第92話 落ち葉
俺の中で、最も忌むべき記憶……それは、父親と美術館を訪れた時の記憶だ。
父、アゲハ=シロガネは白馬の絵を見て、こう言った。
『白の数は1つじゃないんだ。『白』と分類される色だけで100種類あるとも200種類あるとも言われているんだ。この絵に使われている白と、隣の絵に使われている白は違うんだ』
父からその言葉を聞いた時、俺はこう返した。
『そうなの? 俺には全部同じに見えるよ』
俺の発言を聞いた父の表情、その父の残念そうな表情は……今でも鮮明に覚えている。
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「クソ……」
嫌な夢を見た。
俺はカプセルベッドから出て、身支度をする。
まず噛むだけで歯磨きが完了するガムを口に入れる。髭剃りは必要無い。なぜならすでに髭は錬成物で脱毛済みだ。
着替えと髪のセットはホムンクルスにやらせる。
朝食はメイド型ホムンクルス・ラビィに作らせ、頂く。
朝の準備に1時間もかける馬鹿がこの世には大量に居るらしいが、俺の身支度は20分とかからない。
人生の質を上げるために必要なことは効率よく生きること。普段の『無駄』を如何に削れるかが人生を分ける。
俺は朝食だけで3食分の栄養を摂取するため、気分が乗らなければ昼食と夕食を食べる必要も無い。出勤は空挺を使うが、俺が空挺を操るわけじゃない。ホムンクルスに車型空挺を操作させ、俺は後部座席で優雅に読書をする。
無駄を省く。ひたすらに無駄を省き、己の研鑽に時間をあてる。
そうしないと、俺は奴に追いつけない。あのクズを追い越せない。
アゲハ=シロガネ。俺は奴だけは絶対に許せない。
ふと、空挺から下を見ると、呑気に登校するアホ面が見えた。
イロハ=シロガネ。アゲハ=シロガネの養子で、奴と同じ『色彩能力者の錬金術師』。
反吐が出る。
奴にとって、あの男が成功作で、俺は失敗作なのだろう。
腹が立つ。
上等だと言わせてもらおう。
あの男だけは必ずや俺の手で始末してやる。
お前の選択全て、あの世で後悔させてやるぞ。アゲハ=シロガネ。




