第50話 ダ=ヴィンチ
「ダ=ヴィンチ!?」
つい声を荒げてしまった。
視線が俺に集中する。寝ていた生徒まで起きる始末だ。
「イロハさん、あなたは外部生でしたね。ならば驚くのも無理はありません」
「あ、いや……すみません。大声出して」
構いませんよ。とオリバー先生は笑う。
「レオナルド=ダ=ヴィンチと言えば、外の世界では画家、科学者、建築……あらゆる分野を発展させた万能の天才と呼ばれています。その万能の中に、錬金術もあったということです」
レオナルド=ダ=ヴィンチは俺の愛する女性――モナリザの生みの親でもある。
オリバー先生の言う通り万能の人で、天より二物どころか百物ぐらい与えられた人間だ。しかしまさか錬金術すら修めていたとは。本当に人間か?
「……君としては彼の名は聞き流せないよね」
隣からヴィヴィが言う。
「そりゃ、な。俺の愛する人を生み出した人だ。お義父さんと言っても過言ではない」
「過言だよ」
それからオリバー先生はニコラスとダ=ヴィンチの功績を並べ、その後の錬金術の歴史を触りだけ語り、授業は終わった。
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ホームルーム。
ジョシュア先生が教壇に立ち、話し始める。
「クラスリーダーをそろそろ決めようと思う」
きたか。
一昨日、ルチアから聞いていた通りだ。
さてさて、どうなるかな。
ヴィヴィを上手く選挙の場に引き出せるかはルチアの手腕にかかっている。
「クラスリーダーは文字通り、このクラスの指揮を執る存在だ。この先、クラスで挑む課題は多く存在し、その度にクラスリーダーには重役を担ってもらうことになる。言うまでもないが、高い能力が必要だ」
そう前置きすることで遊び半分で立候補する者を牽制する。
「しかし、あくまでクラスリーダ―が活躍するのは課題の時だ。日常的に雑務を押し付けられることはない。むしろクラスリーダーの権限を使って上手く雑務を他人に押し付けることも可能だ」
必要以上に時間は取られない、というわけか。
「クラスリーダーは1人。男女どちらでも構わない。もし立候補者が数人出たら選挙を行う。選挙についての詳細は後回しでいいだろう。立候補が1人なら説明の必要はないしな」
ヴィヴィは頬杖をつき、窓の外を眺めている。我関せず、って態度だ。一応耳は傾けているだろうが。
一方ルチアは先生のすぐ目の前の席で、すでに右肩に力を入れていた。手を挙げる気満々だ。
「立候補者がいなければクジ引きで決める。そんじゃ、クラスリーダーに立候補したい奴は手を挙げろ」
ルチアが手を挙げる。他に手を挙げる生徒はいない。俺はヴィヴィを数秒見て、立候補する気配がないことを察すると共に、右手を挙げた。
「イロハ君……?」
ヴィヴィは俺の行動に驚き、頬杖を解いた。
「立候補者はルチアとイロハか」
「いえ、俺は立候補者じゃありません。推薦者です。クラスリーダーに推薦したい人物がいます」
「ほう? それは誰だ?」
俺はヴィヴィを指さす。
「俺はヴィヴィ=ロス=グランデをクラスリーダーに推薦します」
「おやおや」
ヴィヴィはこちらにこわ~い笑顔を向ける。
「おやおやおや~? 一体どういうつもりかなぁイロハ君」
「どういうつもりも何も、クラスリーダーは一番能力の高い人間がやるべきだろ。このクラスで一番能力が高いのはお前だ。だからお前がやるべきだ」
声を張って、クラス中に聞こえるように言う。
推薦されたことを不満に思いつつも、素直に褒められたことで感情に困ったのか、ヴィヴィはなぜか唇を噛んでいる。
さて、ここまでで俺の仕事は終了だ。
「あのね君……私は」
「そこまで言われては、私も彼女を推薦しなくてはなりませんね」
ルチアが立ち上がり、ヴィヴィの方を向く。
「私は自分がこのクラスで1番クラスリーダーに相応しいと思っています。しかし! イロハと同様に私ではなく、彼女を1番だと思っている生徒も多数いることも知っています。どちらがナンバーワンか、ここで白黒ハッキリさせましょう。ヴィヴィ=ロス=グランデ!!」
「断る。私はクラスリーダーには興味が無い」
ヴィヴィは小さく息を吐き、また窓の外を見た。
「大体私は忙しい。君は知らないだろうが、私は団長としてファクトリーを新設させた。それに関することでやることが多くある。クラスリーダ―の仕事までやってられない」
ルチアの望む展開、だな。
「ならもしアンタがクラスリーダーになったら、私がアンタのファクトリーに転入して、その負担を軽減してあげる。それならば文句はないでしょ?」
ヴィヴィの興味が、ようやくルチアに向く。
いま、ウチのファクトリーは大きく2つの問題を抱えている。人員不足と資金不足だ。
新たにショップを作るのに明らかに4人じゃ少ないし、資金もまだまだ足りない。だがルチアが入ってくれれば人員不足も資金不足も多少ではあるが改善される。ルチアは自負している通り、平均的に高い能力があり、錬金術もそれなりにできる。それはすでに授業で明らかにされている事実。ヴィヴィもわかっていることだろう。
ヴィヴィ以外に錬金術の知識・腕共に充実している存在が入ることは大きい。それにファクトリーにルチアが入るだけで、月に2万ゴルドが入る。万々歳だ。
クラスリーダーの負担とルチアの加入。
ヴィヴィは今頭の中で両方を天秤にかけ、考えていることだろう。
「私が勝利した場合、君は私のファクトリーに入り、以後脱退せず、我がファクトリーのために尽力する。そう約束するのなら――いいだろう。私も立候補しよう」
どうやらルチア加入の方がでかいと見たらしい。
ルチアは嬉しそうに笑い、ジョシュア先生の方を向く。
「ということです先生!」
「了解。立候補者はルチアとヴィヴィだな。では選挙の説明といこうか」
ジョシュア先生は嬉しそうな面持ちで説明を始める。
「投票日は花蝶の月55日。今日が41日だからちょうど2週間後だな。当日の朝、投票シートを1枚ずつ配る。それぞれヴィヴィもしくはルチアの名を書いてくれ。欠席した生徒、名を書かず投票した生徒の票については無効票とし、無効票が3人以上いた場合は無効選挙とする」
「無効選挙? やり直し、ということですか?」
ルチアの質問に対し、ジョシュア先生は首を横に振る。
「再投票はない。無効選挙になった場合は俺が独断で30人の中からクラスリーダーを決める。もしかしたらクジ引きで適当に決めるかもな」
冗談かそうじゃないのかわかりにくいな。ジョシュア先生は適当な部分があるから、本当にクジ引きで決めそうな気配もある。
クジ引きで決める危険性がある以上、クラスリーダーをやりたくない人間は否応でもどちらかに入れることになる。自分が30分の1を引かない確証はないからな。
「無効票が2票以下且つ、相手より票を集めた方をクラスリーダーとする。同票だった場合は俺が最後の1人してどちらかに票を入れる。以上だ。お互い、正々堂々綺麗な勝負をしような」
その言葉を最後にホームルームが終わる。
ヴィヴィvsルチア。クラスリーダーを決める戦いはこうして幕を開けた。




