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カラオケにてリズム感の稽古

 体育祭から数日後、午前中から絢さんを駅前のカラオケボックスに呼んだ。


「えっと、唯くん。今日ってなにをする予定なの? ただ遊ぶためにカラオケに来たわけじゃないよね?」


 そう。もちろん、これは遊び目的ではない。


「うん。今日は前から考えてた稽古を教えようと思ってさ」

「おお! って、何をやるの? それならカラオケじゃなくても朝の稽古の時とか唯くんの家でもよかったんじゃない?」

「朝はできれば芝居の基礎メインの稽古をしていきたいからね。あとはカラオケのある環境が欲しかったんだ。流石にうちの防音室にもカラオケの機材はないからさ」

「ってことは歌うの?」

「歌うこともやるけど、それは後の方でね」


 今回俺が絢さんに教えるのは音感やリズム感の鍛え方だ。

 役者は基本的に音感やリズム感に優れている人が多い。

 それは音感もリズム感も芝居をするにあたって必要不可欠だからだ。

 掛け合いの時の間の感覚、セリフの始まりの音の感覚など、音感とリズム感がなければ正しい芝居ができない。


「とりあえず、まずは座学から始めようか」

「はーい」


 絢さんはノートと筆記用具を取り出してメモを取る準備をする。

 その様子を見ながら、俺はデンモクを操作した。


「前にさ、洋楽を聴いてみるのがオススメだよって言ったよね。あれから聴いたりしてる?」

「あ、うん。一応」

「オーケー。じゃあさ、今まで聴いてた邦楽と洋楽でなにか違いとか感じたかな?」

「えーっと、リズム? 曲の乗り方? が違うなーとは思ったかな。より、リズムが細かいっていうか」

「おお、いいね。その感覚大事だから覚えておいて。じゃあ今からカラオケを流すからそれに合わせて手を叩いてみて」

「ん、わかった」


 俺はデンモクの転送を押して、選んだ曲を流した。

 モニターには誰もが知っている洋楽の有名アーティストの曲名が表示され、室内のスピーカーから音楽が流れる。

 絢さんは目を瞑って身体を揺らしながら手を叩いてリズムを取っている。

 俺はそんな絢さんの様子を見ながら、指と足で同じようにリズムを取った。

 ワンコーラスが終わったところで演奏中止のボタンを押して曲を止めた。


「うん。やっぱり絢さんはリズム感はあるね。後半ほんの少しだけ走ったところもあったけど、全体的にはちゃんとオケを聴き取ってリズムとれてたよ」

「本当? まあ、バスケしてた時もリズムには気をつけてたから自信はあるんだ。ドリブルで相手を抜くときとかリズム変えたりしてさ」

「なるほど。じゃあ次は同じ曲を裏拍意識してリズム取ってみようか」

「裏拍……。えっとどんなふうに取ればいいのかな?」

「よし、じゃあ俺が一回やってみるから見てて」


 俺は履歴から同じ曲を流して、手拍子でリズムを取る。

 ンパ、ンパ、ンパ、ンパの感覚で手を叩く。

 表拍ならパン、パン、パン、パン。

 裏拍ならンパ、ンパ、ンパ、ンパ。

 このパのところでリズムを取るイメージだ。

 俺がなぜリズムの分かりやすい邦楽ではなく、リズムが難しい洋楽の曲を選んだのか。

 それは洋楽がもっと細かいリズムを意識して作られているからだ。

 これには農耕民族と狩猟民族の違いだったり、日本語と英語の言語の違いなど細かく深い理由がある。

 そういう文化の違いで洋楽はリズムが細かく、裏拍を強く感じやすいと思ったから俺は題材に洋楽を選んだ。

 もちろん、芝居で裏拍を意識することはないけれど、細かいリズム感を鍛えるためには最適だと思っている。


「っと、こんな感じ。わかったかな」

「うん。なんとなくだけど、多分できると思う」

「お、いいね。じゃあその感覚を言語化するために今からちょっと説明するね。その後にやってみよう」

「はーい」


 俺は一通りの説明と解説を絢さんにして、彼女がノートを纏め終わったら、もう一度同じ曲を流した。

 オケを聴きながら絢さんを観察すると、きちんと裏拍を感じ取れているようで、裏のリズムで手拍子ができている。


 おお、想像以上にリズム感いいな。

 それならリズム感をきた鍛える時間は最低限にして次の音感を鍛える時間に回した方がよさそうだな。


 ワンコーラス分リズムを取ってもらって、俺は演奏中止ボタンを押した。


「うん、オッケー。絢さん、リズム感本当にいいんだね」

「えへへ、褒められるとなんか照れちゃうな」


 彼女は照れくさそうにハニカミながら頬を掻く。


「でも、これは本心だよ。ここまでとは思ってなかったし。じゃあ、次の稽古に移ろうか」

「え、もう? 本当にちょっとしかやってないけど」

「絢さんは基礎的なリズム感は高いレベルで備わってるのがわかったからね。あとは定期的に自主練するくらいでいいと思う」

「そっか。うん、わかった」


 絢さんが納得してくれたので、俺はオケの音量をデンモクでゼロにし、スマホの簡易キーボードアプリを起動させてテーブルの上に置いた。

 さあ、次は音感の稽古に移ろうか。

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