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転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第3章 情熱の国 ~スペイン編~

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第33話:【情熱の国へ】

【あらすじ】

鹿児島での全日本U-12サッカー選手権大会の死闘から数ヶ月。吉良氏真と仲間たちは小学校を卒業し、地元の名門「静岡明青学園中等部」へと進学する。――少年から大人へと脱皮する過渡期の中、インパルス清水FC・ジュニアユースの初陣となる実践練習が迫る。そんな氏真の元に、GW明け、驚愕の報せが届く。


1. 新緑の学び舎


キィィン、コォォン……。


どこか気品を湛えた時計台のチャイムが、澄み渡る春の駿河の空に響き渡る。


4月。咲き誇る桜の絨毯を踏みしめて、吉良氏真は新たな門を潜っていた。


「明青国際大学附属・静岡明青学園中等部」。


ミツウロコHAYAKAWAグループの関連校であり、緑豊かな敷地に英国風のレンガ造りの校舎が並ぶ、県内屈指の名門私立中学校である。

小学生の幼さを完全に脱ぎ捨て、しなやかに伸びた背筋と、どこか浮世離れした気品。春風に揺れる前髪の隙間から覗く黄金色の瞳は、新入生たちの間で異常なほどの存在感を放っていた。


「ねえ、見て……あの人、凄く綺麗……」


「インパルスの吉良くんだよね? 全国大会のテレビで見た時より、実物の方がずっとカッコいい……!」


正門を通り抜ける他校から上がってきた女子生徒たちが、一斉に頬を染め、熱を帯びた視線を氏真へと送る。すれ違う誰もが、その圧倒的な「華」に思わず足を止めてしまう。


(……ふむ。現世の学び舎というのも、中々に壮麗なものよな。して、あの女子たちの熱い視線……。駿河の城下を練り歩き、領民たちに囲まれた古きあの日々を思い出すぞ。予の美学は、この時代でも万民の心を惹きつけると見える)


氏真は心の中で、ふと懐かしく思った。


だが、次の瞬間には、いつもの爽やかな少年の微笑みを顔に張り付ける。前世のことなど口にしないことこそが、この世に生まれたことの絶対的な理であることを、彼は本能で理解しているのだ。


「あはは、みんなおはよう! 天気が良くて、最高の入学式になりそうだね。僕の制服姿、似合ってるかな?」


軽やかに手を振る氏真の横から、おののくような、だがどこか誇らしげな声がかけられた。


「朝から相変わらずの注目度だな、吉良。君が普通に歩くだけで、新入生の動線が完全に狂っているよ」


歩み寄ってきたのは、インパルスの不動の司令塔であり、氏真の生涯の友、松平基哉だ。


ブレザーの襟元を正し、鋭い切れ長の瞳で校庭を見つめる姿は、さらに冷徹な将としての風格を増していた。


「あ、基哉くん! おはよう。基哉くんの制服姿も、すごく賢そうに見えて素敵だよ」


「……褒めても何も出ない。それより、インパルスの主要メンバーはほぼ全員、この明青学園にスライド入学している。ユースの提携校だから当然だが……ここからは本当の戦いだぞ。生ぬるい部活サッカーじゃない。大人の、プロの領域へ足を踏み入れるんだ」


基哉の引き締まった言葉に、氏真が頷こうとした、その時。


プーーーッ!


気品のあるクラクションの音が校門の前に響いた。黒塗りの高級リムジンから、一人の女性が降り立つ。


「氏真様、ご入学、心よりお祝い申し上げますわ」


周囲のざわめきが一瞬で消え去った。


そこにいたのは、高校生に進学し、その美しさにさらに恐ろしいほどの磨きがかかった早川愛だった。


風に美しくなびく黒髪、凛とした立ち振る舞い、直射日光を跳ね返すような白皙の肌。大人の女性へと脱皮しつつある圧倒的な美貌。中等部の生徒だけでなく、周囲の保護者や教師たちさえも、その神々しいまでの令嬢のオーラに息を呑んだ。


「愛おねえさん! 来てくれたんだね!」


「ええ。氏真様の新たな門出を、この早川愛が見届けるのは当然のことですわ。さあ、中等部での3年間、あなたがピッチで最も雅に輝けるよう、わたくしが私生活のすべてをプロデュースして差し上げます」


愛の、相変わらずの「重すぎる献身」に、基哉は「やれやれ、新学期早々、胃が痛みそうだ」と深くため息をついた。


だが、鳳凰の周囲には、すでに強固な繋がりと愛の土台が盤石に築かれていた。この基礎がしっかりとしているからこそ、その上に成功という高層ビルをいくらでも積み上げていくことができるのである。


---


2. 球の重みと、若き作戦参謀のタクト


入学式から一ヶ月。5月の夕暮れ。


インパルス清水FCのジュニアユース(U-15)練習グラウンドでは、U-13(1年生)とU-15(3年生)による、激しい紅白戦が行われていた。


ピーィィッ!


ピッチの中央。吉良コーチのホイッスルが鋭く鳴り響き、プレーが一時中断する。


「いいかお前たち! 小学生のぬるま湯は、卒業式と共に置いてきたはずだ! ここからは、レギュレーションのすべてが変わる!」


吉良コーチは、足元にあるサッカーボールを強く踏みつけた。


「人数は8人制から11人制へ! ピッチサイズは今までの約倍、大人のフルコートだ! 試合時間も、20分ハーフから40分ハーフへと一気に跳ね上がる!」


ドズンッ!


コーチが氏真へ向かって、重い音を立ててボールを蹴り出す。


「そして何よりボールが4号球から、大人と同じプロ仕様の『5号球』に変わる! 重さも、空気抵抗も、すべてが別物だ。筋肉の使い方を変えなければ、5号球の重さに脚が破壊されるぞ!」

氏真は、転がってきた5号球を足の裏でそっと押さえた。


ズンッ、と。4号球とは明らかに違う、ずっしりとした革の質量が、スパイクを通じて足裏に伝わってくる。


(……ほう。これが大人たちの使う、真の鞠か。ずっしりとした重み。皮の張り、弾力、どれをとっても、まさに本物の戦にふさわしい。予の血が騒ぐぞ)


氏真の瞳が、薄く黄金色に明滅する。


「インパルスの11人制システムは、小学生時代のポゼッションを基盤にした超攻撃的陣形だ! だが、フィジカルに勝る上級生相手に、今のままでは前線でボールが収まらん!」


吉良コーチの言う通り、U-13チームはU-15の先輩たちの激しいプレスと、重いボールの扱いに苦戦し、攻めあぐねていた。


「……膠着状態だな。大原! 行けるか!」


「……はいッ!」


吉良コーチの指示で、ベンチから一人の小柄な少年がピッチへと駆け出した。


飛び級で練習に参加している作戦参謀、大原由紀夫だ。体力的な理由で出場制限のある彼だが、

試合が動かなくなったこの重要な局面に、切札として投入されたのだ。


「由紀夫くん、頼むよ!」


氏真が少年の声で呼びかけると、由紀夫は静かに頷き、ピッチ全体を俯瞰するように視線を巡らせた。


(……先輩たちのプレスは速い。だが、つけ入る隙はある)


再開のホイッスル。


基哉からパスを受けた由紀夫は、相手ディフェンダーが寄せてくるコンマ数秒前に、右足を鋭く振り抜いた。


>> スキル発動:【精密展開レーダー・パス:ランクB】

補助系 / 効果:味方バフ(LUK微増・軌道補正) / 発動条件:ピッチ全体の空間把握


空間の虚を突き、味方の足元へピンポイントで届ける計算し尽くされたスルーパス。


「……そこだッ!」


ボールが、地を這うような低い弾道でディフェンスラインの裏を切り裂く。


そのパスの先には、すでにトップスピードで抜け出していた氏真の姿があった。


「あはは、最高のパスだね、由紀夫くん!」


だが、5号球特有の強烈な推進力と重さ。並の12歳なら、トラップの瞬間にボールの質量に押し負け、コントロールを大きく乱す場面だ。


先輩ディフェンダーたちが「弾くぞ!」とほくそ笑んだ瞬間。


>> スキル発動:【雅の呼吸エレガント・ブレス:ランクA】

特殊系 / 効果:自己バフ(極限脱力・TEC最大化) / 発動条件:ボールとの接触 信念という名の硬さを捨てて遊び感覚の柔らかさを持つことで、ボールの衝撃を完全に吸収するトラップ技術。


氏真は、走りながら空中で胸を僅かに後ろへ引き、ボールが持つ強烈な運動エネルギーを、自らの肉体のクッションで完璧に無効化した。最適に脱力することで柔軟に対応し、不運なバウンドさえも運の流れに乗るための契機に変えるのだ。


ストン、と。


重いボールが、まるで綿毛のように氏真の足元へピタリと静止する。


「……何だと!?」


守備に入ろうとした先輩ディフェンダーたちが、その異次元のトラップに目を見開いた。


「重い鞠も、優しく迎えてあげれば、こうして僕の足元で静かに羽を休めてくれるのさ」


氏真は少年の声で優雅に微笑むと、流れるような動作でゴール右隅へと鮮やかなシュートを突き刺した。


レギュレーションの変化。それは氏真にとって壁ではなく、自らの「雅」をより大きなスケールで表現するための、最高の舞台装置に過ぎなかった。


---


3. 蒼き眼の視察者と五つのオファー


「大変だよ!! ウジ様! ねーさま! 落ち着いて聞いて!!」


バーーンッ!


GWが明けたある日の夕方。三保の別邸にある「ミツウロコ・リカバリー・サロン」に、ポニーテールを激しく振り乱した早川舞が、扉を勢いよく開け放って飛び込んできた。


その片手には、最新型のタブレット端末が握られており、画面には無数の英文と、ヨーロッパ各国のクラブエンブレムが点滅している。


「舞……淑女の嗜みとして、扉は静かに開けなさいと何度言えばわかるのですか。氏真様の精神統一の邪魔ですわ」


愛が、特製の薬膳茶を淹れながら冷ややかに窘める。


「そんなこと言ってる場合じゃないってば! ウジ様に、とんでもないものが届いたの!」


舞が氏真と基哉の前にタブレットを突き出す。


画面に表示されていたのは、世界最高峰のメガクラブたちの名前だった。

• FCバルシーノ(スペイン)

• FCアムステルダム(オランダ)

• FCパリ(フランス)

• FCリスボン(ポルトガル)

• FCレアル・マフリット(スペイン)


「……これ、全部、ウジ様への『短期留学』……っていう名目の、極秘セレクションの招待状オファーだよ!! 7月の夏休み早々から約3週間、本場の練習に参加してくれって!」


「なっ……!?」


常に冷静な基哉が、思わず手にした戦術ノートを床に取り落とした。


「ヨーロッパの、それも名だたるメガクラブ5チームから、同時にオファーだと……!? 12歳の日本人に、こんなことはあり得ない……!」


その信じがたい光景を前に、氏真は画面に映る「FCバルシーノ」の青と赤のエンブレムを見つめ、3年前のある情景を呼び覚ましていた。


――彼らがまだ9歳の頃。


地獄の体幹トレーニングに励んでいた三保のグラウンド。別邸の敷地の外れから、その様子を鋭い眼差しで見つめる大柄な外国人の姿があった。


彼の名は、カルロス・アルベルト。 かつてスペインの至宝と呼ばれ、名門FCバルシーノで活躍した元スター選手であり、現在はFCバルシーノ U-15の監督を務めている人物だった。彼は知将であり、敵の戦術や弱点を的確に分析し、「ハイプレス」や「キルゾーンの構築」など、高度な戦術をカデテ年代の選手たちに落とし込むことで知られていた。


『オラ(やあ)……信じられないな。あのオレンジのシャツの9番』


当時、極秘視察に訪れていたカルロスは、手元の分厚いノートにペンを走らせながら、サングラスの奥で目を丸くしていた。


『あの年齢で、あれほど完璧な姿勢ポスチャーを維持している子供は、ラ・マシアの特待生の中にもそうはいない。ボールの置く位置、視線の振り方、すべてが滑らかでエレガントだ。まるでピッチ上でフラメンコを踊っているようだ……』


(……そうか。あの時、予をじっと観察していたあの男。……世界最高峰の育成組織のボスが、本当に予の情報を本国へ持ち帰っていたのだな)


氏真の胸の奥で、まだ見ぬ世界への好奇心という名の火が、パチパチと音を立てて燃え上がり始めた。


---


4. 孤高の旅立ちと、レジスタの覚醒


「……ついに、氏真様が世界へ羽ばたく時が来ましたのね」


愛は、淹れたての薬膳茶を氏真の前にそっと置き、鋼のような覚悟を宿した瞳で微笑んだ。


「ミツウロコHAYAKAWAグループの総力を挙げて、現地の最高環境をサポートいたしますわ。さあ氏真様、基哉様も。準備を」


愛がそう言いかけた時だった。


「……いや。僕は、行かない」


床に落ちた戦術ノートを拾い上げながら、基哉が静かに、だが重みのある声で告げた。


「基哉くん……?」


少年の声で、氏真が目を丸くして振り返る。


基哉は、鋭い切れ長の瞳で、氏真を真っ直ぐに見据えた。


「オファーのリストをよく見ろ。招待されているのは『吉良氏真』ただ一人だ。……それに、君が世界の化け物たちと渡り合うには、僕という安全地帯セーフティネットは邪魔になる」


「邪魔だなんて、そんなこと……」


「あるんだよ。」


基哉は、不敵な笑みを浮かべた。


「君は、完全な孤独アウェーの中で、自分の力だけを武器にして世界と戦ってこい。極限の環境が、必ず君を真のストライカーへと進化させる。」


「……それから、舞が掴んだ極秘情報によると、今回のオファーの1つ、バルシーノ最大のライバルである『FCレアル・マフリット』のセレクションには、あの『魔王』織田凱斗も参加を予定しているらしい」


「織田くんが、マフリットへ……!」


氏真の黄金の瞳が、一瞬にして鋭さを増した。織田凱斗は、FCレアル・マフリット U-15に進む宿敵であり、戦術や連携という概念を無に帰す、圧倒的なフィジカルと暴力的なまでの「個のエゴ」で敵を蹂躙する白き巨城の魔王である。


「奴も世界へ打って出る気だ」


基哉は、窓の外――宿敵のいる方角へと視線を移した。


「君が世界で魔王と対峙している間、僕は日本に残る。さっきの練習でも見ただろう? あの異次元の頭脳と戦術理論を持つ大原由紀夫と共に、僕は留守中のインパルスを国内最強の組織へ進化させてみせるよ。僕の司令塔レジスタとしての理想を、さらに高みへと引き上げるためにね」


それは、司令塔・松平基哉からの、最大の信頼と決意の証だった。健康と繋がりという基盤を共有する彼らは、互いに離れた場所でそれぞれの成功という頂を目指すことができるのである。


「……あはは。基哉くんには敵わないな」


氏真は、優雅に立ち上がり、基哉に向かって右手を差し出した。


「わかった。僕は一人で、世界の海を渡ろう。……ヨーロッパの鞠が、僕にどんな音色で話しかけてくるのか、今から大層楽しみだよ」


「ああ。せいぜい、向こうの連中のド肝を抜いてこい」


バシッ、と。


基哉が、その手を力強く握り返す。


鳳凰は、清水の狭い空を飛び出し、世界の覇権を巡る新たなる戦場へと、ただ一人でその大いなる翼を広げる決意を固めた。



【次回予告】

7月、夏休み。ついに情熱の国・スペインの地に単身降り立った氏真! 世界最高峰の育成組織「カンテラ」の練習に合流した氏真を待ち受けていたのは、言語の壁、内部競争、そして異次元のフィジカルを持つ若き天才たちだった。

さらに、宿敵・FCレアル・マフリットへ進む織田凱斗の影が、氏真の闘志をさらに燃え上がらせる。新たなる天下取りの舞台、スペイン編、極限のキックオフ!

第34話:【バルシーノの洗礼、カンテラの天才たち】。次なる天下へのパスを回せ!


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