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三人で朝稽古

「おはようございます雪宮さん。本日はお世話になります」


 絢さんに水野さんが朝稽古に参加するという話を聞いて、約一週間。

 三人での稽古当日を迎えた。


「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」


 水野さんに会釈し、絢さんにも挨拶をしてから三人でウォーミングアップを始める。

 ストレッチと外郎売で身体と口をほぐしていく。


「よし、じゃあいつもよりウォーミングアップの時間は少なめだけど、さっそくエチュード始めようか」

「はい、わかりました」

「うう、いったいどんな難題がくるんだろ。もうすでに緊張してる」


 普段通りの水野さんと戦々恐々としている絢さんの対比がちょっと面白い。

 俺はリュックに入れていたスマホの脚立を取り出して組み立てた。


「あれ? 今日は動画撮るの?」


 画角を調整していると、絢さんが近づいてそう尋ねてくる。


「うん。一度演じ終わるごとに動画を確認して反省してってことをやりたくてね。もしここが本当の舞台なら、俺たちの芝居は観客から見てどう映るのかを知る機会にもなるし」

「あ、なるほど」


 今までは荷物にもなるし、二人だけでの稽古だったからこういうことはやらなかった。

 掛け合いの時も絢さんの一人芝居を見るときも、俺が絢さんだけに意識を集中させれば指導はできるけれど、流石に水野さんまで加わって三人で芝居をするとなると、見落としが発生してしまう。

 それに絢さんに人に見られるという意識と自分を俯瞰して見る感覚を体感してほしいという狙いもあるので、今回は動画を撮らせてもらう形にした。


「よし。こんなもんかな。じゃあ、ここの線までが舞台と客席の境目ね。そして横はここの線から……ここまで。オーケー?」

「はーい」

「……わかりました」

「よし。それじゃ、今回の設定を伝えるね。ちなみに一回ごとに設定変えるから」

「え!? それまともな芝居できるの!?」


 絢さんがオーバーに驚いて遮ってくる。


 あー、そうか。

 初のエチュードだと流石に難易度高いと思うか。

 いやまあ、かなり難易度高いけど。

 でも、ずっと同じ設定のエチュードをやってもしょうがない。

 一度絢さんも俺や水野さんのレベルを肌で感じてもらって、それを成長の糧にしてもらおう。


「エチュードは瞬発力も必要になるからね。今回はまともな芝居ができなくてもいい。俺や水野さんがフォローするから、頑張って食らいついてきて」

「うわぁ、スパルタだぁ……。でも、うん、頑張る」


 絢さんは俺のちょっとキツイ要求にドン引きしつつ、気を取り直してグッと気合いをいれた。

 その様子を見て、俺は微笑ましくてふふっと笑みがこぼれる。


「よし、その意気だ。あ、それとどっちかスマホのタイマーを設定してもらえる?」

「タイマーを? じゃあ私のスマホで……」

「ありがとう。じゃあ、五分に設定して貰える?」

「五分でいいの?」

「うん。長々やっても意味ないから。五分でちゃんとエチュードを終わらせられるように考えて芝居をやってみようね」

「なんか次々と難易度が上がっていってる気がするんだけど!?」


 今日は結構色んなことが詰め詰めで絢さんも大変なのはわかる。

 でもせっかく水野さんがいて普段できないことをやれるんだから、やれることはやっておきたい。

 それに芝居の構成を考える頭と体内時計を鍛えるいい稽古になると思うし。


「あはは。絢ちゃん、気のせいじゃないよ」

「だよね!?」


 水野さんも苦笑いして絢さんを労わっているが、それでも絢さんほど慌てる様子も引いてる様子もないのは、問題なくやりきれる自信があるのだろう。


「とりあえず今から設定を伝えるよ。最初のエチュードの設定は殺人事件の現場に居合わせた人たち。今から一分間、自分のなかでキャラや設定を作る時間を設けるね」

「あ、ちょっと待って! 例えば犯人とか探偵とか勝手に自分のキャラを作ってもいいの?」

「うん。自分がどういうキャラでエチュードやるのかは自由だよ。今回の設定だったら、下手したら全員犯人とか全員探偵とかのキャラ付けでエチュード始まる可能性だってあるし。そのなかで自由に芝居を進めていくのが今回のエチュードだから」

「な、なるほど……。わかった」

「他に何か聞きたいことある人いる?」


 絢さんの問いに答えた後、他に質問がある人がいないか確認する。


「いえ、私は大丈夫です」

「私もさっきの以外はないかな? 何かあったら後で聞くよ」

「オーケー。じゃあ、今から一分間計るよ。絢さん、それのタイマーもお願い」

「はーい」


 絢さんがその設定をして、スマホを俺に渡してくる。

 そして俺は始めの合図と共にスタートボタンを押した。

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