第116話 世界樹の冒険②
買い物を終え、ようやく俺達は目的地であるユグドラシルの前に到達した。
「近くで見るとよりでかく感じるな……!」
間近で見るのは初めてだった。
世界樹ユグドラシル。
雲まで伸びる大樹。ジャック校長が造った、錬金術師の到達点の1つ。
「これが……アルケーを造った世界樹。アルケーの核」
アランも感慨深そうにユグドラシルを見上げる。
「なぁなぁ! 木登り勝負しようぜベルモンド!」
「アホかお前は! 世界樹の樹皮は結界と同質だ。下手に触れれば何が起こるかわからんぞ」
「え? そうなの?」
「事実だ」
レイン副校長が肯定する。
「ユグドラシルは外部からの接触を許さない。下手に樹皮に触れれば……死ぬ危険もある」
マジかよ。
「ゆえに外から穴を空けて侵入、なんてこともできない。入り口はあそこのみだ」
レイン副校長はユグドラシルのとある場所を指さす。
ユグドラシルの1番下。枝分かれする根の狭間に門がある。巨人用と言われても疑わないほど巨大な門だ。レイン副校長が先導して門に近づく。
「こんにちは~」
門の前には1人のシスターが立っていた。
修道服に身を包んだ金髪のお姉さん。お姉さんは俺達を見ると、微笑んだ。とても柔らかい、清廉な笑顔。
「はうっ!?」
その笑顔にベルモンドはハートを撃ち抜かれたようだ。
「なんて美人のシスターさんなんだ……! レイン副校長とあのシスター……俺は……俺はどちらを選べばいいんだ!!」
安心しろ。お前に選ぶ権利はない。
かわいらしいシスターのお姉さんだ。うんうん。でもちょっとおかしな点がある。
……あの腰にぶら下げた大太刀はなんだ?
「なぁアラン。俺の見間違いじゃないよな?」
「見間違いじゃないと思うよ」
「あれって、刀だよな?」
「うん。大きな太刀だね~」
2mはある刀だ。鞘を見るに、刀身の幅も通常の刀の2倍はある。
「シスター・ユンセル」
レイン副校長が名を呼ぶ。
どうやらあの人の名前はユンセルと言うらしい。
「あらあら。また来たのですねレインさん」
「はい。でも、今回はこっちの生徒達がメインです」
「あらあら。可愛らしい子達ですね」
大太刀はともかく、優しそうな人だ。
「紹介しよう。この方はシスター・ユンセル。ユグドラシルの番人だ。この方の許可が無ければユグドラシルには立ち入ることができない。怒らせるなよ。絶対に怒らせるなよ」
レイン副校長がガチの忠告をしてくる。
そんなレイン副校長の忠告を無視し、ベルモンドがシスターの手を取る。
「私、名をベルモンドと申します。もしよろしければ一緒にお茶でも……」
「お茶ですか? いいですよ。私はユグドラシル様の前を離れられないので、ここですることになりますが」
「全然構いませんとも! いまお茶とお茶請けの用意を……」
フォックスがベルモンドの背中を叩く。
「アホかお前。一緒にユグドラシルに入るんだろうが」
「アホは貴様だ! ユグドラシルなんぞに入ることより、こちらのお姉さんとのお茶の方が遥かに大事――」
「なんぞ?」
ドン!!! と大きな音が鳴った。
ベルモンドの足のすぐ横の地面に、大太刀がめり込んだ音だ。
「は、はうっ!?」
ベルモンドはつい尻もちをつく。
シスターさんはいつの間にか大太刀を抜き、振り下ろしていた。刀の柄まで地面にめり込んでいるのを見るに、直撃していたら人を軽く真っ二つにしていただろう。
「ユグドラシル様を……『なんぞ』呼ばわりしましたか?」
「あ、あの! わる、悪気は……!?」
「ユグドラシル様はこの世界の中心。世界の創造主、神様なのです。神様を『なんぞ』呼ばわりしてはいけませんよ。わかりましたか?」
シスターさんは地面から大太刀を軽く抜き、刃先をベルモンドに向ける。
「は、はいぃ……!」
こっわ。あのシスターこっわ。
「神樹教」
アランがぼそりと呟いた。
「なんだそりゃ」
「世界樹を信奉する人達だよ。彼らは世界樹、つまりユグドラシルを神としている。世界樹を守る人選としては間違っていない。きっと全身の骨が折れてもユグドラシルのためなら戦える人だ」
やっぱり怖いな。
「さて、ベルモンドが懲りた所で、ユンセルさん、こいつらに軽くユグドラシル内のルールを教えてあげてください」
「わかりました」
それから小さな講習会が始まった。
言われたことをまとめると、
・ユグドラシル内で手に入れた情報は全てユンセルさんに共有すること。
・ユグドラシルを出たらユンセルさんに荷物チェックを受けること。
・ユグドラシル内で命を落としても誰も責任は取れない。
・ユグドラシル内にある湖の水は飲むと傷を癒し、マナも回復するので上手く利用すること。ただし、ユグドラシル外に持ち出すと毒となるので、絶対に外に持ち出さないこと。
・外から持ち込んだ物はユグドラシル内になるべく捨てないこと。
「以上のことを守ってくださいね。それと、これを1人ずつ飲んでください」
ユンセルさんは小袋を俺に渡してきた。
小袋を開くと、中に泥で作ったような茶色い団子が4個入っていた。
「これはなんですか?」
俺が聞くと、ユンセルさんはニッコリ笑って、
「腐肉丸というものです。これを飲むと死んだ際にその者の肉を臭くし、魔物に食べられないようにするのです」
「死んだ際……?」
「はい。それを飲んでくだされば、皆様の死体は魔物に食べられずその場に残り続けることができる。そうすれば、後に私の部下が死体を回収できます。死体を回収できないと色々と面倒でして」
ゾッとする話だ。
「レインさんは心配無用なので、渡しませんけど」
「はい。今回は低階層しか行く気無いので必要無いです。お前達は必ず飲めよ」
アランとフォックスは平然と団子を飲み込んだ。
俺とベルモンドは顔を青くさせつつ、なんとか覚悟を決めて飲み込んだ。……クソ不味い。エグ味が凄い……オエ。なんとなくだけど、俺の肉が不味くなった気がする。
「通行証も確認しましたし、条件はすべてクリアですね。それでは、中へどうぞ」
ユンケルさんがハンドベルを鳴らすとユグドラシルの門が開かれた。
俺達は門をくぐり、ユグドラシルの中へと入る。




