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能力があれば、それを活用するために自分から学ぼうとする姿勢は必須だと思うんですよ。
それから。
カルルは、森の周辺を歩き回り、一定数の魔物を仲間にしていった。
カルルの能力を適応させるために必要なトドメは、途中で試行錯誤はしたものの、思いのほか難しくはなかった。
やり方は簡単だ。まずは、従えている複数の魔物に指定した敵を殺す寸前まで叩かせる。能力によって、そのような加減をさせることも可能だ。
それまでカルルは手出しをしない。下手に前に出たりしたら、怪我をする恐れがあるからだ。
魔物の変えはいくらでも効くが、カルルという人間は1人しか存在しない。出来る限り、安全な方法を取ることは何よりも優先されるべきことだ。
そして、一斉攻撃を受けて虫の息になった魔物に対し、カルルが攻撃をして直接トドメを指す。このようにして、魔物達を味方に加えていった。
歯の生えた大トカゲ。日光を好むコウモリ。歩行する肉食の植物といった、様々な魔物がカルルの手中に収まっていった。
特定の魔物の命を直接カルルが奪うことで、その同類の魔物を無限に従えることができる。
カルルは、ここまでやってようやく自分の能力を理解した。
これらの魔物を味方にするために、かなりの魔物___特にコボルトが死骸と成り果てたが、それについては何とも思わなかった。
魔物は、あくまでカルルの目的を果たすための武器に過ぎない。剣士であれば剣。魔法使いであれば杖のようなものだ。
武器と手を取り合って会話をしたり、手を組んで歩いたりするだろうか?
そんなことをするはずがない。魔物は生きてはいるが、カルルにとっての戦闘を行うための手段に過ぎないのだ。
使えなくなれば新しい物を手に取る。新たな物に取り替える。こんなことは常識だ。
それから、カルルは街に向かった。
森から歩いて10分のところにあるその街は、賑やかな雰囲気で溢れていた。
カラフルな石畳の上を人や馬車が行き交い、道の脇に軒を連ねる店では、商人と見られる大きな腹をした男達が、果物や鮮魚などを売り捌いていた。
カルルは、そのような雰囲気を横目に1人で歩いた。
魔物達は森に帰らせた。人目の多い場所で魔物を連れ歩くという目立つマネはしたくなかったからだ。
それに、能力を使って呼び出せば10秒と経たないうちにカルルの元に来るので連れて歩く意味がない。
暫く歩き、カルルは書店に立ち寄った。
店内はシンと静まり返っていた。見渡す限り、客はカルルを除いて1人もおらず、店の奥では年老いた店主が退屈そうに欠伸をしていた。
いつもは混んでいるのだが、たまたま空いている時間にやってこれたようで、己の幸福に感謝した。
書店とは言うものの、店には本は1冊も置いていない。あるのは、店内の両脇に置いてある長細い机と、その上に等間隔に鎮座している水晶玉だけだ。
カルルは、黙って水晶玉に近づくと、手の平をかざして一言呟いた。
「魔物図鑑・上」
その言葉に呼応するように、水晶玉から光が放たれた。光はカルルの胸の前に集約され、徐々に形が作られていく。
光が収まる頃には、カルルの手には分厚い本が握られていた。タイトルは魔物図鑑・上だ。
この書店では、このようにして本を入手する。水晶玉に手にかざしながら、希望する本のタイトルを呟くというスタイルだ。
すると、現在発行されている本に限り呟いた本人の手元に届けられるのだ。
どこかの魔法使いがこの水晶玉を発明したらしいが、それに関しては興味がないので全く知らない。
とにかく、後はその本を店主の前に持って行き、会計を済ませれば買い物は終わりだ。
カルルは店主の前に図鑑を置くと、カルルは自分の親指の皮膚を噛み切った。そして、カウンターの端に積み重なっている羊皮紙を1枚手に取り、そこに血判を押した。
店主のいる後ろの壁に、料金の後払いをする方法について書いてあった。カウンターの脇の羊皮紙に血判を押すことで、支払いを後回しにできるというものだ。
今はお金がないが、これから新たに味方につけて行くべき魔物の情報を知る必要がある。カルルは冒険者をしていたとはいえ、魔物の知識を網羅しているわけではない。
それに、能力の関係上魔物の最低限の知識は必須である。何も知らずに使ってしまえば、能力を最大限に活用出来るとは思えない。
「これでいいのか?」
「結構です。ですが、お支払いは出来る限りお早めにお願いしますよ」
年老いた店主は、血判の押された羊皮紙をカルルから受け取りながら、しゃがれた声でそう伝えた。
こうして、カルルは魔物図鑑・上を手にして店を後にした。




