楽して仕事を終えた後
森に向かってからというもの仕事自体は早く終わった。
オオトカゲ10匹の討伐は非常に楽な仕事だった。
なぜなら、その魔物はカルルの「魔物を従わせる能力」に、既に適応されていたからだ。
カルルが殺した魔物は、好きなタイミングで任意の数を呼び寄せられる他、どんな命令にも従う。
だから、オオトカゲを10匹呼び寄せてから、それらの魔物に向かって【死ね】と命令をした。
すると、即座に自分の舌を噛み潰したり、地面から伸びている尖った木の根っこや、鋭利な岩の先端に自らの喉を突き刺したりと、ものの10秒足らずでカルルの前にオオトカゲの死体が10匹転がった。
「よし」
ついで、カルルはオオトカゲ達の左の前足をナイフで切り取った。魔物の討伐の報酬を受け取るためには、ギルドにその明確な証拠を提示しなければならない。
近隣住民や仲間の冒険者からの証言も有効らしいが、1番分かりやすいのは魔物の体の1部を持ち帰ってやることだ。
オオトカゲの場合は尻尾は何度も生え変わるため殺した証拠としては弱い。なので、何よりも切り取りやすくて持ち運びが楽である、足の1部を回収したのである。
これをギルドの受付に持っていけば報酬を受け取れるのだが、カルルは物足りなさを感じた。
ほかのクエストも受ければ良かったかもしれないと思いつつも、他にやることはない。帰ろうと踵を返した時のことだった。
目の端の方で、黒い影が横切った。
「...?」
ゆっくりと振り返るが、そこには何もいなかった。
気のせいかと思い元きた道を戻ろうと視線を戻すと、再び影が動いた。ヒュンッという、風を切る小さな音も聞こえた。
何かがいる。緊張のあまらら、オオトカゲの左足を握った拳に自然と力が入る。
何かに狙われている。そういった危機感を覚えたカルルは急いで口笛を鳴らした。
5秒と経たずうちに、幾つかの魔物達がカルルの元に集った。
オオトカゲ、ゴブリン、コボルト、肉食コウモリといったあらゆる魔物たちだ。数はそれぞれ3匹ずつ。各々はカルルの能力で使役が可能だ。
それから、カルルは命令した。
「周囲を警戒しろ!何かがいる!」
聞くが早く、魔物達はカルルを守るように囲いつつ、周囲に視線を動かしている。
その刹那、血飛沫がカルルにかかった。
1匹のゴブリンが首を跳ね飛ばされたのだ。
ついで、焦りを感じる瞬間も与えないとばかりにコボルト2匹と残りのゴブリン2匹が同様に始末された。
カルルの呼吸が荒くなる。姿の見えない魔物は、今まさにこちらの命を奪おうとしているのだ。
ふと、背後から強い衝撃を受けた。
大きく突き飛ばされて、カルルは地面に衝突した。咄嗟に受身は取ったため、落下のダメージはない。
背中に痺れるような痛みがあるが、そんなことは気にしていられない。
体を持ち上げつつ振り返ると、そこにはカルル達を襲っていたであろう魔物がいた。
それは鳥だった。全長は2メートルを優に超えているだろう。
真っ直ぐに伸びた嘴を日光で輝かせているその鳥は、見るからに強靭な3本の足でガッシリと大地を踏みしめている。
魔物の名称はスピアドリ。ここに来る前に読んだ魔物図鑑に、そう書かれていた。
空は飛べないが、前1本と後ろ2本の、計3本の足で凄まじい速さで大地を駆ける他、鋭利な槍のような嘴と鉤爪で獲物を仕留めるという。
肉食の鳥だ。嗅覚も敏感で、血の匂いに強く反応するらしい。
血の匂い___
カルルは周囲を見回した。
そこには、己血溜まりに伏せているオオトカゲの死体が転がっていた。
こいつらの血に反応したのか...?
見ると、スピアドリはオオトカゲの死体に嘴を突っ込んで血を啜りつつ肉を嚥下していた。
どうやら、カルル自らが凶悪な魔物を引き寄せてしまったろはようだ。
どうやって逃げるか考えていたが、スピアドリはこちらを見向きもせずに1匹、また1匹とオオトカゲを食することに夢中になっている。すさまじい食欲で、既に3匹目のオオトカゲの肉を食べ尽くしてしまった。
どうやら、カルルよりも食欲を優先しているらしい。
4匹目に嘴を入れているところで、足音を忍ばせつつその場から早足で立ち去った。
本来ならば立ちすくんでしまうのだろうが、カルルは冒険者だ。少しばかりの命の危機は乗り越えてきた他、恐怖した経験は幾度となくある。なので、今のような恐ろしい出来事に直面したとしても、体がこわばって動けなくなるということはないのだ。
十分な距離を置いたら全力で走り、森をぬけてギルドに急いだ。




