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転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第3章 情熱の国 ~スペイン編~

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第46話:【盤上の孤島】

【あらすじ】

極限の身体操作による『雅』な一撃で、絶対的王者「無敵艦隊アルマダ」から同点ゴールを奪った吉良氏真。だが、その痛快な一撃は、カンテラ最高の頭脳である「静寂なる王」フェリペの冷徹な戦術的逆鱗に触れる結果となる。ピッチ全域を支配する完璧なシステムが牙を剥く。


1. 静寂なる王の修正


氏真の放った予測不能な一撃がネットを揺らした直後。


ピッチには、新参者にゴールを奪われた主力組ティトゥラレスの、怒りと戸惑いが交錯していた。


Aチームのビブスを纏う怪物たちの中で、ただ一人。


背番号10、「静寂なる王」フェリペだけは、一切の感情を顔に出すことなく、自らのこめかみをトントンと指先で叩いていた。


(……誤差エラーが生じた。あの日本人の予備動作を極限まで削ぎ落とした重心移動は、欧州の標準データには存在しない)


かつて「太陽の沈まない国」と称されたスペイン帝国を築き上げた、誇り高きハプスブルク家の末裔。


その高貴な血脈を受け継ぐフェリペのプレーは、まさに「絶対的支配」の体現だった。彼にとってピッチはチェス盤であり、敵も味方も等しく自らの計算式の一部に過ぎない。


「どうする、フェリペ。オケンドたちに、さらに激しく当たらせるか?」


アンカーのアルフォンソが、息を整えながら問いかける。


「いや、それは非効率だ」


フェリペの氷のような視線が、氏真を貫いた。


「物理的に触れられないのなら、触れる必要のない環境システムを構築すればいい。……アルフォンソ、日本人の周りの『補給線』を絶て。ストライカーなど、配球がなければただのカカシだ」


「¡Entendido!(了解した)。システムⅡへ移行する」


アルフォンソが指笛を鳴らし、最終ラインのレカルデ、オケンドたちに鋭いハンドサインを送る。


その瞬間、無敵艦隊の陣形が、まるで一つの巨大な生命体のように、ヌルリと変形した。


---


2. 幻月の歩


試合再開。


氏真は、最前線でボールを待っていた。


(……さあ、次はどう来る? 3人がかりでプレスをかけてくるか?)


だが、主力組のディフェンダーたちは、氏真に一切近づこうとしない。


代わりに、氏真とマテオたちの間に、絶妙な距離感で「網の目」のようなゾーンディフェンスの陣形を敷いたのだ。


「ウジ! 前を向け!」


マテオの右足から、芝生を切り裂くような強烈なグラウンダーのパスが氏真へ向かって放たれる。


(……来た。だが、敵の意識は完全に予とボールに向いている!)


氏真は、自分へ向かってくるボールと、それを狙って距離を詰める敵の重心のベクトルを俯瞰的に把握した。


力みは一切ない。呼吸を吐き切り、足首の緊張を完全に解き放つ。


>> スキル発動:【極・雅技:幻月のスルー:ランクB】

補助系 / 効果:極限の脱力と視線誘導による完全な気配の消失 / 発動条件:敵の意識がボールと自身に集中している瞬間


ボールに触れる直前、急激に重心を落として自身の存在感を完全に消し去り、ボールを見送る高度なフェイント。マークに来る敵のベクトルを無効化し、後方の味方へ決定的な好機を生み出す。


フッ……。


氏真はボールに触れる寸前、重力に身を任せてスッと膝を抜き、自身の気配をピッチから完全に消し去った。


強烈なパスは氏真の股を抜け、そのまま背後のスペースへと転がっていく。


「よしっ! 貰った!」


氏真の後方に走り込んでいた控え組のFWダビドが、ボールを受けようと飛び出す。


マテオから氏真へのパスコースが本命だと信じ切っていた主力組の虚を突く、完璧なスルー。


――かに見えた。


パァァンッ!


「……遅い」


ダビドの足元にボールが収まるコンマ一秒前。


戦術管理官・アルフォンソが、あらかじめそこに居たかのような完璧なポジショニングでパスカットした。


「なっ……!?」


ダビドが愕然と立ち尽くす。


マテオも、信じられないというように目を見開いた。


物理的な肉弾戦ではない。氏真の個人技を封じるのではなく、氏真を囮に使った先の展開すらも、フェリペの計算システムに組み込まれていたのだ。


氏真の周りには広大なスペースがあるにもかかわらず、そこへ通るあらゆるパスルートは、主力組の配置によって狂いなく塞がれている。


それはまさに、広大な海原ピッチのど真ん中にポツンと取り残された『孤島』だった。


「さあ、反撃カウンターだ。一気に沈めろ」


フェリペの足元から、定規で引いたような冷酷で正確なロングスルーパスが放たれる。


そこからは、まさに一方的な蹂躙だった。


「波乱の天才」ペドロが左サイドを野性的なスピードで切り裂き、CFエルカノが豪快にゴールネットを揺らす(1-2)。


戦意を喪失しかけた控え組の陣形を、無敵艦隊のパスワークが嘲笑うかのようにズタズタに切り裂いていく。


1-3。1-4。1-5。


控え組の選手たちは、もはや走る気力すら奪われ、膝に手をついて荒い息を吐いていた。


どれほど優れたストライカーでも、パスが出なければゴールは生まれない。これこそが、世界の頂点に君臨する「組織戦術システム」の圧倒的な暴力だった。


---


3. ストライカーの意地、極上の放物線バセリーナ


(……なるほど。これが『世界』か。前線で待っているだけでは、完全に干上がるように設計された見事な兵法だ)


点差はすでに絶望的。


だが、氏真は大量リードを奪われながらも、黄金の瞳の輝きを一切失っていなかった。


むしろ、その過酷な逆境を、奥底にあるストライカーとしての「エゴ」を極限まで研ぎ澄ませるための、至高の砥石と捉えていた。


(……このまま黙って討ち取られる予ではないぞ。点取り屋の矜持、見せてやろう!)

終了間際。スコアは1-6。


氏真は、孤島の状態から抜け出すため、自らディフェンスラインと中盤の間の空白地帯(ライン間)まで深く下がり、アルフォンソの死角へと入り込んだ。


「マテオくん! ここだ!」


氏真の澄んだ声に、顔を上げたマテオが最後の力を振り絞ってパスを出す。


氏真はボールを受けると同時に、これまでの優雅なリズムをかなぐり捨て、爆発的なスピードで前を向いた。


「行かせるかよ!」


CBのオケンドとSBのピサロが、左右から同時にタックルに来る。


だが氏真は、ボールを足裏で手前に引き、そのまま身体を反転させる鮮やかな『ルーレット』で二人の突進を無力化。マテオにボールを預け、最終ラインのレカルデの背後へ向かってトップスピードで駆け抜けた。


(……いける! 最終ラインとキーパーの間に、絶好の空白スペースがある!)


マテオから、完璧な放物線を描く浮き球のスルーパスが放たれる。


氏真は、レカルデの横をすり抜け、ペナルティエリア内に侵入。


空中から落ちてくるボールの勢いを、足の甲のクッションで完全に吸収し、ピタリと無音でトラップする。


目前には、シュートコースを塞ごうと猛然と飛び出してくる巨漢のGKクリストバル。


「……貰ったよ」


極限の緊張状態の中、氏真の肉体は完璧にリラックスしていた。


無駄な力みのない右足が、芸術的なループシュートを放つ。


ボールはクリストバルの頭上を越え、バルセロナの抜けるような青空に美しい弧を描き、そのままゴールネットに吸い込まれた。


ズバァァァンッ!!


完璧な崩し。圧倒的なシステムを個の力と味方との連携で破壊した、意地のゴール。


氏真は、マテオに向かって歓喜の拳を突き上げた。


――しかし。


ピィィィィィィッ!!


主審を務めるカルロス監督のホイッスルが、短く、そして非情な響きでピッチを切り裂いた。

カルロスの右腕が、ピシッと高く真っ直ぐに上がっている。


副審のフラッグも、無情に空を指していた。


「……¡Fuera de juego!(オフサイドだ)。ノーゴール」


---


4. 残酷なる遊戯チェス・マッチ


「……え?」


マテオが、信じられないという顔でその場に固まった。


氏真が振り返る。


そこには、抜け去ったはずのCBレカルデが、氏真が飛び出すよりも「わずかに2歩分」だけ前に出て、涼しい顔でディフェンスラインを押し上げている姿があった。


その横を、背番号10のフェリペが、淡々とした足取りで通り過ぎていく。


「見事な舞だったよ、日本人。……だが、君は『僕が用意した舞台の上』で踊らされたに過ぎない」


フェリペは、立ち尽くす氏真を一瞥して、冷たく言い放った。


「君の『点を獲りたい』というストライカーとしての本能。それを計算に入れれば、中盤に降りてきて、そこから焦って裏のスペースに飛び出してくることなど容易に予測できた。……あのスペースは、君の心を完全に折るために、僕がわざと『空けておいたトラップ』だ」

氏真の背筋に、ゾクリとした悪寒が走る。


偶然のオフサイドではない。


フェリペとレカルデは、氏真の「ストライカーとしてのエゴ」すらも利用し、わざと完璧なパスを通させ、シュートを撃たせた上で、オフサイドトラップという絶対的なルールでそのすべてをゼロに帰したのだ。


点取り屋にとって、これ以上ない完全なる屈辱。


ピィィィィィィッ!!


そのまま、試合終了を告げる長いホイッスルが鳴り響いた。


最終スコア、1-6。


圧倒的な敗北。世界最高峰のカンテラの壁が、巨大な城塞となって氏真の前に立ちはだかった瞬間だった。


控え組の選手たちが絶望に打ちひしがれてピッチに倒れ込む中。


氏真だけは、両手を腰に当て、頭上の太陽を眩しそうに仰ぎ見ていた。


「……あはは。あははははっ!」


氏真の口から、歓喜の笑い声が漏れた。


悔しさはない。あるのは、身震いするほどの極上の昂ぶりだ。


(……完敗だ。彼らの完璧なシステムの中で、予は完全に踊らされていた。……だが、だからこそ燃える。盤面システムを構築するのは軍師や司令塔の仕事。予の仕事は、いついかなる時も、あらゆる罠を破壊して『点を獲る』ことだ!)


相手がどれほど完璧な城壁オフサイドラインを築こうとも、それをたった一歩の駆け引きでブチ破ればいい。


軍師の計算すら及ばない、理不尽で絶対的な『矛』になればいいだけのことなのだ。


スペインの怪物たちによる、完璧な包囲網と残酷なトラップ。


どん底に叩き落とされた極東の鳳凰は、折れるどころか、世界最高峰のシステムすらも喰い破る『真のストライカー』への覚醒の炎を、その黄金の瞳の奥で静かに、そして激しく燃え上がらせていた。


【次回予告】

フェリペの圧倒的な戦術の前に、完全敗北を喫した氏真とマテオ。主力組からの冷ややかな視線という敗者の日常が始まる。その夜、有理と早川姉妹が振る舞う日本食を前に、氏真はある決意を固める。究極の駆け引きを完成させる下剋上が始まる!

第47話:【死角と二重の罠】。次なる天下へのパスを回せ!


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