表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第1章 目覚め ~県予選編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/86

第13話【軋む翼】

【あらすじ】

全日本U-12サッカー選手権大会・静岡県予選。インパルスの進撃は、もはや「残酷」とすら形容されるものだった。朝比奈兄弟、葛城大和、井原光の四人を加え、【三鱗の絶対防壁ミツウロコ・イージス】を完成させたインパルスは、失点0のまま決勝へ進出する。だが、守備の負担から解放され、攻撃(雅)にリソースを全振りした氏真の12歳の身体は、神経系の限界オーバーヒートを迎えようとしていた。決勝の相手は、宿敵・中森権造率いるジュピター磐田FC。限界の身体で出陣する氏真に、中森の泥臭くも純粋な熱情が牙を剥く。


1. 圧倒的な進撃と、赤い警告


全日本U-12サッカー選手権大会・静岡県予選。


インパルス清水FC・ジュニアの快進撃は、もはや「残酷」とすら形容されるものだった。


1回戦、12-0。2回戦、8-0。


準決勝に至っては、県内屈指の堅守を誇るチームを相手に、開始わずか15分で4得点を叩き出し、相手チームを完全に戦意喪失させた。


その圧倒的な強さの理由は明白だった。


新加入の四人によって完成された【三鱗の絶対防壁】。


双子の朝比奈兄弟が「左右の烈風」としてサイドを完全に制圧し、中央では葛城大和がすべての空中戦を弾き返す。


随所で井原光が最後尾から寸分の狂いもないロングフィードを前線へ供給する。


これにより、これまでの【3-3-1】から【2-4-1】へと超攻撃的シフトへ移行。


司令塔の松平基哉とGK八重洲ジョンの守備負担は劇的に軽減され、キャプテン・吉良氏真は自陣での守備タスクから完全に解放され、その攻撃力(雅)をいかんなく発揮していたのだ。


そして何より、10歳の作戦参謀・大原由紀夫の存在が大きい。


U-12特有の「何度でも自由に出入りできる交代ルール(フライングサブ)」をあえて逆手に取り、ピッチに入っては一瞬でラインを修正してベンチへ下がる。


その神出鬼没なタクトが、チームに絶大な安定感をもたらしていた。


「……ふむ。県内のわらわたち、予たちの姿を見ただけで足が震えておる。これでは戦にならぬな。少しばかり、退屈が過ぎるというものだ」


12歳の吉良氏真は、オレンジ色のユニフォームを揺らし、三保のグラウンドで優雅に首を振った。


だが、その表情には微かな「陰」があった。


「……ウジ様、ちょっと止まって! バイタルデータに、緊急アラートが出てる!」


ベンチ裏から、アナリストの舞が血相を変えて飛び出してきた。


彼女のタブレットには、真っ赤に点滅する心拍数と、神経系の過負荷オーバーヒートを示すグラフが表示されていた。


「舞、どうしたんだい? 僕はとても気分が良いというのに」


「ダメだよ! 『雅の体幹』と新技『鳳凰の羽休め』。


「これ、12歳の成長途中の身体には情報処理の負荷が高すぎるの!」


「 守備の負担が減って攻撃に専念できるようになった分、ウジ様は自分の限界を超えた出力で無意識に動きすぎている。


「このままだと、決勝の途中で神経が焼き切れて動けなくなるよ!」


愛もまた、青ざめた表情で氏真の元へ歩み寄った。


「……氏真様。……私の不徳にございます。」


「あなたの魂を高く飛ばすことばかりに心を奪われ、この『幼き器』の物理的な限界を忘れておりました。休養が必要ですわ。」


最強の盾を手に入れ、最強の矛として研ぎ澄まされた代償。


それが、氏真の身体を内側から蝕み始めている。


圧倒的な蹂躙の裏で静かに進行する、決勝直前の最大の不安要素であった。




2. 決戦の朝、黄金の輝きと紅い警告


静岡県予選、決勝。


会場となるエコパスタジアムは、小学生年代の試合とは思えない異様な熱気に包まれていた。


対戦カードは、圧倒的な技術と新たな城壁を手に入れたインパルス清水FC対、組織守備と無尽蔵の走力で他を寄せ付けないジュピター磐田FC。


磐田のフォーメーションも、清水と同じ【2-4-1】。


まさに、システムとシステムの真正面からの激突である。


「……ふむ。今日は風が心地よいね。叔父さん、見てごらん。スタンドの観客まで、皆が鞠の行方を占う軍師のような顔をしているよ」


氏真はいつものように雅な微笑みを浮かべていた。

だが、スパイクの中で、その足先は微かに震えている。


「……ウジ様、本当にいいの?」


ベンチ裏の作戦室。舞が厳しい顔でタブレットを突き出した。


画面には、氏真の神経伝達速度と心肺負荷が、警告の赤色レッドゾーンに片足を突っ込んだ状態で表示されている。


「レーシングカーのエンジンを、まだ未完成の車体に積んで全開で走るようなものだよ。」


「後半、確実に限界が来る。大原くんの出場時間(20分)も、交代のタイミングを間違えれば命取りになる」


愛もまた、氏真の肩にそっと手を置き、沈痛な面持ちで頷いた。


「……氏真様。勝利への渇望は尊いものですが、この器が壊れては元も子もございません。」


「もし無理だと思われたら、すぐに吉良コーチに交代を申し出てくださいませ」


「あはは。愛、舞。心配しないで。予は、もう逃げないと決めたんだ」


氏真は、自らの震える膝を両手でパチンと叩いた。


「過去に彼らに負けたあの泥の味……。」


「あれを『雅』な記憶に書き換えるまでは、僕は折れやしないよ。」


「それに、今は、最高の仲間たちが後ろに控えているからね」


氏真の黄金の瞳には、真の覇者の光が宿っていた。




3. 太陽の男、中森の帰還


「おーい! ウジちゃーん! 元気してたかー!?」


ピッチに入場した瞬間、スタジアムの張り詰めた空気を一変させる大声が響いた。


サックスブルーの10番を背負った少年

――磐田のエース、中森権造が、満面の笑みでこちらへ走ってくる。


かつてインパルスに二度の絶望を味わわせた張本人は、憎たらしいほど、ひまわりのような底抜けの明るさを纏っていた。


「中森くん。相変わらず、声が大きいね。……今日は以前のように、泥を噛まされるつもりはないよ。僕たちの新しい『城』は、そう簡単には崩せない」


氏真が背後の四天王たちを一瞥すると、中森はガバッと氏真の肩を組んだ。


「ははは! 泥はいいぞ、ミネラルたっぷりだ! でも今日は、もっと旨いもんを食おうぜ。……『全国への切符』っていう最高のご馳走をさ!」


中森は白い歯を見せて笑う。


「俺さ、山で修行してきたんだ。『ボールは友達、ゴールは恋人、芝生はベッド!』……なんてな! ほら、うちの四連星カルテットもやる気満々だぜ!」


中森の背後には、南、北田、東家、西条の四人が、一分の隙もない陣容で控えていた。


彼らの瞳には、中森の熱に当てられた、迷いのない信頼が宿っている。


「……ほう。四人が一人のために、一人が四人のために。中森くん、君は本当に、人の心を束ねるのが上手いね」


「技術じゃお前(氏真)に勝てねえ。なら、俺は足がもげるまで走る! 心臓が止まるまで笑う! それが俺の『魂』だ!」


中森はパチンとウィンクをして、自分のポジションへ駆けていった。その背中は、泥臭く、それでいて太陽のように眩しかった。




4. 試合開始:雅の先制、魂の咆咆


ピーッ!


全国への切符を懸けた、決勝戦の前半20分の笛が鳴る。


序盤、主導権を握ったのはインパルスだった。


「行くぜェッ!」


右サイドバックの朝比奈翔が、爆発的なスピードでサイドを駆け上がる。


相手のプレスを引き付けた直後、後方の井原光へバックパス。


「……ウジ、裏だ」


井原の冷静な声とともに、最前線へ向けて精密機械のようなロングフィードが放たれる。


パスの先には、すでにトップスピードで駆け出していた氏真の姿があった。


「……さあ、開幕の舞だよ」


氏真は、背後からのボールに対し、空中で優雅に跳躍。


相手ディフェンダーの競り合いを嘲笑うかのように、空中でピタリとボールの勢いを殺す。


【極・雅技:鳳凰の羽休め】。


空中で一瞬のタメを作り、着地と同時に相手キーパーの逆を突くふわりとしたループシュート。


ボールは美しい放物線を描き、磐田のゴールネットを揺らした。


1 - 0!


「よしっ!」舞がベンチでガッツポーズを作る。


だが、中森は先制されてもなお、笑っていた。


「ナイスゴール! ウジちゃん、やっぱりお前は天才だ! ……でもな、天才ってのは、一度転ぶと起き上がるのが大変なんだぜ!」


前半10分。ジュピター磐田FCの猛反撃が始まった。


「行くぞお前ら! 俺に続けぇ!」


中森が咆哮し、磐田の選手たちが怒涛のプレッシングを仕掛ける。奪ったボールは、一直線に前線の中森へ。


「させねえよッ!」


インパルスの誇る巨漢センターバック、葛城大和が重戦車のように立ち塞がる。


だが中森は、葛城の強烈なチャージを正面から受け止めながら、強引に身体を反転させた。


倒れ際、もつれながらもつま先で泥臭くボールを押し出す。


「……何という執念。これが組織の真の力か!」


カバーに入った基哉が驚愕する。


「……一人ひとりの能力は平均的に優秀だが、中森という核が、奴らの出力を120%に引き上げている!」


こぼれ球に反応したのは、やはり中森だった。


倒れた状態からバネのように跳ね起き、最後はキーパー・ジョンの目の前へ身を投げ出す。


「しゃあああッ!」


ジョンのパンチングよりも一瞬早く、中森の顔面がボールを捉えた。


ボールは無情にも、インパルスのゴールへ吸い込まれる。


1 - 1。


「痛てて……! でも、入ればこっちのもんだ! ジョンくん、今の顔面シュート、どうだった!?」


中森は鼻血を流しながら、ジョンの前で親指を立てた。


ジョンは呆れながらも、「……フン。次はその鼻っ柱ごとへし折ってやるよ、鼻血野郎」と、微かに口角を上げた。




5. シーソーゲーム:加速する熱狂と、軋む身体


前半15分。試合は死闘のシーソーゲームへと変貌していた。


左サイドバックの朝比奈翼が、精密な弾丸クロスを上げる。


「基哉くん、ここだ!」


「分かっている。君の動きは、僕の盤面の上だ」


基哉の絶妙なフリック(すらし)。氏真が鮮やかなステップで磐田のディフェンダーを抜き去り、ゴール右隅へ流し込む。


2 - 1!


しかし、そのわずか3分後。


中森が、ジュピター磐田FCの選手全員を前線へ引き上げるという、無謀とも言える総攻撃を仕掛ける。


「俺たちが走るのを止めた時が、負ける時だ! 走れ! 笑え! 勝利を信じろ!」


中森の鼓舞に応え、磐田の選手たちがピッチを縦横無尽に駆け巡る。


数的な不利を、中森の「無尽蔵のスタミナ」と「泥臭さ」が埋めていく。右サイドからの強引なクロスに、中森が葛城と井原の間を割ってダイビングヘッド。


2 - 2。


「はあ、はあ……! ウジちゃん、まだまだ行けるよな!? 俺は、お前ともっと踊りたいんだ!」


中森はユニフォームで顔の汗を拭い、太陽のような笑顔を向けた。


だが、その直後。


氏真の視界が、一瞬だけぐにゃりと歪み、白く霞んだ。


>> 警告:神経系負荷 95%到達。

>> 運動能力に一時的なノイズが発生しています。


(……くっ。こんなところで、器が悲鳴を上げるか……!)


「……ああ。……僕も、中森くん。君との戦い、最高に愉しいよ」


氏真は、膝の震えを悟られないように、優雅に髪をかき上げた。


愛はベンチで祈るように手を組み、舞は震える指でタブレットを見つめている。


吉良コーチは、ベンチに控える大原由紀夫と視線を交わした。


2対2の同点で迎えるハーフタイム。


静岡の頂点を決める戦いは、12歳の少年たちの限界を超えた、熱き「後半戦」へと突入していく。

【次回予告】

ついに迎えた後半戦。身体の限界オーバーヒートを迎えつつある氏真。磐田の怒涛の猛攻の前にインパルス絶体絶命! その時、ベンチが動く。ピッチ上の監督・大原由紀夫の投入が、戦局を劇的に変える! 宿敵・中森との三度目の正直、決着の時!

第14話【ジュピター磐田FC戦(完結編)~執念と雅、頂の握手~】。次なる天下へのパスを回せ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ