44 ますますあなたに興味が湧きました
「……ちょっと待て。今のは本当か!?」
「自分の胸に聞いてみた方が早いと思うけど」
「くそっ、通りでおかしいと思ったんだ……! アデリーナと顔を合わせるたびに無性にイライラして、言いたくもないことを言ってしまうのはそのせいだったのか……」
王子が憤りをあらわにし、そう吐き捨てた。
そんな王子に、ルーは諫めるように告げる。
「まぁ勘違いしないでほしいのは、僕の魔法はあくまで心の片隅にある負の感情を増幅させるものだってこと。ありもしない感情を植え付けたわけじゃないよ。今回君たちが感じたのは、普段は押し殺している不安や不満。どれだけ心の綺麗な生き物でも、まったく負の感情を持たないことなんてあり得ないからね」
私は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
……そうだ。確かにルーの魔法に影響されていたのかもしれないけど、私の心を揺さぶった感情はもともと私の中に眠っていたもので。
それが魔法によって、表層に出てきてしまったにすぎない。
お互いに心当たりがありすぎたのか、私と王子は揃って黙り込んでしまう。
「……何はともあれ、約束は約束だ。他の妖精王に倣い、君たちを信頼し、力を貸してあげてもいいよ」
どこか照れたようにそう口にするルーに、私はほっと安堵に胸をなでおろし、微笑んだ。
「……ありがとう、ルー。迷惑をかけることもあると思うけど、どうかよろしくね」
「まったく……君って本当に変なところで謙虚だよね。妖精女王の孫の割に――」
「わああぁぁぁ!!」
ルーがとんでもないことを口にしようとしたので、私は慌てて大声を上げて彼の口をふさいだ。
だって今ここには……春の妖精の力を欲するフレゼリク陛下がいらっしゃるのですから!
私の正体がどこまでバレているのかはわからない……というかもうほぼ全部バレているような気はするけれど、それでも決定的な言葉は聞かれたくないんです……!
「その話はまた今度しましょう! ね!?」
必死にそう言い縋る私に、ルーは呆れたような顔を隠しもしなかった。
「……はぁ、人間って本当に勝手だ。まぁいいや、細かい話はまた後でね」
そう言って、ルーはぱちんと指を鳴らす。
その途端、周囲の光景が一変した。
「あれ……?」
幻想的なまでに美しい紅葉の世界は姿を消し、私たちは初春の明け方の山奥に立っていた。
いつの間にやら朝日があたりを照らし、静謐な朝の気配が満ちている。
ルーの姿も、私たちがここまで連れてきた地竜の姿も見えない。
「……元の場所へ、帰れたんですよね」
私たちも、地竜も。
そう口にすると、王子がそっと私の肩に触れた。
「あぁ……俺たちも帰ろう」
私はそっと王子を見上げる。
視線と視線が絡み合い、言葉よりも雄弁に互いの想いを物語る。
……そうですよね。
いろいろと、話したいことはある。
勝手な行動を取って、ひどいことを言ってしまったことを謝りたい。
たとえルーが仲違いの魔法をかけていたとしても、やってしまったことや言ってしまったことは事実なのだから。
でも、今は何より……。
「王子、アデリーナさまぁ、僕もう疲れちゃってへとへとです。早く帰りましょうよぉ」
私たちの思いを代弁するように、ひょいと飛んできたロビンが私の頭の上に着地する。
……うん。とにかく疲れてるんです。
今は一刻も早く、ふかふかのベッドで眠りたい……。
「そうね、帰りましょう。……フレゼリク陛下も、様々なお力添えいただき心より感謝いたします」
探るようにフレゼリク陛下の方を伺うと、彼はいつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべていた。
「いいえ、こちらこそ滅多にない体験をさせていただきましたので。むしろ礼を言うのはこちらの方です」
うぅ……彼の言葉は本当に本心なのか嘘なのかわからない。
優しい笑みの裏側で何かを企んでいるのでは……って、どうしても考えちゃうんですよね。
それでも、彼が私を助けてくれたのは確かなのだから。
きちんとお礼は言っておかなくては。
「ますますあなたに興味が湧きましたよ、アデリーナさん」
フレゼリク陛下が嬉しそうにそう言うと、私の肩に置かれた王子の手に力が籠められたのがわかった。
なんだかどっと疲労が増したような気がして、私は思わず大きなため息をついてしまった。




