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転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第2章 群雄割拠 ~全日本U-12サッカー選手権編~

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第19話【幻影の指揮者「風間孝太郎」】

【あらすじ】

鹿児島・ふれあいスポーツランド。全日本U-12サッカー選手権大会、予選リーグ突破を懸けた第3戦。インパルス清水FC・ジュニアの前に、西東京ドラシルFCが立ち塞がる。その中心に君臨するのは、幻影の指揮者マエストロこと風間孝太郎。彼の操る底知れぬマリーシア(狡猾さ)と心理戦は、インパルスの連携にノイズを生み出し、精神を蝕んでいく。守護神ジョンが復活し、盤石の布陣【2-4-1】で挑むインパルスだが、見えない罠の前に苦戦を強いられる。12歳の少年たちが、心理戦の極致に挑む。


1. 虚実の迷宮:西東京ドラシルFC


ふれあいスポーツランドの青々とした天然芝の上。


冬の海風の心地よさとは裏腹に、ピッチに漂う空気はひどく重く、淀んでいた。


予選リーグ第3戦、対峙するは西東京ドラシルFC。


その中心、トップ下の位置に鎮座する幻影の指揮者マエストロ風間孝太郎かざま こうたろうは、小学生らしからぬ底知れぬ不気味さを纏っていた。


(……ほう。あの子、まるで影を蹴っているようだね。叔父さん、ピッチ全体が彼の手のひらの上で歪んでいるように見えるよ)


氏真は、試合開始直後から言い知れぬ違和感に襲われていた。


風間は、自ら激しくスプリント(全力疾走)することはほとんどない。


しかし、彼が僅かに指を差し、何かを囁くたびに、インパルスの連携に目に見えない「ノイズ」が混じり始めるのだ。


それは単なる「マリーシア(ずる賢さ)」という言葉だけでは片付けられない、奇術のような心理戦マインド・ゲームであった。


「……みんな! ボールばかり見るな! 相手の目を見ろ!」


ピッチサイドから吉良コーチの鋭いコーチングが飛ぶが、インパルスの選手たちはすでに「迷宮」の入り口に立たされていた。




2. 攪乱:忍び寄る綻び


「……っ、何だ!? 今、誰か足を掛けたか!?」


普段は冷静沈着なアンカー・松平基哉が珍しく声を荒らげた。


キュッ、とスパイクが鳴る。基哉が前線へフィードを出そうとした瞬間、視界の端で敵の選手が不自然に倒れ込み、審判の視線を一瞬だけ奪ったのだ。


その僅か数秒のブラインド(死角)。


別の選手が基哉のパスコースを完全に遮断していた。


執拗な挑発トラッシュトーク、審判の死角を突いたユニフォームの引っ張り(ホールディング)、そしてファールをもらうための計算された演技ダイブ


西東京の選手たちは、風間という指揮者のもと、見えない反則の境界線を綱渡りするようにプレイしていた。


(……まるで古の兵法にある、終わりのない欺き合いか。奴らは、ファールをもらうこと自体を戦術に組み込んでいる)


基哉は冷や汗を流しながら、相手の戦術の異様さを分析していた。


風間の術中にはまり、基哉の論理的な配球は少しずつ狂い始める。


「くそっ、離せよ!」


サイドを切り裂くはずの朝比奈兄弟は、相手の巧妙なブロックとスクリーンにスピードを削がれ、苛立ちを隠せない。


中央の要塞、葛城大和と井原光のディフェンスラインにも、フラストレーションからくる微かなポジションのズレが生じていた。


そして何より、最前線に張るエース・氏真へのパスコースが、物理的な封鎖ではなく、出し手である基哉たちの「心理的な迷い」によって完全に塞がれてしまったのだ。


「……基哉くん。焦らないで。僕にボールを預けて」


氏真は少年のフリをして、優しい声で基哉を落ち着かせようとするが、基哉の耳には届いていないようだった。




3. 絶体絶命:崩れた城壁


前半終了間際、インパルス陣営の焦燥は頂点に達した。


焦りから前がかりになったインパルスの【2-4-1】の陣形。


基哉とディフェンスラインの間に、わずかなスペース(ギャップ)が生じる。


そこに、風間が放った一本のグラウンダーのスルーパス(キラーパス)が、鋭いくさびとなって打ち込まれた。


「……しまっ……!」


基哉が振り向いた時には、西東京のFWが完全にディフェンスラインの裏へと抜け出していた。


「させねえよッ!」


復活した守護神・八重洲ジョンが咆哮とともに鋭く飛び出し、シュートコース(アングル)を消しにかかる。


しかし、その瞬間。


別の敵選手が、ジョンの視界を遮るようにペナルティエリア内で大げさに倒れ込み、「ああっ!」と大声で審判にファール(シミュレーション)をアピールしたのだ。


「なっ……!?」


その一瞬の混乱と死角ブラインドを突き、抜け出した西東京のFWが無人のゴールマウスへ向けて、緩やかなシュート(コントロール・ショット)を流し込んだ。


スタジアムの観客全体が、西東京の先制点を確信し、息を呑んだ。


その、刹那。


「……あはは! まだ、この劇の幕を下ろすには早すぎるよ!」


ザザザザァッ!!


オレンジ色の閃光が、ゴールライン際へと滑り込んだ(スライディング・クリア)。




4. 鳳凰の帰還:決死のクリア


何故、彼がそこにいたのか。


最前線トップで孤立していたはずの氏真が、いつの間にか自陣の最後方まで戻っていたのだ。


氏真は美しい天然芝に体を擦りつけながら、限界まで足を伸ばし、ゴールラインを割る寸前で、ボールを外へと掻き出した。


「……吉良!? 何故お前がそこに……」


基哉が驚愕の表情で駆け寄る。


氏真は芝の緑が染み付いたユニフォームを軽く払い、冷徹な黄金の瞳で、ピッチの中央に立つ風間孝太郎を真っ直ぐに見据えた。


「……悪い予感がしたのさ。ピッチを吹き抜ける風の流れが、少しばかり『濁って』いたからね」


ピーッ、ピピッ!


直後に前半終了の笛が鳴る。スコアは0-0。


決死のクリア(ゴールライン・クリアランス)でかろうじて失点こそ防いだものの、インパルスのイレブンの表情は一様に暗かった。


自分たちの強みである超攻撃的サッカーを完全に封じ込められ、相手の掌の上で踊らされているという、最悪の流れのまま、ハーフタイムを迎えることになった。




5. ハーフタイム:戦術の正体


重苦しい空気が漂うベンチ。


選手たちが肩で息をし、スポーツドリンクを口にしながらイライラを募らせる中。


「……大原、お前の目にはどう映った?」


吉良コーチが、ベンチで戦況を分析していた10歳の作戦参謀・大原由紀夫に問いかける。


「……ええ。彼らの動きは、ただの反則ではありません。高度に組織化された『罠』です。ですが……そのトリガーが何なのか、まだ確証が持てません」


由紀夫が悔しそうに俯いた、その時。


氏真が一人、すっとホワイトボードの前に立った。


「みんな、顔を上げておくれ。……どうやら、あの風間くんの『奇術』の種が、少しだけ見えてきたよ」


氏真の言葉に、基哉がハッと顔を上げる。


「種だと? 奴のあの捉えどころのないマリーシアに、何か法則性パターンなどあるのか」


「……ああ。彼はただずる賢く立ち回っているわけじゃない。特定の状況下で、ある『独特な指示コーチング』を飛ばしている。」


「その声に反応して、西東京の選手たちの動きは劇的に変化トランジションしているんだ」


氏真はマーカーを手に取り、ホワイトボードに風間を中心とした奇妙な円と矢印を描き始めた。


(……奴らの陣形は、風間という一人の指揮官の『声』によってのみ稼働する絡繰からくり人形に過ぎぬ。ならば、その『糸』を断ち切るまでよ)


「彼らのマリーシア、そして狂いのない連動。その裏に隠された『指示の癖』。それさえ叩けば、あの幻影の迷宮は崩れ去り、ただの空き地に変わるはずだよ」


鳳凰の瞳に、圧倒的な知略の光が宿る。


迎える後半戦。


インパルス清水FCの「反撃の舞」が、西東京のマリーシアの迷宮を焼き払おうとしていた。

【次回予告】

氏真が見抜いた風間の「指示」の正体とは!? ホワイトボードに描かれた戦術が、西東京の奇術マリーシアを打ち砕く! インパルス清水は、予選全勝突破を飾り、決勝トーナメントへ進出することができるのか!?

第20話:【迷宮を裂く光、鳳凰の覚醒】。次なる天下へのパスを回せ!


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