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妖狐のハンコウキ  作者: 烏丸 和臣
妖狐衆
12/40

覚悟と仕事④

 大丸さんに監視カメラ映像の確認を頼まれたものの一つ問題がある。


(ハッキングなんて事、僕には出来ない……)

 そのため、リンさん中心で作業を進めることになった。作業が始まって少ししたがリンさんがすごい人だと改めて感じる。

 この時代、パソコンなどの情報機器が少なくなってしまったために扱える人材はかなり限られている。ましてやハッキングなんて見たこともない。


「リンさんってこういうのは得意なんですか?」


 つい気になって聞いてみる。


「そ、そうだね。ウチの組織は人手が少ないから、こういうのは重宝するし、私も戦闘よりもこっちの方が性に合ってるから」


「でもそれだと戦闘に参加できないじゃないですか」


「まぁ、基本的に後衛だしここからでも狙撃で援護はできるから」


(狙撃で援護って、そんな……)

 僕が驚いている理由、それは難易度の高さだ。

 基本的にテーザーガンは障害物の貫通もしなければ弾速も実弾とは明らかな差がある。そんなもので敵に弾を当てるのはおそらく二秒以上先を読まなければいけない。距離が離れれはもっとだ、本当にそれができるのは一流の中の一流だけ。


「すごいです! そんな、神業ができるなんて! 尊敬します!」


 心の底から称賛の声が出てくる。


「え? うん、ありがとう……」


 それにリンさんは困惑と共に答える。その顔は微かに赤くなっている。


「もう、いいから。集中して」


 そうしているうちにハッキングが完了し、映像が画面いっぱいに広がる。


(げっ、ここから探すのか……)

 探すだけでも何時間もかかりそうな量だ。


「やろうか……」


 リンさんも僕も乗り気ではないがやるしかない。



 一方龍樹さん達は二手に分かれて聞き込みを行っていた。龍樹さんと百合さんは一番地区で、大丸さんとシオンは二番地区で探していた。


(ここ、歓楽街にも地区分けというものがあり、いわゆる色街などの商業施設の集まっているのが一番地区。

 安子おばあちゃんのお店などの飲食店や個人経営のお店のある二番地区。そして、他の組織が統治している三番地区、四番地区がある)


「見つからないな」


 大丸さんがそう呟く。既に時計は十三時を回っていたが手がかりは全くと言って良いほど無い。


「一度龍樹さん達と合流しますか?」


「そうだな、行こうか」


 そうして屋根伝い一番地区に向かっていった。



 また場所は変わり妖狐衆アジト。映像の調査を始めて二時間ほどが過ぎ、僕とリンさんは既に倒れそうになっていた。


「リンさん、今どれくらい見ましたっけ……」


「え、えっとね、20箇所だね……」


 事件現場の近くを中心に見ていたが奴らは映らないし足取りもわからない。


「そういえばもうお昼ですね、どっか行きます?」


「うん、そうだね。行こっか……」


 フラフラだがなんとか外に出て二番地区の飲食店に行く。着いた先は「拓郎うどん」と書かれた店の前。

 ここは僕も一回だけ来たことがある。

 確か肉うどんが美味しくてリンさんがよく来るお店だった筈だ。店に入ると丸刈りのお兄さんが迎えてくれる。


「いらっしゃいませ。ってリンさんですか」


「はい、いつもの一つ」


「じゃあ僕は肉うどん!」


「分かりました、座っててくださいね」


 そのまま厨房に入っていった。今のお兄さんが拓郎さん。たしか戦争が終わって、部隊を離れてからうどんの道に進んだらしい。

 そして、数年前にここに開店したそうだ。だがそれよりも気になるのは……


(いつものってなんだ?)

 そう、リンさんの注文の正体だ。

 正直な話、リンさんと一緒にご飯に来たことが無いせいで全く分からない。料理を待っているとリンさんがどこからかパソコンを取り出して確認作業を続けている。


(え? ここでも?)

 こんなこと言うのはいけないと思うがずっと画面と睨めっこしてたせいでパソコンが嫌いになりそうなんだ。でも先輩だけが頑張っていて隣でうどん啜ってるなんて、なんか、嫌だ!


「リンさん、僕も手伝いますよ」


「あ、ありがと」


 そうして二人で見てると拓郎さんがうどんを運んでくる。


「はい、肉うどんと味噌煮込みうどんね」


 そうして二人の前にうどんが置かれる。


(今、なんて? 味噌煮込みうどん⁈)

 そんなうどん初耳だ。もちろんメニューにも無い。


「えっと、リンさんこれって……」


 聞くと拓郎さんが答えてくれる。


「ああ、これは俺の思い出のうどんなんだ。

 俺の故郷はここからかなり西に行ったところにあるんだが、そこでガキの頃に食べたうどんが忘れられなくてな……ここに店構えてからずっと試行錯誤してたんだ」


(なるほど)

 確かに大切なものを再現したいと思うのは自然な発想だろう。と納得する。


「そこでリンさんに味見してもらったら見事にはまってしまったらしくてね、ずっと食べてるんだよw」


 拓郎さんがイタズラっぽく笑う。そうしてるとリンさんが顔を赤くして声を上げる。


「ちょ、そんな事言わなくても」


 リンさんがここまで慌ててるのを見るのは初めてだから少し面白い。さて、謎も解けたところでお待ちかねのうどんを食べ始める。食べてみるとうどんはとても美味しく、麺はもちもちしていながらもつるっと食べれてしまう。肉もつゆが染みてて食べ応えがすごいし出汁もその二つを上手く調和させている.…..。

 そうして食べていると、横から味噌の香りが直接脳まで突き抜ける!

 そう、リンさんの味噌煮込みうどんだ。味噌のスープの中にはネギや肉、油揚げが入っておりそのどれもに味噌がしっかりと染み込んでいるのがわかる。そして麺も少し硬めみたいだがこの麺が味噌とどんな風にマッチするのかが凄いくらいに気になる。

 でも、


(一口くださいなんて言えない!!)

 そう、どれだけ食べたくても相手は先輩。しかも異性だ。なんなら距離も現状遠い。そして若干のモヤモヤを抱えながら食べ終わる。

 それから少しの間映像の確認作業を続けていたら拓郎さんが画面を覗き込む。


「何やってんすか?」


「あ、えっと。あの」


 一瞬戸惑ってしまう、だって言えないだろ? 「街の防犯カメラ片っ端から確認してます」って、なんならほぼ初対面だから余計に言えない!僕があたふたしてるとリンさんが口を開く。


「実は、今日シマ荒らしが、あってね。そいつらの、足取りを追ってるの?」


「へえ~、逃げられたんですか?」


(めっちゃ正面切って言うな.…..)


「ううん、どこから来たのかを調べてるの」


「ふぅ~ん、なんか難しそうっすね」


 拓郎さんは他人事のように返す。その時リンさんが画面に顔を急に近づける!


「リンさん、何かありましたか?」


「……これ見て」


 そう言って映像を再生する。場所は安子おばあちゃんのお店から東に50mほどの場所だ。そのまま20秒くらい映像が流れていたが全くと言って良いほど変化がない。


「リンさん、何を見たんですか?」


「よく見て……」


 リンさんはそう言いながら映像の中の路地裏のところを拡大して再生する。そこを注視すると僕も意味がわかった。そう、路地裏のところを黒い影がいくつも通っていくのだ。


「これは……」


「そうだね。一度お頭達と合流して情報共有しようか」


「はい!」


 そのまま拓郎さんのお店を後にしてアジトに戻り、全員と合流した。


「皆さん、奴らの経路がわかりました」


 そうして地図を机に広げる。


「カメラの映像から奴らは裏路地から現場に向かっています。そしてこの映像から逆算して奴らのヤサもある程度まで絞り込めます」


 そう言いながら使われたと思われる路地に線を引き、最後に円を描く。


「おそらくこの範囲内にあるかと……」


「ふむ、一番地区にすこし、二番地区がメインだな」


 そのままリンさんが続ける。


「それと、佐々木組のシマもこの中にあります。その可能性も視野に入れた方が良いかと……」


「なるほど、実は俺たちの方も情報がありまして」


 それに龍樹さんが続ける。


「聞き込みをしてたらとある人が見慣れない男が二番地区をウロついてたと聞きました。フードを被った黒いシャツを着た男、右手の袖から刺青が見えていたそうです」


「この二つから分かるのは、奴らは二番地区から現場に向かっていた。それと二番地区を刺青の男がうろついていた。そして、輩どものヤサは佐々木組のシマ内にある可能性あり、か」


 正直かなり怪しい、佐々木組は見たことも無いがこの三つが無関係とは思いにくい。

 そうして考えていると大丸さんが口を開く。


「じゃあこれからは再度の襲撃を戒しながらこの刺青の男を探そう。おそらくこの街からは出ていないだろうからな。じゃあ、解散!」


『はい!』


 作戦会議が終わったところで大丸さんが僕とリンさんに声をかける。


「お前らは別行動だ。実は司法府と連絡が取れてな。捕まえたうちの一人に尋問しても良いそうだ」


「え、そうなんですか?」


「ああ、だから明日の朝イチで行ってくれ。頼んだぞ」


 突然の大役任命、もしこれは成功すれば、この件の黒幕や、その意図まで届くものになる。

 正直荷が重い。


(でも、任されるならば……精一杯応える!)


「分かりました」


 すぐに返事する。


「よし、今日中は俺たちと一緒に刺青野郎の捜索だ。付いてこい!」


『はい!』


 そして刺青の男の捜査に向かう。



 しかし、僕はまだ気づいていなかった。この初陣が、とてつもなく巨大な事件の序章だったことに。

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