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倭鏡伝  作者: あずさ
1話「繋がる世界」
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エピローグ 僕らだけの白い地図

 城のとある一室に響いた笑い声に、春樹は思い切り顔をしかめた。

 その根源である男を力なく見上げる。


「そりゃ大変だったな」

「笑い事じゃないよ、葉兄……」


 大して嬉しくもない慰めにため息を返す。

 そんな楽しそうに言われても、全く同情されている気がしない。

 いや、同情されても困るだけだが。


「セーガにも手伝ってもらって元の位置に戻したはいいけどさ、本とかは離れたままだし、銅像のポーズは違っちゃってるし。次の日には大騒ぎだったよ。『二宮金次郎分解事件!?』とか言って」


 みんなが騒いでいるのを聞いて、春樹は一日中冷や冷やしたものだ。

 もちろん二、三日程度で話が静まるわけもなく、今でもたまにドキッとさせられる。

 あれが自分たちのせいだと知られたら……。


「でも、大した被害もなかったんだろ? 良かったじゃねーか」

「そりゃ……まあ」


 それは事実なので渋々とうなずく。

 確かにそれは幸いだったし、早く解決出来たことは自分でも頑張ったと思う。

 ちなみにこれは余談だが、例の銅像は後日どこかに持っていかれるようだ。

 そこで処分されるのかは定かでない。

 そしてその代わりに、校長の像が新たに出来るという話が流れている。


「とりあえず、ハイ。封印したの渡しておくね」

「おう。ゴクローさん。……どうだ、この先やっていけそうか?」


 玉を受け取った葉に訊かれ、春樹はどう答えようか迷った。

 何とも言えず、仕方なく苦笑する。


「まだ一つ目だと思うと……ちょっと先が思いやられる、かな?」

「だろうな。でもてめーはやるつもりなんだろ?」

「……っていうか、やるしかないし」


 小さく呟くと、ふと葉の顔色が変わった。

 感心とも呆れともとれる表情へとなる。恐らくどちらも正しいのだろう。


「おまえは昔っからそうだよな。どんなに大変でもあまり人に頼ろうとしなくてよ」

「そうだっけ? でも、葉兄は人の頼みを突っ返すじゃん」

「あ? 人聞きのわりーこと言うなよ」


 顔をしかめる葉に笑っておく。

 だが、間違ったことを言ったとは思わない。

 彼に何か頼んでも「めんどくせえ」で終わるのがオチだ。

 もちろんその内容にもよるのだが、彼が動くにはよっぽど重要なことでないと。


「ま、おまえが平気だって言うなら口出ししねーけど」

「うん。ありがと」

「でも無茶はすんな。親父たちもうるせーから」

「わかってるよ。……でも、出来る限りやり遂げたいんだよね」


 やるしかない。

 そういった使命感はあるし、それが大半を占めていた。

 けれど、それだけじゃなくて。


 ――もしやり遂げることが出来たら、何かの自信に繋がると思うんだ。


 そう小さく呟くと、葉が肩の力を抜いた。

 ふっと小さく息を漏らす。


「てめーも根は頑固だしな。……ま、頑張れや」


 葉らしい言葉に笑顔で応える。

 春樹は大きくうなずいた。


「……それじゃ、葉兄」

「帰るのか?」

「うん。そろそろ大樹の奴がわめいてる頃だから。『ハラへったー』て」

「大変だな、“お兄ちゃん”」


 からかう言葉に苦笑する。

 そう言う彼が一番の兄のハズだが……今はあえて言わないでおこう。


「葉兄も無理はしないようにね」


 そう言い残し、春樹はしっかりとした足取りで部屋を出た。

 足音が完全に消えたところで、葉が小さく微笑む。


「……頑張れよ、二人共」




 誰もが持つ白い地図。

 その地図は、まだ描かれたばかり。





■1話「繋がる世界」了





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