第48話:【逆襲の狂犬たち】
【次回予告】
いよいよ迎えたスペインでの公式戦デビュー!開幕戦の相手は闘争心を誇るバスク地方の強豪「バオルビFC」。無敵艦隊のパスワークが激しい肉弾戦の前に機能不全に陥る中、ついにカルロス監督が動く!
第49話:【自律する鉄の群れ】。次なる天下へのパスを回せ!
1. 予備動作の消失、崩れゆく無敵艦隊
「……ありえない」
ピッチの中央に立つ背番号10のフェリペが、呆然と呟いた。
二重の罠によってCBレカルデの死角からオンサイドへ帰還した氏真。
彼が放ったのは、蹴り足を大きく振りかぶるという常識的なモーションを完全に削ぎ落とした、極限の脱力から生まれる鋭い「つま先蹴り(トゥーキック)」だった。
一切の予備動作なく放たれたボールは、巨漢GKクリストバルの反応を許さず、その股下を正確に射抜いた。
完璧に構築されていたはずの無敵艦隊の絶対的なシステムに、初めて明確な亀裂が走った瞬間だった。
「……見ただろ、今のウジの動き。あいつにボールを預ければ、あいつが全部ぶっ壊してくれる……!」
控え組のDFパブロが、震える声で叫ぶ。
「ああ。俺たちはもう、ただの案山子じゃない。あの日本人にボールを届けるための『狂犬』だ!!」
マテオが、獰猛な笑みを浮かべて呼応する。
試合再開。ピッチの様相は一変していた。
昨日まで「どうせ次のシーズンにはクビだ」と諦念に囚われていた控え組の選手たちが、自らのスタミナ配分など一切無視し、死に物狂いのプレスで主力組に襲いかかったのだ。
「¡Mierda!(クソッ)囲まれた……! なんだこの執念は!」
アンカーのアルフォンソが、初めてパスコースを見失い、焦燥を露わにする。
氏真という絶対的な「矛」を手に入れた控え組は、彼が点を獲るためだけに全精力を注ぎ込む、恐るべき軍勢へと変貌していた。
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2. 鳳凰の二の矢、戦術的欺瞞
後半、控え組の勢いは止まらない。
マテオが中盤でオケンドの強烈なチャージを根性で耐え抜き、強引に前線の氏真へ鋭い縦パスを通す。
ボールの一直線の軌道上には、氏真。
「……¡No te dejaré!(やらせるか!)」
フェリペの眼光が鋭く研ぎ澄まされる。
スペイン帝国を築き上げたハプスブルク家の末裔。その完璧なる統治者の血脈が、氏真という「システムのエラー」の完全排除を強く求めていた。
フェリペ自らがアルフォンソと共に氏真を挟撃すべく、猛烈なスピードで距離を詰める。
(……良い圧だ。彼らの意識は、完全に予へ向いている)
氏真の黄金の瞳が、ピッチを俯瞰する。
敵が己を潰しに来るこの瞬間こそ、陣形に最大の「空白地帯」が生まれる時。
>> スキル発動:【極・雅技:幻月の歩:ランクB】
補助系 / 効果:敵の予測を裏切るヘイト管理と味方への展開 / 発動条件:自身への強いパスと、敵の意識が自身に完全に集中していること
ボールを受けるという固定観念を利用し、触れる直前に極限の脱力で気配を消す。敵の意識を置き去りにし、後方の味方へボールを流す高度な戦術的欺瞞。
「潰せ!」
フェリペとアルフォンソが氏真に体当たりを見舞おうとした、まさにその瞬間。
氏真は極度に筋肉の緊張を解き、足元へ猛烈なスピードで転がってきたボールに「一切触れず」、フッと柔らかく体を捻ってその軌道から逸れたのだ。
「……なっ!? スルーだと!?」
フェリペの完璧な計算機(脳)が、致命的なエラーを吐き出す。
氏真がスルーしたボールの先。
そこには、猛然と後方から駆け上がってきた控え組のDFパブロの姿があった。
「もらったァ!!」
パブロがボールをトラップし、がら空きになったバイタルエリアへと突き進む。
主力組のディフェンス陣が慌ててパブロへと視線を向け、強固な陣形が一気に瓦解する。
(……さあ、最高の舞といこうか)
氏真は、スルーした直後にすぐさまステップを踏み直し、ディフェンスの意識がパブロに向いた一瞬の隙を突いて、ゴール前の死角へと侵入していた。
「ウジ!!」
パブロから、恩返しのような正確なリターンパスが供給される。
GKクリストバルとの一対一。氏真は、流れてきた鞠を左足のインサイドで優しく捉え、氷のように冷静にゴール右隅へと流し込んだ。
ズバァァンッ!!
2-1。
絶対王者から、寄せ集めの控え組が逆転の一撃を奪い取った。
「やったぞォォォッ!!」
マテオと控え組の狂犬たちが、氏真のもとへ殺到し、歓喜の雄叫びを上げる。
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3. 王者の意地、システムVer3.0
「……システムⅢへアップデートする。ノイズ(氏真)をマークではなく『包囲網』で完全に遮断しろ」
歓喜に沸く控え組をよそに、フェリペの氷のような声がピッチに響き渡った。
その声に、主力組の顔つきが冷酷なプロフェッショナルのそれに戻る。王者は、決して崩れない。
フェリペが感情を完全にコントロールすると、バルシーノ伝統のティキ・タカ(パス回し)が、再びそのスピードと精度を極限まで高めた。
パンッ! パンッ! パンッ!
控え組の狂犬たちがどれだけプレスをかけても、ボールは彼らの足先を嘲笑うようにすり抜けていく。
圧倒的な個人技と、完璧な空間把握能力。これが、エリート層として育成されてきた天才たちの『真の実力』だった。
そして終了間際。
右サイドを鋭いドリブルで切り裂いたペドロからの高速クロス。
中央で待っていたCFエルカノが、マーカーを強靭なフィジカルで弾き飛ばし、豪快なダイビングヘッドを突き刺した。
2-2。
ピィィィィィィッ!!
そのまま、カルロス監督の長いホイッスルが試合終了を告げた。
無敵艦隊を相手に、控え組が見事なドローを演じ切ったのだ。
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4. カンテラの序列、新たなる航海へ
ミニゲーム終了後。
体力を使い果たしてピッチに大の字に倒れ込む控え組の選手たち。
そして、肩で息をしながら忌々しそうに氏真を睨みつける主力組の姿があった。
「……ふむ。見事な采配だったよ、フェリペくん。君が正気を取り戻してからの陣形は、鉄壁という他なかった」
氏真は、清々しい汗を拭いながら歩み寄る。
「……勘違いするな。次は、君という『異常』を最初から計算に組み込んだ上で、完璧に叩き潰す」
フェリペは冷たく言い放ったが、その瞳には、氏真という存在に対する明確な「敵対心」と、そして微かな「敬意」が混じっていた。
そこへ、カルロス監督がバインダーを叩きながら歩み寄ってくる。
「よく聞け、お前たち。今週末に行われる、カデテ・リーグの開幕戦の招集メンバーを発表する。相手は、潮風と鉄の街の気性が荒い連中……『バオルビFC』だ」
その言葉に、ピッチの空気が一気に張り詰める。
「GKクリストバル。DFレカルデ、オケンド……」
順当に主力組の名前が読み上げられていく。スタメン組が呼ばれ終わる。残るは、わずかな控えの席のみ。
カルロス監督は、バインダーから視線を上げ、ニヤリと口角を上げた。
「……MF、マテオ」
「ッ……!! ¡Sí!(はいっ!!)」
マテオが弾かれたように顔を上げ、歓喜の拳を強く握りしめた。
「そして――FW、吉良氏真」
ピッチが静まり返る。
主力組の鋭い視線が一斉に氏真に突き刺さる中、氏真は両手を腰に当て、堂々と胸を張った。
(……過去の没落も、昨日までの逆境も。すべては己の雅を証明するための、極上の前振りに過ぎない。最高の舞台が整ったというわけだ)
氏真の黄金の瞳が、未来の熱狂を予感して知的に輝く。
「……あはは。当然の人選だ。監督殿も、中々に『眼』が利くらしい」
ダミー人形としての屈辱から這い上がり、自らの意志と決断で実力をもぎ取ったマテオと氏真。
極東の鳳凰が、スペインの「無敵艦隊」という最強の船に正式に乗り込み、いよいよ世界という名の大海原へ、本格的な航海へと打って出る瞬間であった。




