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更新の順番を間違えました。すみません。
11話「闇夜に溶ける影の道化師」より先にこちらの幕間が入りますので割込み投稿を行います。
情が移ってはいけない。
長い間そう思っていた。そう言い聞かせてきた。
常に側にいながら、それでいて感情を見せず、私情を挟まず。
そうすることで、幾度なく訪れる“別れ”に慣れようとしていた。
そしていつの間にか――
「セイ坊……」
――ああ、またか。
心のどこかでそう呟く自分がいる。
また、お別れだ。自らの役目が終わる。
「セイ坊。セイ坊……」
――“御主人……”
「セイ坊……セーガ。ありが……」
――“…………”
いつものこと。主人の死は仕事の終了。ただそれだけ。
それだけのはずだったのに――……。
†† 主よ我が加護の元へ ††
「……セーガ?」
呼びかけると、どこかぼんやりしていたセーガがハッと顔を上げた。
そんな彼の様子は少し妙で、日向春樹は思わず首を傾げてしまう。
「どうしたの? 疲れた?」
――“いや……”
「春兄がセーガ使いすぎるからだぜ」
後ろからひょっこり弟の大樹が顔を覗かせた。
生意気なセリフと共に、これまた生意気な笑顔で見上げてくる。
そんな態度が春樹にとって嬉しいはずがなく、春樹は仏頂面でデコピンを食らわせてやった。
「いてっ」
「セーガを使いすぎてるなら、半分はおまえの子守のせいなんだからね」
「な、何だよそれーっ!」
大樹が喚くが、春樹はそれを耳を塞ぐことでやり過ごした。
構ってもらえなかった大樹は不満げに、けれど慌ててついてくる。
少し遅れ、セーガも軽い足取りで続いた。
「お、チビーズ」
聞き慣れた声にハタと足を止める。顔を上げると兄の葉がこちらに向かってくるところであった。
比較的くつろいだ格好の彼は何だか知らないが妙に偉そうだ。実際、王である彼は偉い身分なのだが。
「葉兄。今日は妙にラフだね?」
「ちょっと運動不足を解消しててな」
「……暇なんだか忙しいんだか……」
苦笑すると、葉はただ肩をすくめただけだった。春樹もそれ以上の言及はやめておく。
この兄に長々と何か言っても無駄になるからだ。それくらいは長年の経験でわかっている。
「おまえらは? 親父たちの病院か?」
「行って帰ってきたとこだぜ♪」
「そりゃ丁度良かった」
「「え?」」
奇妙な言葉に二人は顔を見合わせた。丁度良い?
「まだ時間あるだろ? だったらここに行ってきてくれよ」
そう言って葉が取り出したのは一枚の手紙。
やたら達筆な文字で書かれたソレには、ただ一言、「たまには誰か来い」と書き殴られていた。
素っ気無いにも程がある。
裏を返せば差出人らしき名前。<東雲>。
「――<しののめ>?」
「名前なんだから難しく読む必要ねぇよ。<とううん>だ」
訂正され、春樹は小さくうなずいた。その隣で大樹が大きく首を傾げている。
「誰それ?」
「俺らのひいひいじいちゃん」
「ひいひい……。……父さんの父さんの父さんの……父さんのじいちゃんの父さん……ん?」
「チビ樹、わかんなくなるからてきとーに納得しとけ」
「……おう」
すでにわからなくなっていたのだろう。指折りに数えていた大樹の返事はかなり素直だった。
それに笑った葉が、ふと春樹とセーガを見比べる。それもどこか楽しげに。
「……? 葉兄?」
「おまえらは会ったことないだろ? 一度くらい顔見せてこいよ。特に春樹」
「僕?」
「そのジジイ、そこのワンコの元主人なんだぜ? だからおまえの先輩にもなるわけだろ」
「ワンコじゃなくてセーガ! ……え?」
――“まさか”
顔をしかめた春樹がハッとするのと同時に、セーガがスッと前に歩み出た。
セーガはどこか警戒した様子で葉を見上げる。
――“……そんなはずはない”
「……そうだよ、おかしいよ。だってセーガは……」
春樹の“力”で召喚されるセーガ。彼の使命はそのつど、彼の主人を守ることである。
それもその主人の一生が尽きるまで、だ。その使命を果たさなければ新たな主人に仕えることはない。
この世に彼の主人が同時に生きていることなどありえないのだ。
「俺に言われてもな。俺もそんなに会ったことねぇしはっきりとはわかんねぇからよ。
気になるなら直接行って会ってこい」
「…………」
「葉兄は行かねーの?」
「……俺はパス」
葉はため息をついて首を振った。そんな彼に大樹が首を傾げる。
「仕事あんの?」
「いや、そーゆうわけじゃねぇけど……あのジジイとは相性悪いからな」
「へっ? ……ほとんど会ったことないんだろ?」
「一度会えば十分だ」
顔をしかめる彼に目を丸くする。奇妙な不安が春樹と大樹――そして恐らくセーガにも降り注いだ。
あの葉が、面倒とも言わずにただただ拒否するなんて?
(面倒じゃ済まないほど面倒な相手だとか……?)
正直、素直に会いに行くのは気が引ける。出来れば厄介なことは避けて通りたい。
けれど。
「……行く?」
――好奇心は、あった。
「おう! どーせ暇だし行ってみよーぜ?」
「セーガは?」
――“……確かめたい”
普段なら何よりも春樹の意見を優先させがちなセーガまできっぱりとうなずいた。
そのことにほんの少し驚き、一方で大きく納得し。
(葉兄にパシられてるだけな気もするけど……)
心の底で呟きつつ、春樹はそっと微笑んだ。
「それじゃ、決まりだね」




