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転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第2章 群雄割拠 ~全日本U-12サッカー選手権編~

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19/83

第18話【覚悟】

【あらすじ】

鹿児島・ふれあいスポーツランド。猛烈な海風がスタジアムを吹き抜ける中、全日本U-12サッカー選手権大会・予選リーグ第2戦は、いよいよ息の詰まる後半戦へと突入していた。 風が運んだ幸運な1点を守り抜くインパルス清水FC・ジュニアと、プライドを懸けて逆襲に転じる広島ヘリオスFC。十歳の軍師・大原由紀夫が守備網を統率する中、彼の「タイムリミット」がチームに予期せぬ戦慄を呼ぶ。限界を超えてぶつかり合うU-12の少年たち。果たして、奇跡の風は最後にどちらへ吹くのか。


1. 牙を剥く「三本の矢」と、軍師の限界


後半戦、1点のビハインドを背負った広島ヘリオスFCは、もはやなりふり構わぬ猛攻を仕掛けてきた。


彼らの代名詞である吉川きっかわ三兄弟の「三本の矢」。


そのパスワークは、前半の精密機械のような連動から、闘争心をむき出しにした、より直接的で暴力的な中央突破へと色を変えていた。


「……ほう。追い詰められてなお、その刃をさらに鋭く研ぎ澄ますか。吉川くんたち、まさに背水の陣だね」


キャプテンの吉良氏真は、1トップのポジションから自陣深くまで戻り、中盤の綻びを献身的に埋め続けていた。


氏真がアンカーの松平基哉と並走した一瞬、二人の間で静かな言葉が交わされる。


「基哉くん。古の兵法にも『昔の戦上手は、まず敵が勝てない完璧な備えを固め、敵に隙が生じるのを待った』とある。……今は耐える時だね」


「ああ。まずは絶対に崩れない陣形を敷き、奴らが焦って自滅する瞬間を待つ。」


「……僕たちの【2-4-1】の守備ブロックと、あいつの『眼』があれば、必ず弾き返せる」


基哉の視線の先には、後半の頭からピッチに投入された10歳の作戦参謀・大原由紀夫の姿があった。


由紀夫は中盤の底から、指先一つで周囲の選手のベクトルを軌道修正し、広島の三兄弟が入り込むスペースを先回りして潰し続けている。


それは、かつての兵法書『孫子』の極意を、現代のサッカー戦術へと自然に昇華させた「守りの美学」だった。


だが、少年たちの肉体を極限まで追い込む全国大会のプレッシャーは、その「完璧な備え」に予期せぬ亀裂を生じさせる。




2. 後半15分の戦慄:崩れた城壁


20分ハーフで行われるU-12の試合において、後半15分過ぎは最も体力が削られ、思考が鈍る「魔の時間帯」だ。


「……はぁっ、はぁっ……!」


由紀夫の顔は蒼白になり、胸をきつく押さえていた。


彼が抱える心臓の難病。ドクターストップがかかる『限界の20分』が目前に迫り、彼の思考と肉体に微細なノイズが発生し始めていたのだ。


インパルス清水FCの陣形が、その一瞬の軍師の「遅れ」によって引き裂かれた。


「行けッ! 抉り開けろ!」


広島の三兄弟が、巧みなクロスオーバー(交差する動き)でペナルティエリアへ迫る。


あえてボールを持たない長男が強烈なデコイ(囮)となって斜めに走った。


(……まずい、ラインが深い! 葛城さん、ステイです!)


由紀夫は声を張り上げようとしたが、心臓の軋みでコンマ数秒だけ言葉が遅れた。 その結果、中央を守る葛城大和と井原光の判断が迷い、二人のマークが一瞬だけ重なってしまった。


「……大和、左だ!」 「……いや、俺が追うッ!」


二人の巨漢の判断が交錯した刹那。その背後を突き、三男がボールを受けてペナルティエリアへ侵入した。


「させねえッ!」


葛城が慌ててスライディングで足を投げ出すが、ほんの一歩、届くのが遅かった。


相手の足首を深く刈り取ってしまい、鋭い笛の音がスタジアムに鳴り響く。


ピーッ! ――PKペナルティキック


「……っ、すまねえ!」


葛城が悔しさに芝を叩き、井原が唇を強く噛み締める。 由紀夫は「僕の指示が遅れたせいで……」と、芝生に膝をついて顔を歪めた。絶体絶命の危機。


インパルスのキーパーがプレッシャーで顔を青ざめさせた、その時だった。 ベンチが、動いた。


「……待たせたな。俺の門を、これ以上ガタガタにされてたまるかよ」


ビブスを脱ぎ捨て、交代ゾーンからゆっくりとピッチへ歩み入る一人の少年。


第1戦で左足首を負傷し、幾重にも分厚いテーピングを巻いた守護神・八重洲ジョンが、不敵な笑みを浮かべて帰ってきたのだ。


「ジョンくん……!」 「ジョン!」


蒼き眼の門番の帰還。それだけで、スタジアムの張り詰めた空気は一変し、インパルス陣営に強烈な熱が戻った。




3. 守護神の再臨と、鳳凰への悪戯


PKのキッカーは、ファウルをもらった三男。


放たれた渾身のシュートは、凄まじいスピードでゴール左隅を完璧に射抜く軌道を描いた。


だが、ジョンの蒼い瞳は、キッカーの踏み込みと足首の僅かな向きから、そのコースを完全に読み切っていた。


痛むはずの左足で力強くピッチを蹴り出し、宙を舞う。


バシィィィィン!!


「……ヘッ、甘えんだよ。この門は、俺が死んでも通さねえ」


横っ飛びでボールを弾き出したジョンのスーパーセーブ。 そのこぼれ球を、カバーに入った井原が即座に拾い上げる。


「ウジ! 走れェッ!」 「……見事な帰還だよ、ジョンくん。由紀夫くん、前線は予に任せて休むといい!」


電光石火のカウンターが発動した。


ボールは中盤を飛ばし、一気に前線の氏真の足元へ。


氏真は、必死に戻ってきた広島のディフェンダー二人を、まるで闘牛士のような軽やかなステップワークで置き去りにし、ペナルティエリアへと侵入した。


だが、焦って体勢を崩した相手ディフェンダーが氏真の軸足を激しく払い、今度はインパルスがPKを獲得する。


「……さて。この劇の、幕を引かせてもらおうか」


氏真がペナルティスポットにボールを置く。


息を吐き、助走を開始した。


しかし、踏み込もうとしたまさにその瞬間。


鹿児島の海から吹き込む気まぐれな突風がピッチを襲った。


強風に煽られ、蹴り出す寸前。ボールが、芝の上で「コロリ」と僅かだけ動いたのだ。


「……なっ!?」


タイミングと芯を外されたシュートは、無情にも右のゴールポストを直撃。


スタジアムに乾いた金属音が響き渡り、ボールはピッチへと跳ね返った。


追加点のチャンスは、悪戯な風と共に消え去った。


「……あはは! なんという悪戯だ! 最初の1点をくれた風の神様が、これで帳消しだと言っているみたいだね」


氏真は天を仰ぎ、呆れたように、だが清々しく笑った。




4. 修正の絆、1-0の軍略


試合はロスタイムへと突入した。


絶死のピンチを凌いだ広島ヘリオスFCは、全勢力を注ぎ込んだ最後のロングカウンターを仕掛けてきた。


再び三兄弟が中央を突破し、先ほどPKを与えてしまった葛城と井原の隙間を意図的に狙ってくる。


だが、今の二人に、二度同じ過ちを繰り返す迷いはなかった。


「……光、俺が前を潰す! 後ろを頼む!」 「……分かってる。次は絶対に、通さないッ!」


二人は先ほどの連携ミスを瞬時に自らで修正していた。軍師の言葉を待つまでもない。


葛城が持ち前のパワーで相手の進行を遅らせ、井原が絶妙な距離感でパスコースを完全に消す。


追い詰められた広島が苦し紛れに放ったシュートは、ブロックに入った葛城の足に当たり、枠の外へと大きく逸れていった。


ピーッ、ピーッ、ピーーッ!!


試合終了。 インパルス清水FC、1対0。


「……完封勝利、か。……風に笑い、風に笑われ、それでも最後に門を閉ざす。これもまた、極上の『雅』だね」


氏真は、限界を迎えてベンチで座り込む由紀夫に優しく微笑みかけ、テーピングを引きずりながらも堂々とゴール前に立つジョン、連携を修正してみせた四天王、そして冷徹に指揮を執り続けた基哉と順番に拳を合わせ、安堵の汗を拭った。


強風と意地がぶつかり合った激戦を制し、インパルス清水FCは予選リーグ突破へ大きく前進した。

【次回予告】

予選リーグ最終戦。全勝突破をかけた相手は、狡猾な策士集団、西東京ドラシルFC。精神を削る執拗な挑発とマリーシア(ずる賢さ)の前に、インパルスはかつてない苦戦を強いられる。戦国の世を生き抜いた氏真の「雅」が、盤外戦術の嵐の中で真価を問われる!

第19話:【マリーシアの迷宮、幻影の指揮者「風間孝太郎」】。次なる天下へのパスを回せ!

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