運動エネルギーの行き場を失ったパブロの方だった。


「……なっ!?」


パブロがバランスを崩して前のめりに倒れ込む。


その横を、氏真は氷の上を滑るような滑らかな重心移動ゼロスタートで置き去りにした。


パブロの怨嗟に満ちた執念すらも、氏真にとっては「己の雅を証明するための極上の序曲」に過ぎない。


一切の無駄がない、流れるような無拍子のトゥーキック。


放たれたボールは、キーパーが一歩も動けないコースを正確に射抜き、ゴールネットを優しく揺らした。


「¡Golazoゴラッソ! ¡Vamos! ウジ、また決めたぞ!!」


エンジと青のユニフォームを汗で濡らしたマテオが、歓喜の声を上げて氏真の背中に飛び乗る。これで開幕から10戦連発。バルシーノU-15は無敗で首位を独走していた。


「……見事な呼吸法だ。これでヨーロッパの肉弾戦も、ただのそよ風に等しいな」


氏真は黄金の瞳を細め、倒れ込むパブロに一瞥もくれず、悠然と自陣へ戻る。

試合後、ロッカールームでマテオが興奮気味に今後のスケジュールを語り始めた。


「いいペースだぞ、ウジ! スペインのカデテ・リーグは9月から翌年5月まで続く、全30節の長丁場だ。このままカタルーニャ州で優勝するのも大事だが……俺たちが世界にアピールできる『本当の戦場』は別にある」


マテオがホワイトボードに二つの大会名を書き込んだ。


「一つ目は、クリスマス時期に開催される全国規模の『ユース・ウインターカップ』。そして二つ目は、春のイースター時期に開催される、世界中の強豪クラブが集まる『MIC杯(地中海国際サッカートーナメント)』だ!」


マテオの言葉に、氏真の口角が自然と吊り上がる。


「なるほど。その二つの大会には当然……マドリードの『白き巨城』も出てくるわけだ」


宿敵・織田凱人が君臨する、FCレアル・マフリット。


彼らを直接叩き潰すための、明確な「決戦の舞台」が氏真の前に提示された瞬間だった。


---


2. ファインダー越しの熱情、ルナの突撃とすれ違い


スタジアムを出てクラブハウスへ向かう通路。


「¡Alto ahí!(そこまでよ)、極東の魔法使い(マゴ)!」


突如、パシャッ! パシャッ! と激しいフラッシュの光が氏真とマテオを包み込んだ。


「うおっ!? なんだ!?」


ピッチを走り回った疲労も吹き飛ぶほどの閃光に、マテオが目を瞬かせる。

そこに立っていたのは、自身の上半身ほどもある巨大な一眼レフカメラを抱えた、栗色のショートヘアの活発な美少女だった。


「初めまして! 私はルナ。未来のトップ・スポーツジャーナリストよ!」


ルナは強引に氏真の目の前まで詰め寄り、キラキラと輝く大きな瞳で直に氏真を見つめた。


「あなたのプレー、全部カメラに収めてるわ。魔法みたいなシュート……読者はこういう『理不尽なヒーロー』を求めてるの!」


ルナは氏真の胸にドンッと手を当て、熱っぽい声で告げた。


「ねえ、ウジザネ。私があなたの専属記者になってあげる! 冬のウインターカップでマフリットの怪物を倒すところ、私が一番近くで発信してあげるわ!」


同年代の少女からの、ストレートな熱意と明らかな「好意」が混じったアプローチ。


マテオが「お、おいルナ……距離が近いぞ」と焦る中、氏真はポンッと手を打ち、無邪気な笑顔を浮かべた。


「……あはは。それは素晴らしい。ちょうど、自分のフォームを客観的に見直すための映像データが欲しいと思っていたところなのだ。専属の『記録係』になってくれるなら非常に助かるよ。よろしく頼む、ルナ殿」


「えっ……? き、記録係……? 違うわ、私はジャーナリストとしてあなたの魅力を世界に……って、まあ一番近くにいられるならいいけど……!」


完全に「便利なカメラマンの友人」として処理され、拍子抜けしつつも頬を赤らめるルナ。


---


3. 戦術盤の支配者、エレナの解剖とすれ違い


「¡Qué tontería!(馬鹿馬鹿しい!) 相変わらずメディアの人間は、ポエミーな表現が好きね」


ルナのアピールを切り裂くように、冷たくも知的な声が響いた。


コツ、コツ、と通路を歩いてきたのは、バルシーノの女子チーム(フェメニノ)のトレーニングウェアを着た、透き通るような金髪の美少女だった。


「エレナ……! あんた、なんでここにいるのよ!」


ルナが牙を剥く。


彼女の名はエレナ。バルシーノ女子カンテラの最高傑作と呼ばれる、司令塔だ。


エレナはルナを完全に無視し、氏真の顔を真っ直ぐに見据えた。


「あなたのプレーは魔法なんかじゃない。古の身体操作術と呼吸法を用いた、純粋な物理学フィシカ・プーラの極致よ。……フェリペの計算式すらも破壊した、美しき『バグ』」


エレナはタブレットの戦術盤アプリを氏真に向けた。


そこには、氏真の「初速を極限まで高めた、予備動作ゼロの重心移動」や「無拍子のシュート」の軌道が、緻密なデータとして記録されていた。


「私はエレナ。……ウジザネ、私なら、あなたに120%の力を発揮させるパスを出せる。トップチームへ上がる前に、私の頭脳とあなたの矛で、究極のフットボールを完成させない?」


ルナが情熱で氏真を追うなら、エレナは知性で氏真を求めていた。青い瞳の奥に、氏真への強い執着(独占欲)を覗かせるエレナ。


だが、氏真はタブレットの画面を見て、純粋に感心したように目を輝かせた。


「……ふむ! 女子チームの司令塔か。予の重心移動の原理をそこまで正確に言語化するとは、恐れ入ったよ。君の戦術眼は本物だ。……そうだ!」


氏真は嬉しそうにエレナの手を取った。エレナが「っ……!」と顔を真っ赤にする。


「今度のオフの日、ぜひマテオくんも交えて、三人で合同練習をしてくれないか? 君のパスと予の動きのすり合わせを試してみたい!」


「えっ……マ、マテオも……?」


「ああ! マテオくんも戦術理解度が上がれば、さらに良い配球ができるはずだからね!」


純度100%の「サッカー仲間としての誘い(マテオ付き)」に、エレナのロマンチックな計算式は完全に崩れ去った。


---


4. 鈍感な王様と、冬の決戦への号砲


「ちょっと! ウジザネは私とフォームチェック(取材)をする約束をしたのよ! 戦術オタクは引っ込んでて!」


「なっ……! 私は戦術的なすり合わせに誘われたのよ! あなたこそただのカメラ係じゃない!」


通路でバチバチと激しい火花を散らし始める、ファインダーの少女と戦術盤の少女。


突然勃発した、極東のストライカーを巡る強烈な恋と執着のトライアングル。


しかし、当の吉良氏真はその恋の火花に微塵も気づいていなかった。


「……あはは。バルシーノの乙女たちは、随分とフットボールへの探求心が熱いのだな。素晴らしいことだ。よし、せっかくだからこの後、みんなでカフェにでも行ってフットボールの議論をしないか? マテオくんも一緒に」


「ウジ……お前、どこまでズレてるんだよ……」


マテオが呆れたようにため息をつく。二人の少女の殺気立った視線が、一瞬マテオに突き刺さった。


その直後、通路の奥からカルロス監督の太い声が響いた。


「ウジザネ! マテオ! ミーティングルームへ来い! 『ユース・ウインターカップ』の組み合わせが決まったぞ!」


その言葉に、氏真の黄金の瞳が鋭く光る。


ルナとエレナもハッと息を呑み、恋の鞘当てを忘れ、ただの「一人のストライカー」として闘志を燃やす氏真の横顔を見つめた。


(……やっぱり、この人はピッチの上が一番綺麗だわ)


(ええ……底知れないわね、ウジザネ)


冬の全国大会。


そこには、無敵艦隊を沈めんとするスペイン全土の怪物たち、そして、マフリットの白きユニフォームを纏った宿敵・織田凱人が待ち受けている。


少女たちの交錯する乙女心を置き去りにしたまま、極東の天然ストライカーは、自らの意志で局面を選ぶ能動的な選択を胸に、避けられない「決戦」へと足を踏み入れていく。


己の雅を世界に見せつける、未来への知的なワクワク感に満ちた笑みを浮かべて。


【次回予告】

ついに開幕した冬の全国大会「ユース・ウインターカップ」! 負ければ終わりのトーナメント戦で、氏真の「柔の呼吸」が全国の強豪に牙を剥く! ルナとエレナの熱い視線が交錯する中、立ちはだかるのは宿敵・織田凱人!

第53話:【狂わされる拍子】。次なる天下へのパスを回せ!


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