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青い春など春ではない  作者: 猫屋の宿
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ぬいぐるみ

予想にもしない内容に俺は唖然としていた。

し!か!し!ここで俺が曖昧な回答をし、ひなに恥じでもかかせてしまうと俺は本当は恋愛経験ゼロの冴えない兄として見られるかもしれない。

実の妹にそんな風に思われない様にする為にもここは何とか切り抜いて見せる!


「相手の事が好きなら返事返せばいいし、そうじゃないなら素直に断ればいい。一番してはいけないのは曖昧にして答えを濁すことだ」


「おお〜。さすがお兄ちゃん。経験豊富だから本当に助かるよ〜。お兄ちゃんも告白された時はズバッと断ってたんでしょ?」


「え…まぁ…な!ハハハハハハ!」


俺は今バレない様に自然に笑っているだろうか。

目の前にいる妹は俺が本当はほとんど恋愛経験がない事を知らない。

だから、俺が言っているアドバイスはただの独り言にしか過ぎない。何の意味も効力も持たない…。


「…ねぇお兄ちゃん?逆に私に好きな人が出来たらどうする?」


「どうするって…素直に喜ぶと思うよ」


「…じゃあさ、お兄ちゃんの好きな人が別の男の子とと付き合っても?」


「え?それは…まぁお祝いぐらいはすると思うけど…」


「…その時お兄ちゃんの感情はさ…きっと素直に喜ぶ事って出来るのかな」


「難しい…かもしれない。と言うかこんな事聞いて…どうしたんだよ?」


「ううん……いや…何でもない!色々教えてくれてありがと。お兄ちゃんそれじゃあ、私は自分の部屋にもど-」


「ひな、おやすみ」


「……」

ひなはぬいぐるみを抱えたまま、自分の部屋に戻って行った。

不安と喜びが入り混じった様な顔を浮かべながら話していたひなはまだ自分の感情が上手くコントロール出来ていない様だ。

ぬいぐるみを抱えている時は口を聞いてくれるのがその証だ。

その時だけ人が変わったかの様に笑ったり喜んたり、少し拗ねたり、ハグしてくれたりする。

そう…皆んなの憧れでありゲームの中やアニメの中の様な思い描く理想の妹像になってくれるるのだ。

だか、逆に言えばぬいぐるみを持っていない時はいつもの様に俺を罵倒し、ストレス発散道具としてしか見てくれない……。

そうなれば俺の目標はただ一つ!!


ぬいぐるみを持たなくても笑ったり喜んだりしてくれるひなになって欲しい!!それゆえに会話ができる時には積極的に愛情表現を行っているのだ。

小っ恥ずかしくなってはしまうが…恥を捨て最近は冷静になり行えるようになってきたんだ。その地道な行いがいつか実を結ぶだろうと信じて!

俺は今日もハグをしながら伝えた。

最後の表情は長い髪に隠れて見えなかったが、少しぐらい反応を示してもいいのではないだろうか?

しかし…一つだけ断言しておくが俺はシスコンなどではない。

まだ成長途中の妹の手助けをしている、少し面倒見のいい兄と言ったところだろう。

それにしても…どうしてぬいぐるみを持っている時はあんなに人が変わったかの様な振る舞いになるのだろうか?

中学に入り半年程経ってからだっただろうか。それ以前までは普通に会話をし遊んだりと良くも悪くも仲のいい兄妹だったと思う。

思春期って…難しいなぁ〜。

けれど…俺に他人のことを酷く言うような事は出来ない。

俺も思春期真っ只中だけにこうして一人の女の子との話し方も分からずモヤモヤしているのだから。


………。


……。


…。


「……この気持ちって何なんだろう」


上坂は予想通りと言う言い方は悪いかもしれないがSNSに精通していないようで…唯一ネット上で繋がる事ができる手段がこの体育祭係員限定のグループチャットのみであった。

「上坂」と何も飾り気もないニックネームを見て俺はクスッと笑った。

まるでニックネームを考える時間が無駄だと言いたいようだった。それとも…本当に何もアイデアが浮かばなかったのかもしれないが…。

ただ…願いが叶うならば…上坂を友達に登録したい!


「ああ〜むりだぁぁ〜〜。俺には出来ない…この追加と言うボタンを押す事がどれだけ今後を左右する重要なものなのか、俺には分かる」


そう、今日友達追加をしてしまったら…


「…凪って誰?知らないからブロックしておきましょう」


なんて事になってしまえば俺はメッセージを送っても既読どころか読んでももらえなくなってしまう!!

これがもう少し仲を深めた状況なら…


「凪…あ!蒼井君ね。嬉しい!友達追加しておきましょう」


うん。まだ時期尚早だろう。そう言う事にしておこう!

まだ俺達の仲は友達と言っても一言二言会話を交わすだけで深い話をした事はないのだから!


「なに一人で騒いでんだ俺は……」


彼女に恋愛感情などは()()()抱いていないのに、ここまで考えてしまうのはどうしてだろう。

俺にとっては勉強など程よくすればいいものの更に上を目指そうとするその行為そのものが無駄で全く価値の無いものだ。

にも関わらず上坂はそんな行為に輝いている様に、楽しそうに、真剣に、取り組んでいたから?

もう…俺は俺自身のことさえも分からなくなっていた。

今もこうして苦痛ではあるが上坂と同じ様に勉強を続ければ何か分かると根拠もなく信じていたが、何か違っていた。

モヤモヤした曇った感情が俺の身体の中に住み着いている。

勉強をすればするほど余計にだ。

取り敢えず、考えすぎても混乱していく為、この事は一度置いておく。


明日は月曜日だ。

また学校が始まり係の準備が再開する。

なぜだが、明日の学校が、設営係の準備が楽しみだった。

日曜日と言うのはこの休みが終わりまた学校が始まる事に憂鬱感を抱きがちだったが……俺もついに()()()好きになってきたという事なのだろうか。



続く。












最後まで読んでいただきありがとうございます。

キャラクター紹介

蒼井ひな。

凪の妹でここ最近は反抗期が到来しており、兄にだけ特に酷く当たってしまう。けれど、幼い頃は兄妹仲良く、凪がいなくなるだけで泣いてしまっていたとか。

また、ぬいぐるみを抱えている時は何故か昔の様にお兄ちゃんっ子の様に甘えてくる。

本当のひなは果たしてどちらなのだろうか。

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