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倭鏡伝  作者: あずさ
幕間「主よ我が加護の元へ」
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1

更新の順番を間違えました。すみません。

11話「闇夜に溶ける影の道化師」より先にこちらの幕間が入りますので割込み投稿を行います。

 情が移ってはいけない。

 長い間そう思っていた。そう言い聞かせてきた。


 常に側にいながら、それでいて感情を見せず、私情を挟まず。

 そうすることで、幾度なく訪れる“別れ”に慣れようとしていた。


 そしていつの間にか――


「セイ坊……」


 ――ああ、またか。


 心のどこかでそう呟く自分がいる。

 また、お別れだ。自らの役目が終わる。


「セイ坊。セイ坊……」


――“御主人……”


「セイ坊……セーガ。ありが……」


――“…………”


 いつものこと。主人の死は仕事の終了。ただそれだけ。


 それだけのはずだったのに――……。





†† 主よ我が加護の元へ ††





「……セーガ?」


 呼びかけると、どこかぼんやりしていたセーガがハッと顔を上げた。

 そんな彼の様子は少し妙で、日向春樹は思わず首を傾げてしまう。


「どうしたの? 疲れた?」

――“いや……”

「春兄がセーガ使いすぎるからだぜ」


 後ろからひょっこり弟の大樹が顔を覗かせた。

 生意気なセリフと共に、これまた生意気な笑顔で見上げてくる。

 そんな態度が春樹にとって嬉しいはずがなく、春樹は仏頂面でデコピンを食らわせてやった。


「いてっ」

「セーガを使いすぎてるなら、半分はおまえの子守のせいなんだからね」

「な、何だよそれーっ!」


 大樹が喚くが、春樹はそれを耳を塞ぐことでやり過ごした。

 構ってもらえなかった大樹は不満げに、けれど慌ててついてくる。

 少し遅れ、セーガも軽い足取りで続いた。


「お、チビーズ」


 聞き慣れた声にハタと足を止める。顔を上げると兄の葉がこちらに向かってくるところであった。

 比較的くつろいだ格好の彼は何だか知らないが妙に偉そうだ。実際、王である彼は偉い身分なのだが。


「葉兄。今日は妙にラフだね?」

「ちょっと運動不足を解消しててな」

「……暇なんだか忙しいんだか……」


 苦笑すると、葉はただ肩をすくめただけだった。春樹もそれ以上の言及はやめておく。

 この兄に長々と何か言っても無駄になるからだ。それくらいは長年の経験でわかっている。


「おまえらは? 親父たちの病院か?」

「行って帰ってきたとこだぜ♪」

「そりゃ丁度良かった」

「「え?」」


 奇妙な言葉に二人は顔を見合わせた。丁度良い?


「まだ時間あるだろ? だったらここに行ってきてくれよ」


 そう言って葉が取り出したのは一枚の手紙。


 やたら達筆な文字で書かれたソレには、ただ一言、「たまには誰か来い」と書き殴られていた。

 素っ気無いにも程がある。

 裏を返せば差出人らしき名前。<東雲>。


「――<しののめ>?」

「名前なんだから難しく読む必要ねぇよ。<とううん>だ」


 訂正され、春樹は小さくうなずいた。その隣で大樹が大きく首を傾げている。


「誰それ?」

「俺らのひいひいじいちゃん」

「ひいひい……。……父さんの父さんの父さんの……父さんのじいちゃんの父さん……ん?」

「チビ樹、わかんなくなるからてきとーに納得しとけ」

「……おう」


 すでにわからなくなっていたのだろう。指折りに数えていた大樹の返事はかなり素直だった。

 それに笑った葉が、ふと春樹とセーガを見比べる。それもどこか楽しげに。


「……? 葉兄?」

「おまえらは会ったことないだろ? 一度くらい顔見せてこいよ。特に春樹」

「僕?」

「そのジジイ、そこのワンコの元主人なんだぜ? だからおまえの先輩にもなるわけだろ」

「ワンコじゃなくてセーガ! ……え?」


――“まさか”


 顔をしかめた春樹がハッとするのと同時に、セーガがスッと前に歩み出た。

 セーガはどこか警戒した様子で葉を見上げる。


――“……そんなはずはない”

「……そうだよ、おかしいよ。だってセーガは……」


 春樹の“力”で召喚されるセーガ。彼の使命はそのつど、彼の主人を守ることである。

 それもその主人の一生が尽きるまで、だ。その使命を果たさなければ新たな主人に仕えることはない。

 この世に彼の主人が同時に生きていることなどありえないのだ。


「俺に言われてもな。俺もそんなに会ったことねぇしはっきりとはわかんねぇからよ。

 気になるなら直接行って会ってこい」

「…………」

「葉兄は行かねーの?」

「……俺はパス」


 葉はため息をついて首を振った。そんな彼に大樹が首を傾げる。


「仕事あんの?」

「いや、そーゆうわけじゃねぇけど……あのジジイとは相性悪いからな」

「へっ? ……ほとんど会ったことないんだろ?」

「一度会えば十分だ」


 顔をしかめる彼に目を丸くする。奇妙な不安が春樹と大樹――そして恐らくセーガにも降り注いだ。

 あの葉が、面倒とも言わずにただただ拒否するなんて?


(面倒じゃ済まないほど面倒な相手だとか……?)


 正直、素直に会いに行くのは気が引ける。出来れば厄介なことは避けて通りたい。

 けれど。


「……行く?」


 ――好奇心は、あった。


「おう! どーせ暇だし行ってみよーぜ?」

「セーガは?」

――“……確かめたい”


 普段なら何よりも春樹の意見を優先させがちなセーガまできっぱりとうなずいた。

 そのことにほんの少し驚き、一方で大きく納得し。


(葉兄にパシられてるだけな気もするけど……)


 心の底で呟きつつ、春樹はそっと微笑んだ。


「それじゃ、決まりだね」



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