第51話 選挙戦開始!
放課後になると、自然と俺たちオーロラファクトリーの面々はヴィヴィの席に集まった。
「悪いけど、ファクトリー関連の話は一旦休止だ。今は選挙に集中したい」
「もちろん、手伝いますよヴィヴィさん!」
「僕も手伝うよ。面白そうだしね」
「俺は――」
「イロハ君。君には問答無用で手伝ってもらう。口答えは許さない」
やばいね~。めちゃくちゃ怒ってますコレ。
「でもどうする? 状況はすでに結構悪いよ」
アランはすでにルチアがルチア含む11人のグループを作っていることを説明する。
その11人は全員、ルチアに投票すると見ていいだろうな。
「ルチア君は後5人引き込めば過半数を獲得する。そうなればヴィヴィさんの負けだ」
「一方、ジブンたちは現状4票……後12人引き込まなくてはいけません」
「そう悲観することはない」
ヴィヴィは冷静にそう諭す。
「ルチア君は初日から今日に掛けて、恐らくクラスメイト全員に接触しただろう」
フラム、アランが顔を合わせる。どうやら2人も接触されたことがあるっぽい。俺も一応、この前のがそれに当たるか。
「宙ぶらりんになっている15人はルチア君の勧誘に応じなかった者達、つまり少なからずルチア君と仲良くなることを拒否した人物たちということになる。全員をこちらに引き込むことだって不可能じゃない」
ヴィヴィの意見は幾分か希望的観測が含まれている。11人のグループに入ってないからと言って、ルチアに反感を抱いているとも票を入れないとも限らない。そもそもルチアが接触してダメだった人間を口説き落とすのは難しい。
「とりあえず、ルチア君グループでない人たちに接触しよう」
「ルチア派じゃない人物は把握しているよ」
俺はアランに視線を送る。
「へぇ、クラス内をしっかり観察しているんだな」
特に深い意味なく聞いたのだが、アランはほんの一瞬言葉に詰まった。
「うん。まぁね。人を見るのが好きなんだ」
「リストにしてもらってもいいかな?」
「もちろんだよ」
アランはささっとペンと紙でリストを作成し、ヴィヴィにリストを渡した。
俺たちは4人でルチア派ではない人物たちを当たっていく。
まず足を運んだのは、男女3人組のグループ。
「ロア君、フォックス君、ベルモンド君。ちょっと話いいかな?」
教室で3人に話しかける。
「あ、ヴィヴィちゃん! どうしたの? ……もしかしてぇ、デートのお誘い?」
そう返したのはロア=リッカ。一応言っておくが男性ではなく女性。ポピーレッド(鮮やかな赤)の髪で、その髪色の印象通り底抜けに明るい。よくクラスの中心になっている人物だ。
ここを押さえるとデカい。だからヴィヴィも最初にロアに話しかけたのだろう。
ロアの軽口にベルモンドとフォックスも続く。
「デートの誘いだとしても、お前に対してではなく俺だろう」
ベルモンド=バーテクス。眼鏡を掛けた短髪の男。髪の色はランプブラック。身長は高いが細身だ。
「それも無いっての。俺だ俺」
フォックス=クレシェント、キツネ色のポニーテール。顔にはそばかすがある。身長はベルモンドと同じくらいだけど、ベルモンドと違い筋肉が付いている。
「絶対、わ・た・し!」
「いや、待てお前ら! 今、ヴィヴィは我々3人の名を呼んでいた……つまり、もう1つの可能性が考えられる!!」
ベルモンドがおかしなことを言い出した。
「まさか、俺達3人まとめて……!?」
「いやんっ! ヴィヴィちゃん! 肉食!!」
「悪いけど3人共恋愛対象ではない」
ヴィヴィの一刀両断が炸裂。
「ガーン! ……しゅん」
「なぜ女のお前が1番残念がる……」
「あっはっは! 正直だねぇ、ヴィヴィ。それで、用件は?」
「選挙のことだよ。私に投票してくれると助かるんだけど……」
3人は顔を合わせ、コソコソと何かを話し合った後、またこっちを向いた。
「いいよ! 元々ヴィヴィちゃんに投票するつもりだったし」
「ああ。ルチアのやつはいけ好かない。なんせ奴は……俺が描いたコミックを見下し……下賤な物と言い切ったからなぁ!」
「まだ気にしてたんだ、ソレ」
コミック? 気になるな。今度見せてもらおう。
「ありがとう。助かるよ。この礼は……」
「ねぇねぇ! 投票する代わりにさ! あなた達4人にお願いがあるんだけど!」
今度は俺達が顔を合わせる。
「見返りというわけだ。いいよ。なにをして欲しいんだい?」
ロアはヴィヴィの手を握り、
「私達と友達になってよ!」
「…………は?」
ヴィヴィはきょとんとする。
「だってさ、4人っていつも固まって端っこにいるじゃん?」
俺達って傍から見るとそんな感じなのか。貴重な意見だな。
「これほど美少女が揃っているグループ……捨ておけん」
「この色ボケ眼鏡は置いといて。俺達さ、実は新しくファクトリーを作ったんだ」
「お前らも?」
「そそ。お前らと同じさ。新規ファクトリー同士、パイプを持つのは悪くないだろ? それにウチの団長殿はヴィヴィがお気に入りでね。仲良くしてくれると助かる」
フォックスはロアを親指で指す。こいつらのファクトリーの長はロアみたいだ。
「……友達になる、か」
ヴィヴィがこっちを見る。意見を求めている顔だ。困っている顔とも言える。
「いいんじゃないか。減るもんじゃない」
「そうだね……わかった。友達になろう」
「やったーっ!」
こうして、まずは3票を獲得した。
次に接触したのは廊下を歩いていた女子生徒。
黒髪で、東洋人っぽい顔立ちの少女だ。
「ちょっと失礼。シオン=クロードさんだよね?」
「――なんですか?」
話しかけてきたアランを一瞥して、次にアランの背後の俺達を見る。いや、俺達じゃない――俺を真っすぐ見てくる。
「あなたは……」
シオンは俺をジッと見た後、前髪をいじり出した。
「なんです? 用があるなら早く言ってください」
「選挙で私に投票してほしい」
単刀直入にヴィヴィは言う。
「お前はルチアグループじゃないんだろ? どうかその清き一票を我らが団長に投じてくれないか?」
俺もヴィヴィに加勢する。すると、シオンはなぜか不機嫌そうな顔をした。
「……」
「えっと、さっきからなんだ? なんで俺を睨む?」
「別に睨んでなんかないです」
「?」
ヴィヴィが俺の腕を引っ張り、シオンから距離を取らせる。
「……キミキミ、あの子……反応からして間違いなく君の知り合いだろ」
「……いやそれがまったく見覚えが無い」
シオン=クロード……いや知らん。
錬金術師の知り合いなんて限られてるし、出会った錬金術師の名は全部記憶しているはずだが該当する名はない。
俺達が小声でやり取りすると、シオンはさらに機嫌を悪くしてしまった。
「もういい」
諦めたようにシオンは言う。
「私はどちらにも入れません。無記名で入れます」
「え!? そ、それは待ってください! もしも無効票が3票集まったら、先生がクジ引きで決めちゃうかもしれないんですよ!」
フラムがシオンの袖を引っ張って止めるが、
「さすがにそれはないと思います。いざとなればジョシュア先生が能力面を考慮して決めるでしょう。クジ引きは無効票の牽制に過ぎません」
決めつけるのはどうかと思うが、可能性としては高い。
「まだ顔を合わせて日も浅いのにどっちかなんて選べません。なにも知らない生徒が決めるより、ある程度情報のある教師に判断を委ねた方が利口でしょう」
一理あるな。
「いてっ」
ヴィヴィに殴られた。
「……なんで殴る」
「……今、彼女の意見に納得していただろ!」
コイツ、人の心を読めるポーションでも開発したのか!?
「……」
俺とヴィヴィが話していると、また不機嫌そうな面をした。なんなんだコイツ?
「そういうわけで」
最後にまた俺を一瞥し、彼女は去る。
「君のせいだね」
「決めつけるなよ」
「君が彼女のことを覚えていれば、彼女は私に票を入れてくれただろう。女子とはそういう生き物だ」
本当に俺の知り合いか定かでないのによく言うよ。
「お前が女子を語るのか。女心なんて窯の底に置いてきたクセに――いでっ!」
スネを思い切り蹴られた。
「お前なぁ……」
「これが女心というものだ。覚えておきたまえ」
意味わからん。
「あ、ちょうどいい所に」
俺たちの横を、3人組の女子が通る。
アランはその女子たちを引き留める。
その3人の女子は――まったく同じ顔をしていた。全員同じ身長、同じ顔立ちだ。
「なになに? イチに何か用?」
「多分選挙のやつだよ~。めんどくさいな」
「……」
同じ容姿の3人だが、髪型が違う。一つ結びと二つ結び、あと髪を結んでないやつ。
「一つ結びの彼女がイチ=ダイスリーさん、二つ結びの彼女がツヴァイ=ダイスリーさん、ミディアムヘアーの彼女がトロワ=ダイスリーさんだ」
性格も見る限り違う。
イチは活発。子供のようだ。
ツヴァイはだら~っとしていて、常に姉妹のどちらかに抱き着き体重を預けている。
トロワは喋らない。無口だ。意味ありげな瞳でこっちを見ている。
「ふーん」
よし。覚えた。
「君達3人の票をまとめて貰えると、とてもありがたいんだけど」
早速ヴィヴィが交渉に移る。すると一本結びのイチが前に出てきた。
「にゃはは! いいよー! イチたちにゲームで勝てたらあげるっ!」
「ゲーム?」
「そう! ――名づけて、三つ子当てゲーム!!」




