妖狐佐々木戦争 撤退と攻勢
ここは佐々木組シマ内の路地裏。そこで苛烈な戦闘が繰り広げられていた。
目の前にいるのは佐々木組の特別攻撃部隊「伍人組」の烏と唐獅子。僕達は佐々木組のシマ内に構えていたヤサからの撤退中に襲われたのだ。
なんとか応戦したものの相手は歴戦の猛者、僕は身体中が傷だらけになり、腹の傷は裂け、背中もバッサリ切られた。
対して奴は腕の傷以外ほとんどなし。
(クソが……)
完全に劣勢、それは誰が見ても明らかだった。
そしてもう反対側ではシオンと烏が命を削りあっていた。
「くたばるが良い! 狐の者よ!」「くたばる訳ないでしょ……」
互いの刃が火花を散らしてぶつかる! こっちは僕達とは反対に手数ではシオンの方に分がある。しかし烏はその攻撃を眉一つ動かさずに全て防ぐ。
(こいつ……強い。剣士としてほとんど完成されている)
それを察したシオンは変化を作りに行く! なんと隙間もほとんどないような斬撃の合間を縫って蹴りを跳ね上げたのだ!
「むっ!」
烏は一瞬反応が遅れるもギリギリで躱して一度後ろに下がった。
「やはり侮れんな。一つ問うても良いか?」
そして烏がそう言った。
「……」
それに対してのシオンの返答は無……だが烏がそのまま続ける。
「実は我の身内もお主のような奴にやられてな。腕は飛ばされ、足も繋ぎ目が粗末なせいで動きが悪い……なぁ、お主であろう? 我が弟をいたぶったのは……!!」
その瞬間、烏からまるで刺すような殺気が放たれる。
「弟……もしかして柳ってやつ?」
シオンはその傷を負わせた相手に覚えがあった。
「そうだ……よくも我が弟を!」
その瞬間、烏がまるで空間を切り取ったかのように一瞬で距離を潰す!
「くっ!」
(速い……!)
そして、烏が目にも止まらぬ猛攻を繰り出す!
「弟の足と腕の代償はお主の首で埋め合わせる!」
「やらせる訳ないでしょ!」
シオンは冷静にその斬撃をいなすものの烏が止まらない! 次第にシオンの体から血が噴き出る。
その時、シオンが反撃に出る!
「ハァアア!!」
なんとシオンが能力を使って強引に奴の制空圏から抜ける!
「逃げるなぁ!!」
当然の如く烏がシオンを追って前に出る! その時、シオンがあの構えをとる!
(妖狐流双刀術! 獅子爪乱舞!)
そして目にも止まらないほどの速さで斬撃を飛ばす! これには奴も対応できずに倒れる……そう思われた。
だが、
「その程度でこの烏を抑えられると思ったか?」
なんと烏はシオンの攻撃を一瞬で止めたのだ!
(なんだ? これ……)
だが普通ならそんなのも弾き飛ばして猛攻へ繋げる、それがシオンの使う「獅子爪乱舞」のはずだ。しかし烏の刀一つ、しかも押さえられているのも小太刀一つ、それだけでシオンは全く動けなくなっていたのだ。
「すごいだろ。我の生み出した「重心取り」は……これこそ我が剣の肝よ」
「重心取り? ……」
「あぁ、我が一族に代々伝わる剣技の深奥よ。相手の刃に刀を合わせ、適切な力を加えることで敵の力との絶妙な拮抗を生み出す」
実際にその言葉通りシオンは動けなくなっていた。
その次の瞬間!
「チェリャァァアア!!」
烏が動きシオンの右にぬるりと入り込む! そして、シオンの脇腹を豪快に切り上げた!
「チッ!」
(反応が遅れた!)
傷口から血が勢いよく噴き出す。シオンは一瞬で奴から距離を取る。状況がとてつもなく悪い。
シオンはあくまで暗殺者、そのため戦う時は常に先手を取り、短期で仕留めることを得意としているしそのための訓練をしてきた。
だが先手を取ろうとも一度見切られれば動きを止められて確実に一撃を喰らってしまう。離れて戦おうにもその手段がない。
(どうすれば……)
その瞬間、烏が再び突っ込む!
「さぁ! 大人しく我が弟と同じ運命を辿れ!」
それを見たシオンも迎撃態勢に入る。そして、周囲の空間に絶え間なく金切り音と火花が咲く!
「くっ……ぁぁああ!!」「くたばれぇい!!」
シオンは能力を惜しみなく使い、奴の更に上を行こうとする! だがその攻撃を烏は全て防ぐ!
(確かに……私では、勝てない。でも!)
次の刹那! シオンが烏の足を力強く蹴りつけた!
「何っ⁈」
これには烏も予想外で体勢を崩す。
(今!)
そしてシオンが烏の背後へ回り込む! そして、
「一発。お返ししとくね!」
そう言って烏の背中に巨大な刀疵を刻み込んだ!
「ぐぉおおお!!」
奴の背中が紅に染まる。そして烏が前に飛び、シオンと距離を取った!
ここまでの戦闘。明らかに僕達の方が劣勢だ。唐獅子は腕に少し傷がついた程度で烏も背中を裂かれているがそれ以外はほとんどない。
対して僕は背中を裂かれ、腹の傷も開いている。シオンも脇腹を斬られており出血が止まっていない。
(間違いない。このままだと……僕達は、死ぬ)
既に敗色は濃かった。僕がなんとか打開の策を練ろうとした時、僕達の周りに謎の黒い物体が落ちてきた。
((なんだ?))
僕もシオンもその正体がなんなのか一瞬分からなかったがすぐに分かった。次の瞬間、それらが閃光とともに爆発を起こした!
「なんじゃぁぁああ⁈」「ぐぅぅうう!!」
烏と唐獅子は反応が遅れ、爆風の餌食になる。対して僕達は、その爆風に乗じて屋根の上に飛び乗っていた。
「クソがっ! アイツらどこ行きやがった⁈」「クソッ! 煙で見えん!」
あの狭い路地は爆煙によって完全に視界を塞がれたのだ。そして僕達は爆発を起こした張本人と向かい合った。
「本当に、助かった」「お怪我はもう大丈夫なんですか?」
「「リンさん」」
「うん。2人が無事なら良かった」
その張本人とはあの襲撃による怪我から復帰したリンさんだ。実は戦闘が始まった時、仮面の通信機能を通して妖狐衆本隊へ状況を伝えていており、それを聞いたリンさんが応援に駆けつけてくれたのだ。
「2人とも、怪我はない?」
「はい」「まだ動けます」
そしてリンさんから作戦を伝えられる。
「逃げるよ。これから一度全員でアジトに帰還する」
「分かった」「承知しました」
そうしてその場である程度止血した後、僕達はなんとか撤退を成功させた。
その後僕達はアジトに戻った後怪我の治療をし、その間に龍樹さんと百合さんが魔素苦のメンバーを見つけてアジトまで連れてきた。そして現状の整理と戦力把握が行われた。
「まず状況として、俺たちは魔素苦の元アジトを使ったヤサを構えていた。そこで主な行動を行い、蛇川は行方不明、伍人組のコブラは戦線離脱、淺間が一瞬戦線離脱した。そして米倉と柳の2人組が本隊を襲撃したが結果戦線離脱だな?」
「はい。そして龍樹くんがコブラとの戦いによる解毒と治療のために現在戦線離脱。それに佐々木組シマ内にあったヤサを襲撃され、ヤサを失い、烏と唐獅子と名乗る伍人組の者と戦闘。シオン、ヨウタくん両名が負傷です」
「それとコブラが言い残した不自然な言葉。おそらく私を襲った男は佐々木組と何かしらの関係があるようです」
『……』
その場を静寂が包み込む。状況は決して良くはない。元々佐々木組のシマ内にヤサを構えたのも今ある佐々木組の監視体制を掻い潜るためだ。
でもヤサがなくなった今、それは不可能に近くなった。
(一体どうすれば……)
その時ずっと黙っていたシオンが口を開いた。
「お頭。皆さん。私に一つ、策があります」
それに全員が反応し、顔を向ける。
「シオン。なんだ? 策って」
そうしてシオンが語ったのは全員の度肝を抜くようなものだった。
「今私たちの戦力は魔素苦メンバーの20人、お頭、リン先輩、副長、龍樹先輩、ヨウタ、私の26名。
対して向こうは武闘派、事務方構成員合計でおよそ70名、伍人組の生き残り4人、それに赤坂、梶野、淺間の合計77名。ですがその内30名はここの監視にいるため実質47名です。そこで提案なのですが、私たちの総力で佐々木組事務所を急襲しましょう」
なんとこんなことを言ったのだ。
『はぁぁあああ⁈』
これには全員空いた口が塞がらない。
「私たちが倒さねばならないのは組長の佐々木忠徳を含めた計8名です。他にも構成員は大勢いますが、それらを出来る限り無視して突撃すれば、奴らの首に手が届きます」
シオンは自信満々で説明を終えた。確かにこの作戦が成功すればこの戦争は一気に終局へ向かう。だが勝算は聞いたところ5分と言ったところ。そんな作戦にこの先の未来全てを賭けるべきなのか全員が悩んでいた。
その時お頭がゆっくりと口を開いた。
「シオン。いい作戦だな」
(え?)
衝撃だった。お頭はこの作戦に乗らないと思っていたからだ。
「今、目下の課題は佐々木組に勝つこと。だが、俺たちはその先にもっと大きな目標を持っている。その為にもここで足踏みするわけにはいかない。俺はこの作戦に賛成だ。皆は?」
そう澱みなく言った。確かに大事なことを忘れていた。僕たちはこの先の未来にまだ大仕事が残ってる。
「僕も賛成です」
僕は決意のこもった眼で言った。そしてそれに呼応するように皆も賛同してくれた。
「や、やりましょう」「えぇ、楽しそうです」「やってやりましょう」
そうして反転攻勢から戦争終結まで駆け抜ける作戦が始動した。
そしてこれから、この戦争は巨大な嵐の中に突っ込むことになる。
さて、いかがでしたでしょうか?
更新が遅くなってしまい誠に申し訳ございません。
今回はかなり戦況などの変化が起きる第一歩となるためお楽しみいただけたら幸いです。
ではコメントや感想、評価などありましたらしていただけると嬉しいです。




