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第二十五話 届いた弾丸


翌朝。マニシア軍の動きは、日の出と共に始まった。


「広域レーダーに感あり!」


エフの声が、切迫した状況をそのまま映し出すように響く。


「砲撃が来ます!」


「エナジーシールド拡張展開!」


紅い戦術機兵に搭乗したまま待機していたモノリスが、即座に指揮を飛ばした。


「エネルギーを惜しむな。最大出力だ!」


「了解!みんな急いで、こっちへ!」


エフの誘導に従い、アーモリーの戦術機兵と少女兵たちが一斉に移動する。

次の瞬間、妨害電波発生装置を中心に球状の半透明な防護フィールドが展開された。

淡い光を放つ高密度のエネルギー層。それが装置と周囲の兵たちを包み込み、少女兵たちは身を寄せ合うようにその内側へ逃げ込んだ。


そして、砲撃が来た。

轟音。衝撃。火光。大地が震え、空間そのものが軋むような連続する爆発が周囲一帯を容赦なく焼き払っていく。

だが、シールドの内側は驚くほど穏やかだった。外では地獄が降り注いでいる。それでも、こちら側には破片一つ届かない。

この出力なら砲撃は凌ぎ切れる。そう思った。


モノリスはすでにその先を見ていた。


「コード」


紅い機兵の中から、低い声が響く。


「この砲撃をどう見る?」


私は外の爆炎を見つめる。砲撃密度、着弾位置、射程、狙い。そして答えた。


「牽制や戦力の間引きではありません」

「十中八九、準備砲撃です」


「だろうな」


モノリスが静かに頷いた。


「少なくとも、敵側の主戦力が襲来する」


そこで紅い機兵が、こちらへ巨大な手を差し出した。

武骨な機械手。その掌に載せられていたのは、一丁の対物ライフルだった。

通常の歩兵火器とは明らかに違う、長大な銃身。分厚い機関部と異様な重量感。

人を撃つためではなく、装甲を貫くための銃。


「これを使え」


私は無言で受け取る。

重いが、持てないほどではない。いや、今の私なら扱える。


「装甲貫徹力の高い徹甲榴弾を装填してある。予備マガジンも同じだ」


つまり、本当に貴重な弾薬を託されたということ。


「コード」


紅い機兵の三連眼が、私を見下ろす。


「狙撃の名手として、名を上げてくれ」


私は対物ライフルを抱え直す。

昨日は届かなかった。けれど今度は違う。


「了解」


静かに答える。


「必ず、仕留めます」


砲撃が止んだ。

その瞬間、私たちは一斉に動き出す。

迎撃準備だ。戦術機兵部隊は陣形を整え、遮蔽物の裏へ展開。

歩兵部隊はその支援に回り、要所の防衛、対装甲戦闘、そして敵の物量戦術への備えを進めていく。


私も最初の狙撃地点へついた。崩れた廃墟の上層、半壊した壁面の隙間。

そこへ対物ライフルを据え、廃墟の間を走る幹線道路へ照準を合わせる。

周囲では、無数の銃火器が同じ方向へ向けられていた。見えない射線が幾重にも重なっている。

肌で分かる。この戦場全体が、息を潜めていた。


やがて、地面が震えた。

重く、規則的な振動が迫っている。

廃墟の向こう側。土煙の奥から、それは現れた。


白い大型機動兵器。

装甲に覆われた太い四脚を、悠然と駆動させている。

下半身は獣型、上半身は人型。あまりにも巨大だ。

両腕には長大な大剣。そして両肩部に搭載された砲口が、蒼く煌めく。


「バトルメックだ!」


モノリスの声が通信に走る。


「レーザー砲撃、来るぞ!」


だが、初撃は言い切るより早かった。


――ビシュゥゥゥッ!!


蒼い閃光がほとばしる。

両肩の拡散レーザーキャノンから、光線の束が放たれる。

それは微妙に拡散しながら、それでも破壊力をほとんど落とさず、こちらの遮蔽物へ突き刺さった。


融解、貫通、そして崩壊。

コンクリートも鉄骨も意味を成さない。

隠れていた戦術機兵の手足が光の奔流に呑まれ、あっけなく捥ぎ取られる。


「この貫通力と威力……」


私はスコープ越しに状況を確認しながら、唇を噛む。


「不味い」


そして、最悪なのはそれだけではなかった。

後続のマニシア部隊が、次々と廃墟の隙間へ展開してくる。

グレネード、擲弾、煙幕、制圧射撃。こちらの陣地へ向け、容赦なく攻撃を加えてくる。

遮蔽物に籠もる私たちを、炙り出すつもりだ。


アーモリーの少女兵たちは、すでに若干の損耗を出している。

それでも、誰一人として勝手に飛び出さない。全員が歯を食いしばり、機体を震わせながら、攻撃開始の合図を待っていた。


今か、今かと。



「攻撃開始だ!」


モノリスの号令が響く。


「アーモリーの戦友たちよ!」


紅い戦術機兵が大剣を掲げる。


「打ち砕き、突き進め!」


その言葉を合図に、戦場が爆ぜた。

アーモリーの戦術機兵たちが一斉に重火器を斉射する。

砲弾、徹甲弾、ロケット弾。火線が幾重にも重なり、廃墟の街路を埋め尽くす。

少女兵たちも負けじと小火器や重機関銃を撃ち込んでいく。


黒鋼の機兵と傷だらけの少女兵。滅びゆく者たちの総反撃だった。


中心にいる敵主力――白いバトルメックへ、私は照準を合わせた。

呼吸を止め、視界を絞る。


装甲。関節。センサー。砲塔基部。そして肩部拡散レーザーキャノン。

発射直前に、蒼い光が砲口へ収束している。


今しかない。

私は引き金を絞った。


――ドゴォン。


重い銃声に肩を突き抜ける反動。徹甲榴弾が高速で空間を裂き、一直線に飛ぶ。

次の瞬間、弾丸は発射寸前の拡散レーザーキャノンへ狙い違わず突き刺さった。


――バゴァァァン!!


蒼い燐光が爆ぜる。片側の砲塔が内側から破裂し、装甲片と光の残滓を周囲へ撒き散らす。

バトルメックの巨体が大きく揺らいだ。四脚が路面を抉り、一瞬、横転しかける。


だが倒れない。

辛うじて姿勢を制御し、なおも白い巨体は戦場に踏み留まった。


そこへ紅い影が跳ぶ。

モノリスの戦術機兵だった。


「おおおおッ!」


紅い機兵が大剣を振り下ろせば空気が裂ける。重い一撃だ。

まともに入れば、装甲ごと叩き割れるはずだった。


しかし白いバトルメックは機敏に即応する。

両腕の大剣を、堂に入った構えで掲げる。


瞬間――激突。


ガギィィィィン!!


鈍く、重く、耳をつんざく金属音が戦場に響き渡る。

モノリスの一撃は、受け止められていた。まるで、それこそが当然であるかのように軽々と。


《マニシアの子らよ、恐れるな!》


白いバトルメックが咆えた。

その声と共に、機体出力が跳ね上がる。

凄まじい膂力が発揮され、モノリスの紅い戦術機兵が、大剣ごと弾き飛ばされた。


《母なるノクターンの加護が、必ずや我らを勝利へ導く!》


四脚が一歩、前へ出る。重厚な足音とともに大地が震えた。


《その礎たらんとする兄弟たちよ!》


白い巨体の背部ブースターが轟音を上げる。


《今こそ前進し続けるのだ!》


次の瞬間、バトルメックが大剣を振りかぶり、地面へ叩きつけた。

轟音と衝撃が瞬く間に広がり、砕けた路面が跳ねて、土煙が広範囲へ爆ぜる。


視界が奪われた、その向こう側から、一斉に大地を揺るがすほどの叫びが響いた。


――オォォォオオォ!!


土煙が晴れるより早く、無数の人影が飛び出してくる。


マニシア兵。

大盾を構え、槍のような近接兵装を突き出している。

槍の先端には高圧電流が走っているようだ。


エレクトリックスタッフ。

それを構えた兵たちが、荒波のように押し寄せてきていた。


「迎撃だぁ!」


モノリスがいち早く体勢を立て直し、叫ぶ。


「近寄らせるな!」


アーモリーの兵たちが一斉に銃火器を乱射する。

ライフル、重機関銃、榴弾。弾幕が敵前衛へ苛烈に叩き込まれる。


だが、マニシア兵の波は全く怯まず揺るがない。

大盾が弾丸を受け、やがて砕けても。

致命傷を受けた兵士が倒れても。

それでも後ろから次が来る。

撃たれた兵の死体を、後続が踏み越え、なお猛然と前へ出る。


狂信的な突撃。

信仰と闘志と使命で編み上げられた、人間の津波。

それがアーモリーの防衛線へ食い込んでいく。

やがて、エレクトリックスタッフの間合いに機兵たちが入った。


「まずい――!」


誰かが叫ぶが、もう遅かった。

マニシア兵たちは戦術機兵へ果敢に群がる。正面、側面、背後、足元。

あらゆる方向から、高圧電流を帯びた槍の刺突が叩き込まれる。


機体が痙攣するように震え、関節駆動が乱れる。

火花が散り、警告音を吐く。そして片膝をつく。


そこへ、さらに兵士が群がった。

倒れた戦術機兵の胸部ユニットへ、マニシア兵たちが取り付き、こじ開ける。

装甲を引き剥がされ、露出した操縦席。その奥にいた少女兵へ、ナイフが何度も振り下ろされた。


私は歯を食いしばる。

これは不味い流れだ。

戦術機兵たちが得意とするレンジで交戦できていない。

戦術機兵を巨大な獣として狩るための、人間による集団戦術に翻弄されている。


私はスコープを覗き込む。隊列の奥で現場指揮官らしきマニシア兵を見つける。

階級章が光を反射していて、周囲の兵に指示するような動作が板についている。


それを迷わず撃つ。

徹甲榴弾ではなく通常弾を使う。それでも人間相手なら十分だった。


照準の中央で、階級の高そうな兵士の頭部が弾ける。

だが焼け石に水だ。

私は次の標的を探しながら、この戦況を打開する方法を必死に考える。


バトルメック。大盾歩兵。エレクトリックスタッフ。集団解体戦術。

そして、さっきの鼓舞の声。


《マニシアの子らよ、恐れるな!》


私は、ふと眉を寄せる。

……どこかで、聞いたことがある。

あの調子。あの、妙に人の心を煽る言葉の選び方。

胸の奥に、嫌な予感が芽生えた。



戦場で行われる演説とかプロパガンダ放送とか、人の不退転の意志が込められていて大好物です。

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