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『The Renaissance striker Uzizane(転生ストライカー氏真)』 ~戦国最低スペック大名が現代に転生したら、天才ストライカーになってしまった件~  作者: みなも
第7章 破 ~ユースCL覇道編~

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116/161

第113話:【母の微笑みと微かな翳(かげ)り】

【あらすじ】

ユースCL、ラウンド16第2戦。後がないバルシーノは、因縁のノースロンドンFCをホームに迎える。ジョゼップ監督が繰り出す新たな布陣、そして氏真が導き出す一手が、激戦の行方を大きく動かしていく――。

【あらすじ】

ユースCL、ラウンド16第2戦。後がないバルシーノは、因縁のノースロンドンFCをホームに迎える。ジョゼップが繰り出す新たな布陣、そして氏真が導き出す一手が、激戦の行方を大きく動かしていく――。


1. 崖っぷちのロンドと黒い稲妻


地中海からの柔らかな春風が、シウダ・エスポルティバのピッチに降り注いでいた。


3月中旬、快晴。


ユースCL・決勝トーナメント、ラウンド16第2戦。


ロンドンでの第1戦を1―2で落としたFCバルシーノ・フベニルAは、勝ち抜けのために2点差以上の勝利が必要という、後がない状況でホームのピッチに立っていた。


メインスタンドのVIPエリア最前列では、HAYAKAWAミツウロコホールディングス・スペイン支社CFOの吉良有理が、穏やかな表情でピッチを見つめている。その隣の記者席エリアには、大型の一眼レフカメラを構えたルナ、そして戦術ノートを手にした女子チームの司令塔・エレナの姿があった。


「ウジザネ、右ウイングで先発ね」


ルナがファインダー越しに背番号29を捉える。


「ええ。前節モンテFC戦で試した『立ち位置による空間支配』を、ジョゼップ監督はさらに磨いてきたはずよ」


エレナが手元のノートにペンを走らせる。


バルシーノの前線は、左にレオン、中央にエステバン、そして右に氏真を配した[4-3-3]。


対するノースロンドンFCも[4-3-3]の布陣だが、ボール保持時には左サイドバックのアッシュ・ゴールが中盤へ絞り込む可変システムを仕掛けてくる。


ピーーーッ!


冷涼な空気を切り裂き、運命の第2戦が始まった。


立ち上がり、バルシーノは右サイドバックのアントニが内側のアンカー脇へポジションを取り、中盤の底に厚みを作ってパスを回し始めた。サビエルとテンテがテンポよくボールを動かし、縦へ差し込む隙を窺う。


しかし、ノースロンドンFCの守備組織は揺るがない。


ビリー・ニール監督の緻密な規律のもと、主将CBトニー・スミスが最終ラインを統率し、中盤では屈強なパトリック・オリベラと、日系人のジュン・ハシモト・クレイトンが鋭い出足でスペースを消していく。


「中を締めろ! 焦らんでええ、網にかかるのを待つんや!」


ジュンの鋭い声がピッチに響く。


焦燥が、わずかにバルシーノの判断を狂わせた。


前半18分。敵陣中央でエステバンが狙った縦パスが、オリベラの伸ばした足に引っかかる。


こぼれ球を回収したジュン・ハシモトが、素早い反転から前線へ鋭いロングフィードを放った。


「クリスチャン、走れぇッ!」


センターサークル付近から、197センチの巨影が滑るように加速する。


背番号9、クリスチャン・モーゼス。


カバーに入ったCBカレスが必死に身体を寄せるが、クリスチャンは長いストライドのまま、接触の衝撃を腰の脱力でふわりといなした。


カレスの重心が外側へ流れる。


ペナルティエリア中央へ侵入したクリスチャンは、GKトニ・ラマジェが間合いを詰めるより一瞬早く、左足を鋭く振り抜いた。


ドバァンッ!


強烈なライナーがゴール右隅へと突き刺さる。


前半18分、0―1。


2戦合計スコアは1―3。勝ち抜くためには、残り時間で3点を奪わなければならない。


重苦しい空気がスタジアムを包み込んだ。


---


2. 偽9番の調律と聖騎士の同点弾


ベンチ前で腕を組むジョゼップ・カサス監督が動いた。


ピッチへ向けて鋭い指笛を鳴らし、前線の3人へ短い手合図を送る。


「ポジションチェンジだ! 氏真、中央へ入れ!」


前線の配置が瞬時に組み替えられた。


右ウイングの氏真が最前線の中央へ。中央のエステバンが左ハーフスペースへスライドし、左のレオンが右サイドの大外へ移動する。


氏真が中央に入った瞬間、ノースロンドンの守備陣に微かな迷いが生じた。第1戦で頭部負傷により前半で退場していた氏真の正確な間合いを、相手守備陣はまだ掴みきれていなかったからだ。


前半35分。


自陣深くでフェランが相手の縦パスをインターセプトし、中盤のサビエルへ預ける。


サビエルが前を向いた瞬間、最前線にいた氏真が音もなく相手ボランチの背後へポジションを下げた。


相手CBのトニー・スミスが眉を寄せる。


(ついて行くべきか、最終ラインに留まるべきか――)


氏真がボールを要求せず、ただ自らの背中を相手ボランチの死角へ潜り込ませたことで、トニー・スミスの判断が一瞬遅れ、思わず二歩前へと吊り出された。


その二歩によって、トニー・スミスの背後にぽっかりと空間が生まれた。


「エステバン!」


サビエルの右足から、氏真が空けたスペースへ鋭いグラウンダーのパスが通る。


走り込んだエステバンが、前を向いた状態でボールを受けた。


「トニー、戻れ! 中央を固めろ!」


ジュンの叫び声に、ノースロンドンのディフェンスラインが一斉に内側へ収縮する。


だが、中央へ相手の意識を集めることこそが狙いだった。


密集の極限で、エステバンは迷うことなく右足のアウトサイドで右大外へ浮き球を供給した。


そこへ、相手左SBアッシュ・ゴールの背後から、トップスピードに乗ったレオンが侵入する。


バウンドに合わせたレオンの右足が一閃された。


ズバァァァッ!


鋭利な弾丸ライナーがGKのニアサイドを撃ち抜き、天井ネットを激しく揺らした。


――バシィィンッ!


前半35分、1―1。


2戦合計スコアは2―3。


「"Yeeesss!"」


レオンが咆哮し、コーナーフラッグへと疾走する。


駆け寄ったエステバン、そして相手CBを引きつけて空間を切り拓いた氏真と力強く拳を突き合わせた。


1―1の同点で前半を折り返したロッカールーム。ジョゼップ監督は戦術ボードの前に立ち、静かに告げた。


「よく追いついた。だが、延長ではなく90分で仕留める。後半、さらに陣形を前へ進めるぞ」


---


3. 3-4-3の呼吸と王子の反撃


後半開始。ジョゼップ監督は二枚の交代カードを切った。


両サイドバックのアントニとキケを下げ、右センターバックにアレハンドロ、そして中盤の左に怪我から復帰したゲームメーカー、ダビアン・シヴァを投入する。


システムを[3-4-3]へと移行。


最終ラインはアレハンドロ、カレス、フェランの3バック。


中盤は左にダビアン、中央のボランチの位置にテンテ、サビエル、そして右の位置にイネスが配置される。


「ダビアンが入ったわね」


スタンドのエレナが身を乗り出す。


「後方を3枚で安定させつつ、中盤の配球力を引き上げる配置よ。相手のハイプレスに対して、逃げ道と前進ルートが同時に増える」


ピッチへ戻ったダビアンは、足首のテーピングを確かめると不敵に笑った。


「お待たせ。借りを返す時間だ」


ダビアンの存在は、中盤のボール運びに落ち着きをもたらした。


ジュン・ハシモトが激しいプレスを仕掛けてきても、ダビアンはワンタッチでボールを逃がし、テンポよく左右へ散らしていく。


後半14分。


右サイド深くでボールを持ったイネスから、中央のダビアンへマイナスのパスが入る。


ダビアンは右足のアウトサイドでボールの芯を捉え、ディフェンスラインの頭上を越えるロブパスをペナルティエリア左のハーフスペースへ落とした。


そこへ背後から飛び込んできたのはエステバン。


トニー・スミスが身体を寄せてくるが、エステバンは体幹の強さで抑え込み、胸トラップで足元へボールを収める。


着地と同時に右足でシュートフェイントを入れ、カバーに入ったオリベラの重心を外すと、左足のインサイドでゴール右隅へと流し込んだ。


――パサッ。


後半14分、2―1。


2戦合計スコアは3―3。ついに振り出しに戻した。


「¡Vamos!」


エステバンが叫び、ベンチの控え選手たちも一斉に飛び出して歓喜の輪が広がる。


---


4. 5レーンの連鎖と決着の白鳥


同点に追いつかれたノースロンドンFCも、ロングボールをクリスチャンへ集めて反撃を試みる。


後半24分にはクリスチャンの高い打点のヘディングがクロスバーを叩き、バルシーノのゴールを脅かした。


このままでは延長戦に突入する。


だが、ジョゼップ監督の狙いは90分での決着にあった。


後半31分。


監督はアンカーのテンテに代え、背番号25のフェリペをピッチへ送り出す。


イネスが左へ、ダビアンが中盤の底へ下がり、フェリペが右のインサイドハーフへ入る。


これにより、バルシーノの陣形は[3-2-5]へと姿を変えた。


後方は3バック。中盤の底にサビエルとダビアンの2枚。


そして前線には、左大外にイネス、左ハーフスペースにエステバン、中央に氏真、右ハーフスペースにフェリペ、右大外にレオンの5枚が並ぶ。


左の大外にイネスが張り、右のタッチライン際にはレオンが広がる。その間にエステバン、氏真、フェリペが切れ目なく並び立つ。


ノースロンドンの4バックが一瞬、互いの顔を見合わせた。


誰が出る。誰が残る。誰が誰を受け渡す――。


5つのレーンを同時に埋められたことで、相手ディフェンスラインの受け渡しが狂い始めた。


後半35分。


サビエルからダビアンへ、ダビアンから左のイネスへ。


イネスがワンタッチで内側のエステバンへ預け、エステバンから右ハーフスペースのフェリペへとダイレクトパスが繋がる。


相手の守備ブロックが左右に大きく揺さぶられる。


フェリペが前を向いた瞬間、中央の氏真が相手CBトニー・スミスの視野の隅へ身体を傾けた。トニーの重心がわずかに氏真へ引っ張られた刹那、フェリペからペナルティエリア手前のエステバンへ鋭い縦パスが入る。


エステバンが右足を振り抜く。


強烈なミドルシュートが枠を捉えるが、ノースロンドンのGKが決死の横跳びでこれを弾いた。


ボールが高く宙へ跳ね上がる。


GKが体勢を崩し、DF陣が足を止めた混戦のゴール前。


だが、エステバンが右足を振り抜いた瞬間、氏真はゴールへ向かって闇雲に走らなかった。


相手GKの身体の傾き。シュートの勢い。弾かれるなら、どこへこぼれるか。


一瞬の観察ののち――氏真は、まだ誰もいない空間へ静かに一歩を踏み出していた。


地面に落ちたボールのバウンドに合わせ、力を抜いた右足のインサイドで優しく押し込む。


パシィィンッ!


無人のゴールネットへ、ボールが吸い込まれていった。


――バサァッ!


後半35分、3―1。


2戦合計スコア、4―3。


「うおおおおおぉぉッ!」


歓声がシウダ・エスポルティバを揺るがす。


氏真は駆け寄ってきたレオン、エステバン、フェリペ、ダビアンに抱きしめられ、柔らかな笑顔を浮かべた。


---


5. 5-4-1の鉄壁と歓喜の凱歌


逆転を許したノースロンドンFCは、後半終盤、クリスチャンを目掛けて長いボールを次々と放り込んできた。


後半40分、ジョゼップ監督は最後のカードを切る。


体力を使い果たしたエステバンを下げ、ボランチのポージャン・ペレスを投入した。


その瞬間、前線にいたイネスとレオンが左右のウイングバックの位置まで一気に後退する。


アレハンドロ、カレス、フェランの3枚のCBをイネスとレオンが挟み込んで5バックを形成。その前にダビアン、サビエル、ポージャン、フェリペの4枚が並び、前線には氏真が1枚残る[5-4-1]の守備ブロックが完成した。


「跳ね返せ! 集中を切らすな!」


GKトニ・ラマジェの声が響く。


アディショナルタイム3分。


ジュン・ハシモトが右サイドから放り込んだクロスに、クリスチャンが飛び込む。


しかし、カレスとアレハンドロが身体を密着させて自由を奪い、ヘディングシュートは枠を外れてゴール裏へ消えた。


ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーーーッ!


試合終了のホイッスル。


第2戦、3―1。


2戦合計スコア、4―3。


FCバルシーノ、ユースCL・ベスト8進出決定。


ピッチ上で選手たちが抱き合って喜びを爆発させる中、汗だくのジュン・ハシモトが氏真の元へ歩み寄ってきた。


「……完敗や、ウジザネ君。最後のあの5枚の並び、ホンマに捕まえきれんかったわ」


「ジュン、素晴らしい試合をありがとう」


氏真が頭を下げると、ジュンは笑って氏真の肩を叩いた。


「次はトップの舞台で借り返したる。欧州のテッペン、獲ってこいや!」


---


6. 母の微笑みと微かな翳(かげ)り


ピッチ中央で仲間たちと肩を組む氏真は、ふとメインスタンドを見上げた。


関係者席の最前列で、母・吉良有理が立ち上がり、誇らしげに拍手を送っている。


氏真が小さく手を振ると、有理は満面の笑みを浮かべ、両手で大きく手を振り返した。


(……立派になったわね、氏真)


息子の姿を目に焼き付け、有理は胸の奥で温かな誇らしさを噛み締めていた。


だが――。


観客たちが退場口へと向かい始め、スタンドの喧騒が引き始めた頃。


有理は静かに席を立ち、通路へと続く階段へ向けて一歩を踏み出した。


その瞬間。


(……っ)


視界がわずかに傾き、床の感触が足裏から遠のくような感覚が襲った。


微かなふらつき。足取りが重くなり、有理は咄嗟に通路の手すりへ手を伸ばし、指先が白くなるほど握りしめたまま、有理はしばらく動かなかった。


深く息を吸い、そっと目を開けると、何事もなかったかのように背筋を伸ばしてゆっくりと歩き出す。


だが、その一瞬を見逃さないレンズがあった。


記者席からカメラを下ろそうとしていたルナの望遠レンズが、手すりを掴み、わずかに顔色を失った有理の横顔を捉えていた。


「……あれ?」


ルナは液晶画面を再生し、撮影されたコマを拡大した。


午後の陽光の下でも隠しきれない、有理の微かな蒼白。


(有理さん……? 今、階段のところで少しふらついていたような……)


隣でノートを片付けていたエレナが声をかける。


「ルナ、どうかしたの?」


「あ……ううん、なんでもない」


ルナは咄嗟にカメラを胸元に引き寄せたが、胸の奥に冷たい引っかかりが残った。


ベスト8進出を決めて喜んでいる氏真には、まだ言えない。


迷った末、ルナはスマートフォンを取り出し、日本にいる早川愛の連絡先を開いた。


『愛さん、試合は3-1でバルシーノが勝ちました。……でも、少しだけ気になったことがあって。スタンドで見ていた有理さんの顔色が少し悪くて、階段で立ち止まっていたんです。私の気のせいならいいのですが……』


メッセージを送信したルナは、静かに息を吐いた。


遥か日本の早川邸。


スマートフォンに届いたルナからの文面を見つめ、早川愛は静かに眉をひそめた。


「有理お母様……お忙しすぎなければよいのですが……」


欧州の頂へと歩みを進める歓喜の裏で、静かな翳りが、音もなく忍び寄ろうとしていた。


【次回予告】

難敵ノースロンドンFCを退け、欧州ベスト8へと駒を進めたバルシーノ! チームが次なる戦いを見据える中、春休みを利用して愛と舞が再びバルセロナへ。氏真の日常に微かな波紋を落とす――。

第114話:【春嵐の気配】次なる天下へのパスを回せ!

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