43 仲違いの魔法
もちろん私だけじゃなく、皆驚いたようにルーを凝視している。
「……本当に君が秋の妖精王なのか?」
訝しげにそう口にする王子に、ルーは「べぇ」と舌を出してみせる。
「見た目だけで判断するなんて随分と浅はかな王子様だね。悪い魔女に騙されて全財産毟り取られればいいのに」
「……気分を害したのなら謝るが、それ相応の立場にある者ならばふさわしい振る舞いを身に着けた方がいいぞ」
あぁ、煽りあいはやめてください!
せっかく課題も達成して、秋の妖精王(?)にお会いできたんだから、仲良くしましょう! ね!
「えっと、ルー……じゃなくて、ルンペ、ルンペル……?」
まずい、あまりにも長い名前だったから覚えてない……!
そんな私の焦りを見通すかのように、ルーはため息をついた。
「…………今まで通り『ルー』でいいよ。僕の名前、ちゃんと覚えてる奴ほぼいないし」
「そ、そうなの……」
できればちゃんと名前を覚えたかったけど、あと十回くらいは言ってもらわないと覚えられそうにない。
私はルーの前に跪き、頭を下げた。
「秋の妖精王とは知らず、数々の非礼をお許しください」
「……別にそんなにかしこまらなくていいよ。先に嘘ついたのはこっちの方なんだし、あんまり丁寧な態度を取られるとむずむずする」
「そ、そうなの……」
でもそれはよかった。
私だってルー相手にかしこまりすぎるのは、どうにもやりにくかったから。
「……ねぇ、ルー。最初に私たちと会った時、どうして秋の妖精王の使いだなんて偽ったの?」
「その方が君たちの本性が見られると思って。そういう部分も含めて試させてもらっただけだよ」
その答えに、私は思わずどきりとしてしまった。
秋の妖精王が私たちに課した課題は「地竜を無事に元の棲家」へ戻すことだった。
でもそれだけじゃなく、きっとこの国に来てからの私たちの振る舞いなんかも、彼には観察されていたんだろう。
「格下相手だと露骨に舐めてかかるやつもいるからね。君たちがそんな風なら、すぐにでも門前払いしてやろうと思ってた。……まぁその点に関しては、かなりギリギリ合格って感じだったけど」
ルーにじとりとした視線を向けられ、アレクシス王子は少しだけ気まずそうな顔をした。
確かに王子とルーの初対面、勝手に入って来たのはルーの方だったとはいえ、王子もかなり失礼なことを言っていた気がする。
あの時点で不合格にならなくてよかった……。
「ちょっとむかついたからペナルティは課させてもらったけどね。……それでもこうして課題を成し遂げてみせたんだから、僕の完敗だ」
そう言って、ルーは「やれやれ」と肩をすくめる。
よかった……。秋の妖精王である彼が私たちを認めてくれたみたいで。
……ん? でも、ペナルティって……?
そんな私の疑問に答えるように、ルーは何でもないように告げる。
「ちょっと君たち二人の心に魔法をかけさせてもらったんだよ。いつもなら気にならないような些細な不満がさざ波のように広がって、顔を合わせると文句を言わずにはいられない。そんな風に仲違いするような魔法をね」
「え?」
「は?」
私と王子は同時に声を上げてしまった。
確かに、ここへ来てから……いや、正式にはルーと会ってから、やたらと情緒不安定になりやすくなっていたような気はしたけど……。