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転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第3章 情熱の国 ~スペイン編~

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第37話:【開幕 夏の祭典】

【あらすじ】

紅白戦で「空白」を支配し、圧倒的な美技でカンテラの天才たちからチームの心臓コラソンとして受け入れられた吉良氏真。一方、首都マドリードでは宿敵・織田凱斗が「白き帝国」のピッチで暴虐の限りを尽くしていた。ついに生き残りを懸けた最終試験「サマーフェスティバル」の開幕が迫る中、連日の過酷なトレーニングとヨーロッパ特有の激しい当たりが、氏真の雅な肉体を確実に蝕み始めていた。


1. 軋む肉体と、不在の司令塔レジスタ


ジリジリと焦げるような地中海の太陽が傾き、バルセロナの空が茜色に染まり始める。


カンテラの練習グラウンド。全体練習が終了した後も、吉良氏真は一人、ピッチに残って荒い息を吐いていた。


「……はぁっ、はぁっ……」


ポタポタと、氏真の顎から大粒の汗が乾いた芝生へと滴り落ちる。


バルシーノの誇りである青と臙脂ブラウグラナの練習着は汗で重く張り付き、立っているだけでも太ももの筋肉が微かに痙攣しているのがわかった。


(……ふむ。南蛮のつわものたちのプレッシャーは、想像以上だな。日々の鍛錬だけで、まるで重い南蛮甲冑を着たまま戦場を駆け回っているような疲労感だ)


氏真は、足元にあるボールを軽く踏み転がした。


スペインの選手たちは、身体の使い方が根本的に違う。彼らのプレーの強度は、日本のジュニア世代とは比較にならないほど高く、球際での激しい衝突コンタクトが日常茶飯事だった。


氏真の『雅の体幹』をもってしても、衝撃を完全に逃がし切ることはできず、見えないダメージが確実に筋肉の奥底へと蓄積されていた。


(……こういう時、基哉くんがいれば、中盤の底から『Pausa(パウサ/攻撃のテンポを落とすタメ)』を作り、予が休むための陣形を整えてくれたはずなのだがな)


氏真は、遠く離れた日本にいる司令塔レジスタの顔を思い浮かべ、小さく苦笑いした。


完全なる孤立無援。


弱音を吐く相手はいない。今週末から開幕する「サマーフェスティバル」で結果を残せなければ、待っているのは非情な帰国命令クビだけだ。


限界を迎えつつある身体に鞭を打ち、再びドリブルを開始しようとした――その時だった。


「……見つけましたわ。わたくしの、愛しい氏真様」


---


2. 異国に吹く、黄金の風


プァァァン! と、カンテラの巨大なゲートの向こうから、重厚で気品のあるクラクションが鳴り響いた。


ピッチの端に横付けされたのは、バルシーノのスタッフでさえも目を丸くするような、漆黒の最高級リムジンだった。


「な、なんだ……?」


帰り支度をしていたマテオたちスペイン人選手が、唖然として足を止める。


運転手が恭しく後部座席のドアを開けると、そこから降り立ったのは、純白の日傘を差した息を呑むほど美しい少女だった。


地中海の風になびく艶やかな黒髪。直射日光を跳ね返すような白皙の肌。


「愛おねえさん……!?」


氏真が黄金の瞳を丸くする。


「ウジ様ーーーっ!! やっと会えたぁ!!」


愛の背後から、最新型のタブレットを抱えたポニーテールの少女――舞が、弾丸のようなスピードで飛び出してきた。


「舞まで!? どうしてスペインに……!?」


「あはは! お父様が『ミツウロコHAYAKAWAホールディングス』のスペイン支社を開設することになってね! その視察とレセプションパーティーにかこつけて、愛ねーさまと一緒にプライベートジェットで飛んできちゃった!」


舞がVサインを作りながら、ウインクを決める。


「お父様の仕事を利用するなんて、相変わらずたくましいね……」


「氏真様……!」


愛が、日傘を放り出して氏真の元へ駆け寄ってきた。


汗まみれの氏真の顔を両手で包み込み、その黄金の瞳を至近距離で見つめる。


「ああ……なんということ。頬が少しこけていらっしゃる。それに、この筋肉の張り。異国の屈強な荒くれ者たちに揉まれ、どれほど過酷な日々を送られていたことか……! 不覚でしたわ!」


愛は、まるで傷ついた夫を迎え入れた戦国の正妻のように、悲痛な声を上げた。


「愛、大丈夫だよ。これも天下を獲るための修行だから……」


「いいえ! サマーフェスティバルを前に、この『Cansancio(カンサンシオ/疲労)』は致命的です! 舞、すぐにリカバリーの準備を!」


愛の凛とした号令に、舞がタブレットを高速で叩く。


「ラジャー! ウジ様の筋肉疲労度は現在85%! ヨーロッパ特有の硬い土と芝生が、下半身の関節に負担をかけてる。ミツウロコ科学班が開発した『対ヨーロッパ用・超回復プロテイン』と、愛ねーさまの『イベリコ豚の極上薬膳スープ』のハイブリッド処方で、一気に細胞を修復するよ!」


スペインの乾いた空気に、全く似つかわしくないドタバタ劇。


ぽかんと口を開けて見ているマテオたちに向かって、氏真は「あはは、予の自慢の家族ファミリアさ」と、誇らしげに笑ってみせた。


---


3. 夏の祭典サマーフェスティバル開幕


それから2日後。


愛と舞による「科学と雅の極限リカバリー」によって、見事に疲労を抜き去った氏真は、ついに決戦の朝を迎えた。


バルセロナ郊外のメインスタジアム。


スペイン国内のトップジュニアユース8チームが集う、生き残りを懸けたサマーフェスティバルの開幕戦。


観客席には、プロのスカウト陣や熱狂的な地元ファンが詰めかけ、地鳴りのような歓声とブーイング(ピトス)が渦巻いていた。


カルロス監督が、ロッカールームで戦術ボードを叩く。


「いいかお前たち。初戦の相手はバスク地方の強豪、FCレオンだ。奴らのサッカーは、バルシーノの対極にある。圧倒的な『Físico(フィジコ/フィジカル)』で中盤を破壊し、放り込んでくるぞ。……ウジザネ、お前は今日も『Falso Nueve(ファルソ・ヌエベ/偽りの9番)』だ。潰される前に、カベサを使え」


「承知したよ、カルロス監督」


氏真は、愛が縫い付けてくれた勝負のお守りを胸の奥に感じながら、不敵に微笑んだ。


ピィィィィィッ!!


熱狂のスタジアムに、開幕を告げるホイッスルが鳴り響く。


試合は序盤から、カルロスの言葉通りの凄惨な肉弾戦となった。


ガツゥンッ! バチィィンッ!


骨と骨がぶつかり合うような、重く鈍い音がピッチのあちこちで響く。青と臙脂のユニフォームを着たバルシーノの選手に対し、FCレオンの選手たちは、まるで闘牛のように鼻息を荒くして削りにきた。


(俺たちはエリートのバルシーノとは違う。泥を啜ってでも、ここでスカウトの目に留まらなきゃ、家族に楽をさせられねえんだよ!)


レオンのキャプテンの瞳には、エリートに対する泥臭いルサンチマンと、己の人生を懸けた悲壮なまでの情熱が宿っていた。


「¡Presión alta!(プレシオン・アルタ/高い位置からプレスをかけろ!)」


FCレオンの巨漢ディフェンダーが、パスを受けようと下がってきた氏真の背後から、容赦のないタックルを見舞う。


氏真の黄金の瞳が、敵の重心の偏りと呼吸の乱れを静かに見極める。直進的すぎる軌道。それは氏真にとって、隙だらけの突撃に過ぎなかった。


(……速く、そして重い。だが、直線的な猛進ならば、闘牛士マタドールの赤い布で躱すまで。鞠に触れる瞬間に力を抜き、相手の勢いを利用して陣形を崩す)


氏真は、ボールを受ける直前に極限まで全身の力を抜き、スッと半歩だけ軸をズラした。


巨漢ディフェンダーの激しいチャージが虚空を切り、巨体がバランスを崩して滑っていく。その瞬間、氏真はボールを柔らかなワンタッチでマテオへ落とす。


「¡Buena, Uzi!(ブエナ、ウジ/ナイスだ!)」


マテオが素早く前線へと展開し、バルシーノがリズムを掴みかけた――その時だった。


---


4. 孤立する雅、牙を剥くフエルサ


「¡No lo dejes jugar!(ノー・ロ・デヘス・フガール/奴にプレーさせるな!)」


FCレオンの監督が、ピッチサイドから怒号を飛ばす。


狙いが変わった。


FCレオンは、バルシーノのパス回しの起点となっている氏真に対し、戦術を度外視した『Fuerza(フエルサ/力)』によるマンマークを仕掛けてきたのだ。


氏真にボールが渡る瞬間、あるいは渡る前に、複数のディフェンダーが殺意を持って氏真の身体ボディごと削りに来る。


ガキィィィンッ!!


「……くっ!」


強烈なショルダーチャージを受け、氏真の身体が芝生の上を大きく転がった。青と臙脂のユニフォームに、生々しい土と芝の跡が刻まれる。


「ウジ様っ!!」


観客席のVIPルームから見下ろしていた舞が、悲鳴を上げる。


「ダメだ、レオンの選手たち、完全にウジ様を潰しにきてる! あのフィジカルの壁を越えるには、味方のサポートが必要なのに……!」


ピッチの上で、氏真は荒い息を吐きながら立ち上がった。


マテオたちバルシーノの選手たちは、激しいプレスの前に自陣に釘付けにされ、氏真との距離が大きく開いてしまっている。


(……なるほど。これがヨーロッパの本気の洗礼というわけか。個人の『雅』だけでは、この巨大な暴力フィジカルの波には飲み込まれる)


ズキリ、とタックルを受けた右膝が痛む。


中盤の底からゲームをコントロールし、氏真の負担を減らしてくれる司令塔レジスタ・基哉は、ここにはいない。


「……El japonés está acabado(あの日本人は終わりだ)」


FCレオンのキャプテンが、冷酷な笑みを浮かべて氏真を見下ろす。


完全なる孤立無援。


戦国の世で言えば、本陣から切り離され、敵の大軍勢の中にたった一人で取り残された状態。

スタジアムを包む熱狂が、異邦人を飲み込む巨大な渦となって氏真に襲いかかる。


(……基哉くん。君が言っていた通りだ。ここは、極限の戦場だ。だが――)


氏真は、滴る汗を拭い、黄金の瞳をギラリと光らせた。


窮地に立たされてなお、彼の唇は美しく弧を描いていた。


(過去の没落も、現代のこの絶望的な逆境も、すべては予が己の『雅』を証明するための極上の前振りに過ぎない。鞠に触れられぬのなら、触れずして空間を支配するまでよ)


>> スキル発動:【直感同調・空間認識パッシブ:ランクC】

補助系 / 効果:周囲の敵味方の重心と空間の歪みを俯瞰的に知覚する / 発動条件:極限の集中と肉体的な窮地

フィジカルの不利を補うため、脳内の戦場マップを一段階引き上げ、「空白地帯」を立体的に視認する。


孤立無援の圧倒的劣勢。


しかし、氏真の脳内には、ピッチ全体の選手の配置がまるでチェス盤のようにクリアに浮かび上がっていた。


この絶体絶命の窮地で、氏真の全身の細胞をさらに熱く焦がしていく。日本の鳳凰は自らの力だけで、新たなる「進化」の扉をこじ開けようとしていた。



【次回予告】

FCレオンの圧倒的フィジカルと徹底マークの前に孤立した氏真!

ボールに触れることすら許されない極限状態の中、氏真の脳裏に「究極の空間支配」のビジョンが蘇る。

第38話:【空間の魔術】。次なる天下へのパスを回せ!


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