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倭鏡伝  作者: あずさ
6話「七転八倒九起」
49/153

1封目 チクリとした痛みと不安

 基本的に白で囲まれた、一見して清潔そうな病室。

 そこに「病院」というイメージには似つかわしくない、明るい笑い声が響き渡った。


「そうか、そんな話が出ていたか」

「父さん……」


 急に笑い出した父の日向梢に、ここに来る前の出来事を話していた春樹はため息をついた。

 この父はどうも計り知れない。

 こうやって大事な話をあっさり笑い飛ばせるのは、大物なのか単にどこかズレているのか。

 息子としては是非前者であってほしい。


「もうたくさんのところで広まってるみたいだよ。葉兄が王の座を譲ろうとしてるって話」

「内容が内容だからな……仕方ないさ」

「公言したわけじゃないのに、ね」

「……気になるか?」


 穏やかに尋ねられ、言葉に詰まる。

 気にならないと言えば、それは完璧な嘘になってしまうだろう。


 しばし言葉に迷った春樹は、やがて苦笑した。やはり父には敵わない。


「やっぱり少しは気になっちゃうかな。そうやって自分の話をされているのは複雑だし……僕らの知らないところでどんどん話が進んでるみたいで。僕も大樹も、まだはっきりとした考えがあるわけじゃないのに」

「そうだな。おまえたちは今、目の前のことだけでもきっと精一杯だろう? それが当然だし、私はそれでいいと思うよ」

「え……?」


 目を細めて微笑む梢に首を傾げる。

 それでいい?


「今はそれらを精一杯にこなし、吸収し、自分のものにすることだ。……おまえたちの頭は、十分それに対応出来るほど柔軟で賢明なんだよ。焦ることはない」

「父さん……」

「だが、いずれ向き合うべき時機が来るのも確かだ。そのときに逃げ出さないためにも、今は失敗を恐れずにたくさんのことを経験しなさい」


 あくまでもゆったりとした口調の梢が、独特の落ち着いた笑みを零す。

 春樹はいつもこの笑みに安心させられていた。それはもちろん今も。

 けれど今日はいつもと違った感情も入り混じり、それが春樹に重くのしかかっていた。

 思わずため息を吐く。


「……僕、父さんって本当にすごいと思う」

「どうしたんだ? 急に」

「……すごすぎて、自信がなくなっちゃうよ」

「春樹……?」


 笑った梢がふいに表情を戻した。自分の顔を覗き込んでくる。

 そんな彼に、春樹は苦笑してかぶりを振った。


「だって、父さんみたいな王様になれるとは思えないもん」


 いつだって落ち着いていて、しっかりとしていて。

 きちんと前を見据え、何事にも一生懸命で。

 みんなのことを考え、必要なときに支えてくれる――そんな、王。


「あら。何もお父さんになる必要はないのよ?」


 ――ふいにドアが開き、一人の女性が入ってきた。

 フワフワの茶色がかった髪におっとりと笑みを浮かべるその女性は母の百合だ。

 手に飲み物が入ったコップを二つ持っている。


 その後すぐに、これまた飲み物を二つ持った大樹が中に駆け込んできた。

 こうして見るとやはり大樹は母親似だ。彼に「おっとり」という単語は当てはまらないが。


「母さん? 父さんになる必要はないって……?」

「だって春ちゃんは春ちゃん、大ちゃんは大ちゃんなんだから」

「えっと……」


 わかるような、わからないような。

 そんな発言をにっこりとしてくれた百合に、春樹はそれ以上追究することをためらった。

 何せ地雷を踏めば笑顔で鉄拳をプレゼントしてくれるような母だ。

 それを考えると恐ろしく、余計な発言は出来ない。触らぬ神に崇りなしである。


「それより飲み物飲もうぜ! せっかく買ってきたんだから」

「え? あ、ありがと……」


 ずい、と大樹がコップを押しつけてくる。

 春樹は押されながらもソレを受け取った。

 百合が梢に渡しているのを横目で見ながら口をつけようとし――ふと、春樹は眉を寄せる。

 ……ちょっと待て。


「……何? これ」

「へっ? だからジュースだろ?」

「何でこんな濁った緑色なの!?」


 いかにも「不味そう」というオーラをかもし出したソレに慌てる。

 まるで青汁を連想させるような色だ。むしろ青汁そのものではないだろうか。


「新発売だったのよ」

「いや、だからって……」


 さらりと答えた百合に脱力する。新発売なら何でもいいのだろうか。

 見た目や味を重視しようと思うのは自分だけか?


「ダイジョーブだって。人気あるみたいだし」

「これが!? ……でも知り合いで飲んだ人はまだいないんだろ?」

「試してガッテン」

「~~じゃあ訊くけど、何で僕のだけ?」


 みんなは普通の飲み物だというのに、これはイジメではないだろうか。

 本気でそう怪しんだ自分に、大樹が不満そうに頬を膨らませた。

 だが、それより早く百合がフォローに入る。

 ちなみに梢は楽しそうに眺めているだけだ。何て呑気な人なのだろう。


「あのね、それ一つで売り切れだったの。でもお父さんはジュース飲まないでしょ? だから春ちゃんにあげようって。――あ、ところで聞いて?」

「どうかしたのか?」

「私、大ちゃんと飲み物買いに行ったでしょ? そこで大ちゃん、『お母さんに似て可愛いですね』って言われちゃったのよ」

「ほう……」

「オレは可愛くないっ!」


 楽しげに見てきた梢に大樹がわめいた。

 彼には可愛い=小さいというイメージがあるらしく、それがさらに拍車をかけるのだろう。

 彼は背が低いことを多少の、いや、大きなコンプレックスとしている。


 だが、とたんに百合の片眉がピクリと跳ね上がった。


「あら、大ちゃん……つまり私も可愛くないって言いたいの?」

「はう!?」

「だ・い・ちゃん?」

「いや、その……か……母さんは可愛いと思うぜ?」


 大樹が引きつり笑いで答えると、ころりと百合の表情が一転した。

 ニッコリ笑い、その勢いのままギュッと大樹を抱きしめる。どうでもいいがまるで百面相だ。


「やーね大ちゃん、慌てちゃって。でも嬉しいわ」

「わあ!? こらっ、放せよ母さん!」


 ――急にやかましくなった病室に、春樹はこっそり苦笑した。後で苦情など来なければいいが。

 それらの様子を微笑ましそうに見ていた梢が、ふいに春樹を見た。

 彼は多少表情を曇らせ、声を低める。


「そういえば、渡威の方は大丈夫なのか?」

「え?」

「そっちでは色々と大変なことになっているんだろう?」

「ああ……」


 心配そうに言われ、春樹は言葉を濁らせた。


 “渡威”とは、よく物や人に憑き悪さをする未知数な生き物だ。

 そのため、少し前まではしっかり封印されていた。

 だが歌月家の仕業でその封印が解かれ、しかもその一部が地球の方に逃げ出してしまった。

 そのせいで春樹と大樹がその封印作業を任されるはめになったのである。

 封御と呼ばれる、槍状の武器も持たされて。


 地球に逃げ込んだ渡威が自分たちを狙っていると判明したのはつい最近のことである。

 梢の言う「色々」とは主にこのことだろう。


「すまないな。何だかとばっちりを受けたような形になって」

「そんな……父さんは悪くないよ」


 苦笑する梢に慌てて首を振る。それは紛れもない本音であった。

 確かに歌月家との交流は親同士でしかなかったが、急に仲が悪くなったからといって父が悪いとは思えない。

 もちろん春樹はその辺の事情をはっきり知っているわけではないが……。


「それに、何とか無事に済んでるし。大丈夫だよ」

「……そうか」


 念を押した自分に、梢が柔らかく微笑んだ。春樹も微笑って返す。

 そこへ、ふいに大樹が割り込んだ。


「そうそう! オレと春兄ならダイジョーブ! 無敵だからなっ」


 根拠も何もないくせに、満面の笑顔で。

 呆気にとられた自分に対し、梢は楽しそうな笑い声を上げた。目を細める。どこか懐かしむように。


「本当に……おまえたちは、どんどん成長していくな」



◇ ◆ ◇



 ふわり、と静かに地に降り立つ。

 その行為を成した黒い犬のような生き物は、そのままそっと体を低めた。

 その背に乗っていた春樹と大樹は、そこから軽く飛び降りる。

 きちんと両足が地に着くと、春樹はその生き物へ微笑みかけた。


「セーガ、ありがとう。毎回お疲れ様」


 セーガ。

 ――その名に反応して、その生き物が静かに姿を消す。


 このセーガと呼ばれた生き物は、春樹が召喚したものだ。

 このように、倭鏡の人々にはそれぞれ特殊な能力が存在する。

 ちなみに大樹は人以外の声が聞こえ、場合によっては会話をすることも出来るのだ。


「父さん、元気そうで良かったなっ」

「そうだね」


 はしゃぐように声をかけてきた大樹に苦笑し、それでもうなずく。

 確かに父の体調が良いのは喜ばしいことだ。

 また、父の世話にかかりっきりな母が元気なことも。

 ちなみにどうでもいいことだが、例のジュースは本当に美味しかった。不思議にも。

 一体何が入ってるのか気になるところだ。却って知らない方が幸せだという気もするが。


「この後どーする?」

「特に用もないし……家に帰るか?」


 ちなみにここでの「家」は倭鏡ではなく日本の方だ。

 学校もあるし、何かとやることもあるので春樹と大樹は二人暮しのような生活をしているのである。

 いや、最近では変わった居候も増えたのだが……。


「そうだな……ってやべ! オレ宿題やってない!」

「はあ?」

「春兄っっ」

「……自分でやれよ」

「んな!? オレまだ何も言ってねーだろ!?」

「おまえの言うことなんてお見通しだって。だいたい……」

「大樹――っ!」


 突然離れたところから声が飛び、春樹は反射的に口をつぐんだ。

 一人の少年が跳ねるように駆けてくる。

 おそらく大樹と同い年だろう。

 元気そうに日焼けした、短髪の少年だ。


「やっぱ大樹だ!」

「へっ? どうしたんだよ、一体」

「どうした、じゃねーだろ! なかなか俺らのとこに顔出さないで!」


 少年が豪快に笑って大樹の肩を叩く。

 それが引き金だったかのように、ワラワラと人が集まってきた。

 思わず後ろへ下がった春樹だが、こうなるとあっという間に大樹の姿が見えなくなってしまう。

 彼は人より小柄なので埋もってしまうのだ。


「ったく、こっち来てたんなら声くらいかけろよなっ」

「悪い! 最近忙しかったからさ」

「どうせ遊びすぎて忙しいんだろー?」

「ちげーよ! ちゃんと渡威だって封印してるんだぜ?」

「それより、大樹くん背縮んだ?」

「んなあ!? こらっ、今言ったの誰だあっ!」


 ものすごい騒ぎの中で、どっと笑いが巻き起こる。

 春樹は苦笑してこの集団を眺めた。

 会話から察するに、彼らは大樹の友達だろう。

 大樹は妙に交友関係が広かったりするのだ。

 こちらの学校に通っているわけでもないのに。


「な、俺たちこれからみんなで遊ぶんだ。大樹も入るだろ?」

「入るっ!!」

「よっしゃ、それでこそ大樹!」

「やっぱ遊びすぎて忙しいんじゃね?」

「相変わらず元気だね~」


 それぞれがわあわあと声を上げ(もはや何が何だかわからない)、群れのように移動を開始する。

 さすがにこれには春樹も慌てた。


「大樹!」

「春兄、悪い! オレちょっと行ってくる!」

「って宿題も残ってるんじゃ……」

「何とかなる!」


 なるか。阿呆。


「毎回手伝わされるこっちの身にもなってよ……」


 ため息をついてそうぼやくが、大樹の姿はとっくに遠かった。

 さすが元気の塊だ。こうなった彼はもう誰にも止められない。

 そもそも、今更何か言ったところであの群れに遮られることだろう。


 仕方なく春樹は一人で歩き出した。

 目指すは城だ。日本へ戻るには城にある大きな鏡を通るので、そこで待っていれば必ず大樹も帰ってくる。

 いつ頃帰ってくるかは全く見当がつかないが。


(下手すりゃ一日中遊び回ってるからな……)


 今頃、宿題の存在なんてすっかりきっぱり忘れているだろう。

 家に帰ってから泣きついてくる、に百円賭けたい。千円でもいい。


 元々城の近くに降りたので、城に着くのはすぐだった。

 門番の男に敬礼され、笑顔で会釈する。

 もう慣れたものだ。長い間続いてきたことだから、当然と言えばそうなのだけど。


(さて……)


 城の中に踏み入った春樹は、どうしたものかと軽く頭を悩ませた。

 特にすることはない。思い切り暇を持て余している。


 兄のところに行ってみようか。

 とりあえずそう考えたが、それには一瞬迷いが生じた。

 彼は一応倭鏡を治める王なのだ。

 普段は自分たちをからかうことを生きがいとし、徹底的に我が道を突き進んで飄々としている輩だが、仕事中であれば当然のごとく忙しい。

 それを邪魔するのは気が引ける。


(……邪魔になりそうだったら本でも読んでみようかな)


 ここにはたくさん興味深い本もある。

 そう決めると、春樹は緩めた足取りを元に戻し、王室へ向かった。

 城はやたら広いが迷うことはない。

 一直線に目指し――。


 王室にたどり着いた春樹は、少々重そうなドアに手をかけた。

 中を覗くために微かに力を入れる。


 ギィ……


 鈍い音と共に見え始めた人影。それは紛れもなく兄の姿で――――。


「……って葉兄!」

「あ? ……春樹か。ノックぐらいしろよ」


 怖い顔で振り向いた兄、そして現王である日向葉。

 だが、「怖い顔」と言ってもこれが彼の普通である。

 彼は目つきと口が悪いことで評判なのだ。

 弟としてはあまり自慢にならないな、と思う。

 たまに「そこがいい」という女性の噂も聞くが、それはまた別問題だろう。


「それは謝るけど……何してんの、葉兄」

「見てわかんねーか?」

「……桃を食し中?」

「正解。わかってんなら訊くなよ」


 涼しげな顔で言われ、ため息をつく。そんなこと言われても。


「それとも俺が桃を食っちゃ悪いのかよ?」

「そうじゃないけど……」


 仕事中で忙しいかも、と心配した自分が馬鹿みたいだ。

 しかしそんなことは言っても無駄だろう。

 この兄が自分独特のペースと基準で話を進めるのはいつものことだ。

 何か正当なことを言ったところで意味を成さない。


「そういや春樹、チビ樹は一緒じゃねえのか?」

「大樹なら遊びに行っちゃったよ。あ……ほら、そこ」


 窓の外に子供たちのはしゃぐ姿を見つけ、葉に示す。

 同じく窓の外へ目を向けた彼は小さく苦笑した。肩をすくめる。


「ガキは本当に元気だな」

「うん……」

「おまえは一緒に行かなかったのか?」

「え……僕?」


 意外な質問だった。思わず瞬く。

 そんなの、訊かなくてもわかるだろうに。


「だって大樹の友達だよ? 何で僕が……」

「おまえの友達ばっかでも、チビ樹の奴はずんずん入っていくじゃねえか。それこそ遠慮なしに」

「それはまあ……そうだけど」


 大樹は基本的に人見知りなどしない。

 むしろ所構わず話しかける彼は人懐っこいとも言えるのだろう。

 時に図々しすぎたり喧嘩腰になったりもするが、それはともかく。


 春樹が友達と遊んでいるときに混ざると、大樹とその友達が異様に盛り上がる、なんてこともしばしばあるくらいだ。


「……何で、こんなに違うんだろうね?」


 ふいに零れ落ちた言葉は、無意識で。


「あ? 違う?」

「え? あ……いや、どうして兄弟なのに似てないのかなあって。僕と大樹ってまるで正反対だし……」


 葉に聞き返された春樹は慌てて言を継いだ。浮かべた笑みが苦笑に変わる。


「周りの扱いも全然違うし。さっきも僕、門番の人にすごく緊張されちゃったんだよね。大樹なんて普通に親しそうにしてたのに」

「――そう過敏になるな」

「……え?」


 言われた意味がわからなくて、葉を凝視してしまう。過敏?


「葉兄? 僕は別に……」

「おまえのことだ。どうせくだらないこと気にしてんだろ」

「そんなことないってば」


 少々意地になって答える。何も嘘は言っていない。

 確かにほんの少し――本当に少しモヤモヤしたものがあるのは、否定出来ないけれど。


「なら別にいいけどよ……」


 コンコン


「――入れ」

「失礼します」


 間髪入れずにドアが開く。

 入ってきたのはまだ若い、少々髪の長い男だった。

 春樹も何度か見たことがある。

 物腰の落ち着いた雰囲気がどこか人の良さを感じさせる人だ。


「おや。春樹様もいらしたのですか」

「はい。こんにちは」

「こんにちは」


 ニコリと広げる微笑には、若いけれども「大人」と思わずにはいられない。


「あの……」

「はい、何でしょう?」

「……いえ、何でもないです」


 “様”なんてつけなくていい。

 そう思うものの、彼の雰囲気にはどうも言いづらい何かがあった。

 言ったところで彼を困らせるだけだろう。


「で、用件は何だ?」

「はい。……あ、でも春樹様と話があるのならまた後にでも……」

「いい。そんなことすると逆に気にする奴だ、こいつは」

「……そうですか。では報告をさせてもらいますが――」


 淡々と会話が進む。

 それを少し身を引いて眺めていた春樹は苦笑した。

 さすが葉だ、自分の性格をよくわかっている。


 それにしても、と思う。

 葉の変化には毎回驚かされるものだ。

 普段はとにかく「俺中心」的な態度なのに、仕事が入れば一瞬で切り替わる。

 今の彼は「王」であって「兄」ではない。そう無意識に思い込んでしまうほど。


(これでまだ十八歳か……)


 まだ成人すらしていないというのに、こうして大人と臆することなく向き合う彼はやはりすごいのだろう。

 それは王という立場が彼をそうさせたのか、元々の彼の度量なのか。春樹にはわからない。


「――というわけなんで、その辺も考慮された方がいいかと……」

「わかった。考えておく」

「それと……」


 ちらり、と男性が春樹を見た。

 その申し訳なさそうな目にハッとする。

 まだ仕事の話は長引くのだろう。


「葉兄。僕、ちょっと色々歩き回ってくるね?」

「ああ。……あ、そうだ。あんま考え込まねえ方がいいぞ?」

「?」

「こーゆうときはチビ樹みてーに気楽な方が得だぜ?」


 そう投げかけてきたときの彼は思いがけず兄の目をしていて、それが少し嬉しかった。

 一応気にかけてくれたということにも感謝の念が生まれる。


 けれど、チクリ、と何かが痛んだような気がした。


「……うん」


 それを気のせいだと否定して、春樹は笑顔で部屋を出ることにした。

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