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転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第3章 情熱の国 ~スペイン編~

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39/84

第38話:【空間の魔術】

【あらすじ】

バルセロナ郊外で開幕した「サマーフェスティバル」。初戦の相手であるバスク地方の強豪・FCレオンの圧倒的なフィジカルと徹底マークの前に、ピッチで完全に孤立する吉良氏真。激しい肉弾戦が繰り広げられる中、極東の鳳凰の脳裏に、かつて戦国の世で培った「空白」を操る絶対的な戦術が閃く。ボールに触れずして空間を支配する、氏真の美しき反撃が今、始まる。


1. 肉弾戦バタージャと、微笑む鳳凰


ドガァァァンッ!!


スタジアムに響き渡る、骨と筋肉が激突する鈍い音。


「……っ!」

FCレオンの巨漢ディフェンダー、ダビドによる容赦のない『Carga(カルガ/ショルダーチャージ)』を受け、吉良氏真の身体が再び乾いた天然芝の上を激しく転がった。青と臙脂ブラウグラナのユニフォームに、生々しい泥の跡が刻まれる。


「¡Levántate, japonés!(レバンタテ、ハポネス/立て、日本人!)」


「¡No tiene fuerza!(ノー・ティエネ・フエルサ/こいつには力がないぞ!)」


ダビドとセンターバックのハビエルが、倒れ込んだ氏真を見下ろし、闘牛のように荒い鼻息を吹き出しながら挑発する。


彼らの瞳には、エリートクラブに対する『Rabia(ガジャ/反骨心) 』が燃えたぎっていた。バスクの寂れた工業地帯で育った彼らにとって、この大会は家族の明日のパンを勝ち取るための死闘なのだ。


観客席からは、バルシーノを苦しめるレオンの激しい守備に対し、地鳴りのような歓声と、バルシーノへの強烈な『Pitos(ピトス/指笛・ブーイング)』が降り注いでいた。


VIPルームの防音ガラスに張り付き、舞が最新のタブレットを抱えながら悲鳴に近い声を上げる。


「ウジ様っ! ダメだ、レオンの選手たちのプレーの強度が異常すぎる! 日本のジュニア世代とは骨格の密度が違うのよ!」


「……ええ。ですが、舞。よく見てごらんなさい」


早川愛は、純白の扇子を静かに閉じ、ガラス越しのピッチを真っ直ぐに見つめていた。その美しい瞳には、一抹の不安すら宿っていない。


「あの方の瞳の奥……『戦の炎』は、微塵も消えてはおりませんわ」


ピッチの上。


氏真は、ユニフォームについた芝を払いながら、ゆっくりと立ち上がった。


全身の筋肉が悲鳴を上げ、荒い息を吐きながらも、その口元には――うっすらと、優雅な笑みが浮かんでいた。


(……あはは。痛いな。異国のわらべたちは、随分と血の気が多い。だが……これほどまでに予に執着し、群がってくるということは、つまりそういうことだろう?)


氏真の黄金の瞳が、ピッチ全体を俯瞰するようにスッと細められる。


彼の脳内に展開された盤面。そこには、一つのボールに群がるレオンの選手たちの「偏った重心」と、彼らが動いた「後」に生まれる広大な空間の形が、はっきりと可視化されていた。


(……鞠を狩ることに固執するあまり、自らの陣に巨大な風穴が空いていることに気づいていない。過去の没落も、この絶望的な逆境も、すべては予が己の『雅』を証明するための極上の前振りに過ぎない。ならば、予がその穴を、さらに押し広げてやろう)


中盤の底から陣形を整えてくれる司令塔レジスタ・松平基哉は、遠く日本にいる。


ならば、自らが『動くこと』で、敵の陣形そのものを内側から破壊すればいいのだ。


---


2. 空間の魔術師イリュージョニスタ


試合再開。


豊富な運動量でピッチを駆け回るマテオが、ルーズボールを回収する。


その瞬間、氏真はスッと重心を落とし、レオンのディフェンスラインの裏――ゴールへ向かってマークを外す動きを見せた。


「¡No lo dejes!(ノー・ロ・デヘス/逃がすな!)」


レオンのダビドとハビエルが、氏真を潰すために猛然と追走する。


だが、氏真はパスを引き出す直前、急激に膝の力を抜き、足裏全体で柔らかく芝を掴むようにしてピタリと急停止。そのまま流れるような体重移動で、今度は真逆の方向(中盤)へとUターンして走り出した。


「¡Mierda, ha cambiado!(ミエルダ、ア・カンビアード/クソ、方向を変えやがった!)」


氏真の変幻自在な動きに釣られ、レオンの屈強なディフェンダーたちが慌てて進行方向を変えようとスパイクで土を抉る。


しかし、その巨体ゆえの慣性の法則。筋肉の力みによる方向転換の僅かな遅れが、強固だったレオンの守備ラインに「巨大なギャップ」を生み出した。


氏真は、ボールに一切触れていない。


しかし、極限まで脱力した彼がピッチ上に描く不可視の軌跡が、レオンの選手たちをまるで操り人形のように引きずり回していた。


「¡Ahí está el hueco!(アイ・エスタ・エル・ウエコ/そこが穴だ!)」


その圧倒的な空白を見逃すマテオではない。


氏真がディフェンダー2人を引き連れて空けた広大なスペースへ、マテオから右ウイングのホセへ向けた、美しいスルーパスが通った。


「……¡Bien!(ビエン/よし!)」


バルシーノのベンチで、カルロス監督が力強く拳を握りしめる。


「信じられん……あのアジア人、自分が『Señuelo(セニュエロ/囮)』になることで、レオンのフィジカルの壁を無力化しやがった。ボールに触らずして、ピッチを支配している……面白いことをするのう!」


---


3. 究極の空白エスパシオと、雅の舞


戦局は、完全にバルシーノへと傾いた。


氏真のボールを持たない動きは、単なる囮の枠を超え、一種の芸術の領域へと達していた。


(……敵の殺気を感じ取り、刃が届く半歩手前で身を躱す。剣術の理合も、サッカーの駆け引きも、究極的には同じこと。流れに身を任せれば、自ずと道は開かれる)


氏真が左へ流れれば、右に道ができる。


氏真が立ち止まれば、そこにパスの経由地が生まれる。


「¡Márquenlo! ¡Márquenlo a él!(マルケンロ! マルケンロ・ア・エル!/奴をマークしろ! 奴につけ!)」


レオンのマルコス監督が、喉を枯らして叫ぶ。


戦術が崩壊し、パニックに陥ったレオンの守備陣は、ついに致命的なミスを犯した。


後半残り10分。バルシーノのカウンター。マテオが持ち前の運動量で中盤のボールを奪い切り、前線へと爆発的なスピードで駆け上がる。


その前方。


ペナルティエリアの境界線付近で、氏真がマテオからのパスを要求するように、スッと右手を挙げた。


「¡Lo tengo!(ロ・テンゴ/俺が潰す!)」


「¡Aplastémoslo!(アプラステモスロ/粉砕してやる!)」


氏真の動きに恐怖すら覚え始めていたダビド、ハビエル、そしてボランチのイグナシオ。3人の巨漢が理性を失い、雪崩のように氏真一人に向かって猛烈なタックルへと突進してきた。


マテオの左足から放たれた、地を這うような鋭い縦パス。


そして、全方向から氏真を押し潰そうと迫り来る、3人のディフェンダー。


絶体絶命の包囲網。


VIPルームの舞が、息を呑んで目を閉じる。


だが、氏真は逃げなかった。


パスをトラップしようと身構えるでもなく、全身の緊張を完全に解き放ち、ただ静かに、能を舞う演者のように両腕を広げてその場に佇んだ。


(……鞠に触れられないのならば。最後まで、触れないまでよ)


シュッ――。


マテオからの弾丸パスが、氏真の足元に到達した、まさにその瞬間。


>> スキル発動:【極・雅技:幻月のスルー:ランクB】

特殊系 / 効果:敵の予測を完全に裏切る空間創出 / 発動条件:極限の脱力と敵の過剰な殺気の誘導

己へ向かう敵のベクトルを極限まで引きつけ、ボールに触れる寸前で力を抜き軌道を譲る。物理的な接触を回避しつつ、背後に広大な「空白」を生み出す。


氏真は、ボールに一切触れることなく、トラップのタイミングで両足をふわりと開いた。


「……なっ!?」


レオンのディフェンダーたちの視界から、突如としてボールが「消えた」。


氏真の股をすり抜けたボールは、そのまま一直線に、氏真の背後にぽっかりと空いた無人の空間へと転がっていく。


氏真にタックルを仕掛けた3人のディフェンダーは、完全に空を切り、勢い余って同士討ちの形で芝生の上へともつれ込んで転倒した。


---


4. 初陣の喝采、そして続く群雄割拠


氏真のスルーによって生み出された、究極の空白。


そこに、トップスピードで左サイドから斜めに走り込んでいたのは――快足の左ウイング、パブロだった。


「¡Gracias, Uzi!(グラシアス、ウジ/最高のパスだ!)」


ディフェンダーが全滅し、キーパーと完全に1対1の状況。


パブロは、飛び出してきたキーパーの動きを冷静に見極め、右足でゴール右隅へと完璧なシュートを流し込んだ。


ズバァァァンッ!!!


ゴールネットが激しく揺れ、ボールが芝生の上を跳ねる。


パスの出し手であったマテオが、ピッチのど真ん中で力強くガッツポーズを掲げた。


「「「¡Gooooooool!(ゴォォォォォォル!)」」」


スタジアムの空気が、爆発した。


地鳴りのような歓声が、バルセロナの空を震わせる。


バルシーノのファンたちが一斉に立ち上がり、極東から来た背番号9の少年に向かって、熱狂的な拍手と喝采を浴びせた。


「¡Es un Ilusionista!(エス・ウン・イリュージョニスタ/まるで魔術師だ!)」


「¡Qué inteligencia!(ケ・インテリヘンシア/なんという知性だ!)」


カルロス監督は、バルコニーのフェンスを強く叩き、獰猛な笑い声を上げた。


「ハッハッハ! 見たか、ボールに一度も触れずに、ディフェンダー3人を完全に無力化しやがった!」


ピィィィィィッ!!


ほどなくして、開幕戦の終了を告げる長いホイッスルが鳴り響いた。


「あはは、マテオくんのパスも、パブロくんの抜け出しも、とても綺麗だったよ」


駆け寄ってきたチームメイトたちとハイタッチを交わし、氏真は汗で張り付いた前髪をかき上げながら、熱狂に包まれるスタジアムをぐるりと見渡した。


(……基哉くん。見てくれているかい? 予は、異国の地でも、予の『エレガンス』を証明してみせたよ)


サマーフェスティバルは、過酷な総当たり戦。初戦を突破したとはいえ、休む間もなく次なる強敵との連戦が待ち受けている。


しかし、氏真の胸中にあるのは恐怖や疲労ではない。次なる盤面で、どのような知的な駆け引きが繰り広げられるのかという、抑えきれない昂ぶりだった。


遠く離れた日本の空へと思いを馳せながら、吉良氏真は優雅に右手を天へと掲げた。


圧倒的な暴力を、一切の抗力を使わない『空間の支配』で打ち破った第1戦。鳳凰の過酷なサバイバルは、まだ幕を開けたばかりであった。



【次回予告】

サマーフェスティバル開幕戦を劇的な勝利で飾ったFCバルシーノ!

しかし、安堵する間もなく、グループリーグ第2戦のホイッスルが鳴り響く。

次なる相手は、スペイン南部アンダルシア地方から来た「超・守備的」な堅守の砦!

第39話:【ティキ・タカ】。次なる天下へのパスを回せ!


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