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歪な世界の反逆者  作者: アレシア
1章
3/9

魔物を使役する能力

「ここは真っ直ぐ進め」


「はい」


「次は左だ」


「あの...どこに向かってるんですか?」


「行けばわかる。今は黙ってアタシに従っとけ」


こんなやり取りをしながら、カルルは女神の言われるままに歩いている。


かれこれ20分近くは歩いている。徐々に森の奥深くに進んでおり、辺りの木々の密度も増えている。


樹木に日光を遮られる関係上、周囲が薄暗い。進めば進む程に暗さが増していき、カルルは不安で胸が満たされていくのを感じた。


「よし、着いたぜ」


女神の声に反応するように顔を上げる。


しかし、そこに目新しいものは何もなかった。依然として、木々と草花が密集しているだけだった。


「何もありませんが?」


「遠くの方をよーく見てみろ。何か見えねぇか?」


言われて目を凝らす。正面の、木々の隙間から見える場所に何かがいる。


全身が茶色い毛皮で覆われた、2足歩行の魔物だ。背丈は10歳の少年程度。頭は犬だが体付きは人間とよく似ている。長い舌をダラリと垂らし、片手には粗雑な棍棒を握っている。


数は1匹。カルルはこの魔物に見覚えがあった。


名称はコボルト。薄暗い場所を好んで生息する魔物だ。知能は低くて力も弱い。初級冒険者の練習相手に匹敵するような個体である。カルル自身が初級の冒険者だった頃に、練習のために大量に討伐をした経験がある。


普段は集団で行動しているが、その群れから2、3匹程度がはぐれることは珍しくない。


今カルルが目撃したコボルトも、はぐれたうちの1匹なのだろう。


「これから、テメェが持つ能力について教えてやる。手始めにあの魔物を殺せ」


「え?コボルトをですか?能力の説明とどう関係が?」


「殺した方がテメェの能力を説明する時に都合が良いんだよ。さっさとやれ」


苛立たし気に口を動かす女神に、カルルは黙って頷いた。言う通りにしなければ説明してくれないようだ。


「...わかりましたよ」


女神が映っている水晶玉を足元に置くと、カルルは口笛を吹いた。


その甲高い音に反応して、コボルトがこちらにゆっくりと振り返った。


目は血走っており、舌の先からは下品にもヨダレをダラダラと垂らしている。


コボルド側としては、最高の餌が見つかったと歓喜しているのだろう。


数秒間の沈黙の後、コボルトが手足をバタつかせながらカルルに飛びかかった。口を大きく開けて、鋭利な牙を頭に突き立てるべく迫っていく。


しかし、カルルはそんな相手の動きに驚くこともなく、慣れたように体を少しだけ横にズラして噛みつきを避けた。


飛びかかってくることは、コボルトが馬鹿の一つ覚えのごとく頻繁にしてくる攻撃方法だ。もう数え切れない程見てきた。


それから、近くの木の枝をへし折ると、すぐ横を通ったコボルトの眼球目掛けて、力任せに突き刺した。


片方の眼球を潰されたコボルトは、空中でバランスを崩して倒れ込み、絶叫しながらのたうち回った。


カルルは、そんなコボルトの首に片足を乗せて、体重をかけた。


それから体全体を捻じると、ボキンという生々しい音がした。コボルトの首の骨が折れた音だ。


音と共に、コボルトは横たわったまま少しも動かなくなった。


コボルトは非常に弱く、大型の犬よりも脆弱だ。丸腰であっても、魔物を屠ることを生業としている現役の冒険者か、冒険者を経験していた者であれば負けることはない。


「これでいいんですか?」


コボルトが確実に死んだことを確認してから、女神との会話を介している水晶玉を拾って尋ねる。


女神は、満足そうに何度も頷いていた。


「良い感じだ。そんじゃ、アタシが与えてやったアンタの能力について説明してやるからな」


ようやく能力について教えてもらえる。カルルは、期待感を膨らませて耳を傾けた。


女神いわく、カルルに与えた能力とは「魔物を使役する」力らしい。


何らかの方法で命を奪うことで、特定の魔物...ここでいうところのコボルトは無限に従えることが出来るとのことだ。


女神に能力の使用を促されて、カルルは実際にやってみることにした。


頭の中で魔物の名称を読みあげた後、「使役」という単語と使役したい数を付け加える。今回は2匹にした。


すると、5秒と待たずにコボルトが2匹、カルルの元に走ってきた。


変わらずヨダレを垂らしてはいるが、目は極めて穏やかだった。しかも各々の尻尾が激しく振られている。


これは、友好的であることを示している。つまり、敵意はなくカルルに懐いているということだ。


「能力の前では、魔物はどんな命令であってもテメェに従うぜ。走れと言えば走り、死ねと命令したら即座に命を絶つ...すげぇだろ?」


なるほど。カルルは、試しに1匹のコボルトに向かって死ねと命令した。


すると、間髪入れずに自分の舌を噛み切って、そのまま自死した。


すぐ横にいたもう1匹のコボルトは、特にそのことに動じることもなく変わらず尻尾を振っている。


カルルは唸った。


確かに凄い能力だ。決して人に懐くことのないと言われていたコボルトを、こうも簡単に手懐けることが出来るとは。


コボルトはともかく、このような能力があれば、人間を遥かに凌ぐ力と知能を持つ魔物でさえも使役することが出来るということだ。


それらの魔物で軍隊を作り、戦いを挑めば転生者にも抗えるかもしれない。


能力自体は優秀で喜べるものではある。しかし、それを発動させるには対象の魔物の殺し方に条件があると女神は言った。


途中経過はともかく、必ずカルル自らが、従わせたいその魔物にトドメを刺さなければならないというものだ。


今回は、コボルトをカルル自身が殺したので能力が適応された。これから、どのような強い魔物が相手であっても、後で使役したいのであれば最後は必ずカルル自身の攻撃で倒さなければならない。女神はそう説明した。


冒険者とはいえ、カルル自体は戦闘がそこまで得意ではない。武器の扱いに長けているわけでも、特別な魔法を使える訳でもない。


これから強くなるために、武器や魔法の練習をするのか。それとも、何か別の方法を考えるのか。


とにかく、女神から与えられた能力頼りという訳にはいかないようだ。


「んじゃ、説明は以上だ。早いとこ強くなって転生者共をぶっ殺してくれよな。暫くしたら様子を見に来てやっから、それまで死ぬなよ?」


こちらの感情を知ってか知らずか、女神が淡々と言った。


それとほぼ同時に、会話のやり取りに使っていた水晶玉が、空気に溶けるように消えてなくなった。


水晶玉が消えた後も、カルルは暫く呆然としていた。


今の彼には、取り留めのない不安と恐怖がのしかかっている。


トドメを刺すのは良いが、また死んだらどうしよう。カルルは、自身と同じ強さを持つ、とある魔物に殺された。それから女神に蘇えらせてもらったのだ。


格下の魔物であれば安心して戦える。しかし、同レベルかそれ以上であると、死ぬ瞬間の痛みと恐怖心が蘇ってくる。


先行きが不安になり表情を曇らせるが、すぐに靄を払うように頭を振って自分のネガティブな感情を否定した。


大丈夫だ、きっとどうにかなる。安全にトドメを刺す方法なんていくらでもあるはずだ。今は分からないけれど、コボルト以外の格下の魔物を味方にしながら、その方法を探していけばいいだけだ。


考えるよりもまずは行動だ。まずは出来ることから始めよう。


カルルは自身を叱咤して、足を前に踏み出した。

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