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妖狐のハンコウキ  作者: 烏丸 和臣
第一章 妖狐衆
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夕食大作戦 後編

 意味不明な行動をしようとしたシオンに問いただす。


「ちょっと待って。さっきもだけど、なんで大根そのまま入れようとするの?」


 そう、あんな空気になったのも元はと言えばシオンがあんな行動をしてそれを僕が必死になって止めたからだ。

 その時シオンの口が開く。


「だって、どうやったら良いのかわかんないもん」


(……あっ)

 そう、シオンは僕の計画に見事ハマったのだ。だが、想定ならば諦めると思っていたのをシオンは執念で解決しようとしたのだ。「出来ないのならそのまま入れれば良いだろ」ってね。おそらく僕が止めるのも計算のうちだろう。

(して、やられた……)

 こんな手段を取られた以上、カレーを台無しにしたくなければ彼女の要求を飲むしかない。


「分かったよ。ちょうだい」


 僕がぶっきらぼうに言うとシオンは


「……」


 若干不貞腐れた感じで大根を渡してきた。そうして大根を受け取り、切ろうとした時にふと気づく。


(シオンにも、教えといた方がいいのかな)

 その時心に浮かんだのは、後悔だ。

 正直、これの発端はシオンじゃない。僕だ。僕が素直に負けを認めていれば彼女を押し倒すことも、シオンにあんな行動をさせることもなかった。

 それを僕はただのみっともない意地で認めてやれなかったのだ。


「シ、シオン」


 勇気を出して声をかける。


「なに?」


 シオンは少し不機嫌に反応する。


「その、一緒にやらない? やり方は教えるからさ」


 やっと絞り出した言葉はチグハグで意図が伝わったかどかも怪しい。僕が息を呑むとシオンは小声で


「……ありがと」


 と言った。


「ん? なんだって?」


 本当にはっきり聞き取れなかったからそう質問するとシオンは、


「なんでもない。早く教えて」


 とそっぽを向いてしまった。そして大根を二つに切って教えながら二人で切っていく。まず皮を包丁で剥いていくがシオンも、僕も少し苦戦している。僕が半分くらい剥き終えたところで横から包丁の落ちる音がする。


(なんだ?)

 咄嗟に横を見るとシオンが手から血を流している。


「だ、大丈夫⁈」


 僕は瞬時に包丁と大根を置いて彼女の傷を診る。


(深くはない)

 僕は棚に入っていた布巾を取り出して彼女の傷に押してる。


「これで少しの間抑えてて!」


 慌ててそう言うとシオンは少し驚いた顔をして


「う、うん」


 そう返事をする。それを確認した僕は急いで玄関近くの救急バッグを取り、中から絆創膏を取り彼女のもとに戻ると、もう止血が済みかけているようで少し安心した。そして僕は傷を少し消毒した後絆創膏を貼った。そして一息つくと、


「とりあえずは、大丈夫だよ」


 優しく彼女に告げる。こんな時は誰でも動揺するものだからこそこういう対処はかなり大事になる。

 ……そうは言ったが彼女は僕なんかよりもよっぽど怪我には慣れているだろう。だから効果があるのかもわからない。

 その時彼女が口を開く。


「ごめん。手当させちゃって」


「別に。謝るようなものでもないでしよ」


 少し平静じゃなかったものもあってぶっきらぼうな感じで返してしまった。

 そうして互いに落ち着いた後、僕は立ち上がって大根を切り始める。


「あ、私もやるよ」


 シオンがそう言って立ちあがろうとする。


「いいから、座ってて」


 だが僕は彼女を制止した。そうすると彼女が驚いたような反応をする。

 たぶんシオンの心の中では、


(もうやれるのに)

 なんて思っているのだろうがこのままやらせてまた怪我されるのは僕が嫌だ。


「僕がやるから、やり方見ててよ」


 そう言って僕は大根を切り始めてシオンはそれをじっくりと見ている。

 そんな時、丁度洗濯物を畳み終えた龍樹さん達が来た。


「ん?なにやってんだ?」


 恐らく、もう作り終わると言っていたからまだやっているのが不思議なのだろう。


(まぁ気になるよね......)

 そう思いながら質問に答える。


「今カレーに大根を入れようとしてるんですよ」


 そう言うと龍さんが訝しげな表情を浮かべる。


「え? なんでカレーに大根なんて入れるんだ?」


「あー......」


 僕はシオンの方を少し見て微妙な反応をする。


「実はシオンがどうしても入れたいって言うので入れるんですよ」


 そう答えると龍樹さんが驚いた顔で言う。


「ええ⁈ ズル! それなら俺も入れたいんだけど!」


(マジかーーー!)

 てっきり笑い飛ばされると思っていたのに完全予想外の反応に頭が痛くなってくる。

 そうしていると龍樹さんが台所に入ってきて棚の奥から袋を取り出す。その中身は、チーズだ。


「えっ、入れたいのってこれですか?」


 念のために確認しておく。本当のことを言ってしまえば僕は今まで生きてきた中でチーズを食べたことはほとんどない。だからチーズに対してあんまりいいイメージがないのだ。そうすると龍樹さんが自信満々の顔で

「おう、うめぇからな」


 そう答える。


「いや、でも......」


 そう言いかかるが言葉が引っ込む。この龍樹さんの顔は何言っても変えない顔だ。僕が困っているとリンさんが小声で龍さんを静止する。


「あの、ヨ、ヨウタくんも困ってるから」


(やった!)

 リンさんの助力に僕は心の中でガッツポーズする。と言うのも実は龍掛さんは作戦などの指示以外は基本的にお頭や百合さんの指示よりもリンさんの言葉の方をよく聞くのだ。


(なんでかは知らないけどこれで諦めてくれるはず!)

 そう思って僕はほっと胸を撫で下ろす。だが龍樹さんは予想外の反撃にでた。


 'でもバイセン。バイセンだって入れたいものあるでしよ?」


「っ、それは......」


(あれ?)

 リンさんがなんだか揺らいでる。大丈夫かなと心配しているとリンさんも台所に入ってきてナスを取り出す。そして二人とも僕にそれぞれの食材を渡す。


「「頼んだ!」」


 そう言って僕に食材を押し付けて行ってしまった。


「......はあああああ⁈」


 僕はあまりのことに大声で驚いてしまう。


「......」


 しばらく沈黙が続くがその間、僕の口は全くがらない。そうすると、シオンが僕の顔を覗き込みながら口を開く。


「.....手伝おうか?」


「うん、お願い」


 僕は弱々しい声でそうシオンに頼む。そうして二人で協力して数分で全て銀杏切りに切り終えて鍋に水を入れる。その時シオンが口を開く。


「ねぇ、なんで別の鍋に入れるの?そのまま入れればいいのに」


「あぁ、大根もナスもそのまま入れても柔らかくなるためには時間かかるから別で茹でてから入れようかなって」


 これも実は教えてもらったもので確かリンさんから言われたのだ。どうやら話していた感じ似たような事をやって見事失敗したらしい。ってか.....


「話してもらってた時シオンもいたよね?」


「いや、聞いてなかった」


「まじかよ」


 どうりでほとんど料理が出来ないわけだ。

 恐らくこれだけでなく、今までの説明とかをほとんど聞き流しているに違いない。


「なんで教えてくれてんのに聞かないのさ」


「興味ない」


 シオンがそっけなく答える。

 自信のない僕からしたらそんな事でほとんどを任されるのは正直嫌だ。


「それに、ヨウタがなんとかしてくれるし」


「え?」


 衝撃だった。僕の思っていたシオンは無口でぶっきらぼうで何考えてるかわからないのに出来ないことが多い、そんな人だ。

 なのにそんなシオンから聞こえたのは僕への信頼であったのだ。そんなこと言われたら普通は赤面するだろう。じゃあ僕はって?


「......?」


 突然のことすぎて久しぶりの思考停止だ。

 結局しっかりとした返事もできずに黙々と大根、ナスを茹で始めた。

 数分して食材が柔らかくなってきたところでカレーの中に入れ、カレーも火にかける。


(ちなみにここの人たち、特に男性は結構大食い。だから本来お店で使うような大容量の鍋を使っているからあっためるのにも一苦労だ)

 そうしてあとは火にかけるだけになったため夕飯までは暇だ。


「じゃあ、今のうちに寝てくるね。6時位になったら起こして」


「わかった」


 そうして朝早かった僕はあくびをしながら自室に入っていった。

 それから少しした時にシオンがゆっくりと鍋に近づく。


(味見したい)

 そう、シオンはちょっとカレーを味見という名のつまみ食いしようとしていたのだ。

 そうして棚からスプーンを出してぐつぐつと煮込まれているカレーの中央をゆっくりと掬った。そしてそのままパクッと食べたのだ。


(美味しい)

 シオンがそう思った瞬間、口の中を刺すような痛みが広がる。


「......からい……」


 実のところを言うと今回、使うルーを間違えてしまいいつもより辛くなってしまっていたのだ。

 だがそんなことつゆ程も知らないシオンは僕の知らないところで仕掛けられた罠に引っかかったのだ。


「.....ヨウタ、やりやがって」


 この瞬間僕はシオンの謎リストに載ってしまったのだ。それから6時くらいになり、僕は降りて最後カレーにチーズを入れる。そして、なぜか怒っているシオンと共に夕食の準備を始めて程なくして大丸さん達も帰ってきた。

 そして夕飯だ。結果として適当闇鍋風(?) 出汁カレーは大好評で料理長合さんにも(若干首を傾げていたけど)


「様々な食材の組み合わせがとても良いですね」


 と褒められた。

 それに大丸さんと龍さんもいつもよりすごい食いっぷりでどんどんお変わりしていった。


(ただシオンとリンさんは水をすごく飲んでた)

 僕も食べてみたが本当に具材が多く、美味しいの一言に尽きる一品だった。



 こうして僕達の1週間に及ぶ料理人生活はひとまず、幕を閉じた。

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