護衛任務
色々とあったがみんなで食事を楽しんでいるとお頭が口を開いた。
「さて、今日で今週の当番が終わりだな。来週は、龍樹とリンが見張り、百合と俺が料理、ヨウタとシオンがその他家事だが、明日はヨウタ達は俺と一緒に行動してくれ」
「え?」
カレーを頬張りながら反応したからすごいアホみたいになった。
「なんでですか?」
カレーを飲み込んで質問する。
「実は明日、組織同士の定例会議があってな。正直いらないんだが、その護衛として来てくれ」
「は、はい……」
(要らないんなら良くね?)
なーんて考えが頭をよぎるが一日三食六人分作るよりも確実に楽だから喜んで引き受けた。
「任せてください」
そうして食事が再開される。食べ終えて片付けて部屋に戻る。すると壱式戦闘服が目に入った。
(久々に抜いてみるか)
そうして刀を抜くと思ったよりも重さを感じた。振り回せない程ではないが体の衰えを感じる。
(そういえば、まともにトレーニングしてなかったな)
一週間前のシオンの言っていたことがよくわかった。それから少し素振りをしてから布団に入り、少し考え事をしていた。
それは一週間前、買い出しの時にいたあの二人の男。泥棒男と殺気ダダ漏れ男。気にかかるのは二人の異質さだ。泥棒男はぶつかった時、異様な程の力を感じた。あれは力仕事をしている一般人なんかでは片付けられない程だ。
もう一人の殺気ダダ漏れ男は分かりやすい。一般の人達があそこまで色濃く、おぞましい殺気なんて放たない。そして、それらがなぜ頭から離れないのか…….それはこの二人ともが「佐々木組のシマ内」にいたからだ。僕はここに来てから、あまり日数は経っていないが一般人とそうでない奴の見分けはつく。
あの二人は恐らく「裏」の人間だ。
僕が言えた事ではないが、他組織のシマ内に潜入なんてリスクがデカすぎる。現に僕たちも出来る限り目立たないようにしていたのだから。でもあの二人はそんな素振りなんて少しもなかった。
そしてそれらから考えられるのは一つ。
(佐々木組の……人間?)
もしそれが当たっているならば、かなりまずい。明日の定例会議で僕はお頭の護衛。そうなると、佐々木組も護衛を連れている可能性が高い。
もし、それにあの二人のうちどちらかがいれば。
そしてもし、顔が分かっているならば……。そうなれば組織に対して挑発、宣戦布告をしたと見なされ戦争になってしまう。それだけは回避しなくてはいけない。何故シマに入った事が引き金になり得るのか、それは組織同士の関係にある。
実は、妖狐衆は七年前にできたばかりのいわば新興組織だ。対して佐々木組はなんと戦前から存在する組織でここら辺のドンとも言える存在。
ここからが重要なのだが実は妖狐衆のシマは元佐々木組のシマの一部でありその中でもより収益の高い1番地区を取っていったのだ。新参者が歴史ある組織からおいしいシマだけを持っていく……そんな事があったせいであまり仲は良くないそうだ。つまり、佐々木組に何かしらの口実があれば真っ先に潰しにくるのだ。
例えそれが「シマに忍び込んだ」と言うものであっても……。
(なんとかしないとな……)
そんなふうに考えながらゆっくりと眼を閉じた。
「ピピッ、ピピッ」
目覚まし時計の音で目が覚める。時間は6時。伸びをしてベッドから出る。あくびをしながらカーテンを開けて太陽の光を全身に浴びる。
(始まっちまったな)
僕がこんなふうに思っている理由。それは一重に今日の会合が憂鬱でたまらないからだ。もう、理由を考えるだけで一挙手一投足が重くなってしまう。
そうして着替えて下に降りる。
「おはようございます」
下では百合さんとお頭が料理をしていた。朝から幸せな匂いが肺を埋め尽くす。
「おう」
「おはようございます。ヨウタくん」
二人が挨拶を返してくれる。
(今作っているのは……雑炊かな?)
覗き込んでみると百合さんが鍋の中にある米と食材をかき混ぜていた。それから僕は洗面所へ行って顔を洗い、弍型戦闘服に着替えた。そうすると洗面所の扉が勢いよく開く。起きてきたのは、シオンだ。
「あ、おはよう」
咄嗟に声をかけるが返事はない。そりゃそうだろう、実はシオン、寝起きが結構悪い。ちょっと前なんて朝食の準備にも起きてこないから見に行ったら毛布にくるまってミノムシみたいになりながら寝てた。(起こすの大変だった……)
そしてシオンが僕の横で歯を磨き始める。その時シオンが僕に小声で話しかける。
「護衛さ、控えめに言ってもヤバくない?」
「うん、ヤバい」
その瞬間僕たちは同時に途轍もなく大きなため息をついた。
「なんとかしないとね……」
今回の会合が憂鬱な理由、それは「戦争の発端となってしまう」その一点だ。今日の会合に僕たちは護衛として参加する。しかし昨日も言った通り相手に存在などがバレればとてつもなくまずい。
だから今日成し遂げなければいけないのは、
1,相手に顔を見られないようにする。
2,相手が僕たちのことを認知しているかを探る。
の二つだ。
「二つ目は運だとしても、一つ目はなんとかしないとね。なんか案ある?」
「うーん……仮面付けてく?」
「え?」
(本気で言ってるのか?)
確かに顔を合法的に隠すには最も良い手段だ。だけれども会合の護衛、他組織の長と会う場で顔を面で隠すのはなんか不敬だってお頭から怒られそうだ。
「確かに良い手なんだろうけど、それお頭から怒られない?」
「うーん、分かんない」
「えぇ……」
そうしているとシオンの支度が済んだため洗面所から出て食卓へ向かう。それから程なくして龍樹さんとリンさんが降りてきて朝食が始まった。静かに雑炊を食べているとシオンが急に口を開く。
「お頭。今日の護衛ですけど」
「ん? どうした?」
お頭が不思議そうな顔をしている。
「あの……仮面つけてっちゃ、ダメですか?」
そして正面からこの質問をぶつけたのだ。
「ん? 仮面って……はぁ?」
お頭が呆れたような顔をしている。そして少し考えた後、
「流石にダメだ。これは会合なんだから何も包み隠さないのが礼儀だ」
「……はい」
予想できた返答だ。だがこれでは奴らに見つかった瞬間大事になってしまう。
(どうしよう……)
そう考えながら朝ごはんを食べる。それから十数分で食べ終わり片付けている時にとあることを思い出す。
(そういえば、)
その時僕は一瞬で台所に器を置いて自分の部屋に戻り、棚を物色する。
「あれ〜? 確かここに……あった!」
そうして出てきたのは両耳にかけることのできる装置。
「これを使えば……」
そう、これの正体はリンさんがくれた収納型のマスクだ。そして僕はそれを耳にかけてボタンを押してみる。幸いにも装置は壊れておらずしっかりと顔を隠すことができた。
(よし、これで……)
そう、仮面をつけていくのはダメだ。でもそれはバレなければ良いんだ。これならお頭が見てる所ではマスクを隠せるし通信機能もあるから通信機だと言えば持っていかせてくれるだろう。
そうして僕はシオンを呼んでこの事を話した。
「なるほど、確かにこれなら良いね。でも……」
シオンは賛同してくれると思っていたが様子がおかしい。
「どうしたの?」
我慢できずに聞いてみると
「私、これ持ってない」
そうシオンが言ったのだ。
(……え?)
僕はあまりの衝撃に何も言えない。だって、今あってすぐにできる画期的な案はシオンには出来ないものだったのだから。辺りが静寂に包まれる。
その時シオンが急に口を開いた。
「まぁ、でも私にはフードあるし」
確かにその通りではあるが顔を隠し切れるわけでも無いし仮面がダメなのにフードが突然OKになるなんて思えない。
「いやそれ大丈夫なの?」
流石に確認するとシオンがそれに答えようとする。
「だって前m」
その瞬間下から声が聞こえる。
「おーい。ヨウタ、シオン、もう行くぞー!」
お頭の声だ。
「は、はーい!」
もう時間がなかった。僕は急いで刀を持って拳銃をホルダーの中にしまう。そして、
(うまくいきますように)
そう念じながら装置を付けた。
そして二人揃って下に降り、お頭の元に集合した。
「準備完了しました」
僕がそう報告するとお頭が
「分かった。じゃあ行こうか」
そう言った。そうしてアジトから出て会合の場所へと屋根伝いに向かう。
(大丈夫なのかな……)
そんな思いを抱きながら進んでいった……




