4封目 りふじんは唐突に
何て話そう。
倭鏡から再び家に戻ってきた後、春樹の頭はそのことで一杯だった。
葉からの話を「後で説明する」と言ったものの、内容が突拍子なさすぎるせいでどう切り出せばいいかわからない。
あちらから訊いてくれればいくらか話しやすいのだが、大樹はすっかり忘れているのだろう。
その件については何も触れてこない。
(だからって話さないわけにはいかないよなあ……)
そうやってウダウダ悩んでいる内に夕飯も食べ終え、お風呂にも入り、着替えも済ませ――結局「ありのままを話すしかない」という結論に達したのは、とっくにベッドに潜り込んでからだった。
「大樹」
「んー?」
「今日の葉兄の話なんだけどさ」
「――あ」
まぬけな声に、わかっていたがため息をついてしまう。
やっぱり忘れていたのか。あんなに騒いでいたのに。
「そーだ、早く教えろよ春兄」
「念のため言っておくけど、かなり突拍子ないからな?」
「? うん」
よくわからないままに大樹がうなずく。
それを確認し、春樹は小さく呼吸を整えた。
一瞬の躊躇の後。
「葉兄が、僕たちのどっちかが王の座を継げって」
――割とあっさり、言葉は形として出て来たのだった。
案ずるより産むが易しとはよく言ったものだ。
「ふ~ん…………ん?」
一度納得したかと思えた大樹の言葉が疑問を帯びる。
彼はガバリ、と上から顔だけを覗かせた。
「!? 大樹、頼むからそのまま落ちるなよ……?」
「だーいじょうぶだって。それより春兄、今何て言った?」
「だから……将来僕かおまえが王になれって葉兄が言ってたの」
「――どーゆうこと?」
「っておい」
これ以上どう簡単に説明しろというのだろう。
これくらい理解してほしい。
「いや、そうじゃなくて。言いたいことはわかったけど……何でそうなるんだよ?」
「そんなの、葉兄の口癖を聞いてればわかるだろ?」
さらりと返すと、数秒の沈黙が部屋に流れた。
大樹の顔が嫌そ~に歪む。
彼はそのまま上半身を戻し、バフッと乱暴に倒れこんだ。
「~~~~それって葉兄のワガママじゃん」
「だろうね」
「あーもうっ。意味わかんねえ! 寝るっ!」
聞いて損した、と言わんばかりの大樹に苦笑する。
しかしそう笑っているだけにもいかなかった。
ふ……っと今までの空気が途切れたところで、ポツリと呟く。
「でも、葉兄って有言実行タイプだし。本気だよ。……おまえは、このことについてどう思う?」
「どう……って、さっぱり実感わかねーもん」
「……僕さ、今日……父さんに色々言われて。頑張ろうって思ったんだけど。でも、それと同時にちょっと不安にもなって。だってさ……王になるってことは父さんみたいにならなきゃいけないってことだろ?」
「…………」
「やっぱ父さんはすごいし、そんな自信なんてちっとも――……大樹?」
ふと嫌な予感がして言葉を止める。
呼びかけても返事はなかった。
耳を澄ませば、規則正しい一定の呼吸……つまり、要するに。
――寝息かよ!?
「何で話の途中で寝るんだよ……」
一気に力が抜けてしまった。
コイツの神経はどうも理解出来ない。真面目に話した自分がバカみたいだ。
ヤレヤレ、と首を振って息をつく。
仕方ないので自分も寝ようとベッドの奥に潜り込んだ。
相当疲れていたのかあっという間に睡魔が押し寄せてくる。
ウトウトとして――最初は気のせいかと思った。
遠くなる意識に微かに届く、電子音。
目覚まし時計とは違う。
これは、そう、きっと……。
「……葉兄?」
ぼんやりとした頭で起き上がり、春樹は机の上の一枚のカードを手に取った。
目をこすりながら見てみれば、やはり葉からの呼び出しがかかっている。
少し前に会ったばかりなのに一体どうしたのだろう。
こんな時間に呼び出すからには緊急の用だと思うが……。
「大樹、起きろ。大樹っ」
はしごをよじ登って呼びかけても、彼は全く反応しなかった。
どんなに揺さぶっても同じである。
軽く頭を叩いてみても変わらない。
……コイツを見ていると、顔に落書きをしてやりたくなる。
(どーしよっかな……)
大樹の睡眠の深さはよく知っている。
朝は朝食で簡単に起こせるが、今はそうもいかない。
何とか他の方法を考えないと。
(…………もしかして)
ふと浮かんだ案があり、春樹はじっと大樹を見つめた。
少し迷い、実行しようと彼の耳元で囁く。
ぼそりと一言。
「――――肉まん」
……………………。
変化はないように思えた。
やっぱりダメだろうか。単純な彼だからこそ、もしかしたらと期待したのだが。
いっそのこと蹴り落としてしまおうか。本気で春樹が悩んだとき、がしりと大樹の手が春樹の腕をつかんだ。
「……? 大樹?」
怪訝に思い、顔を覗き込もうとすると――。
「……っ、うわあああっ!?」
「だ……大樹? どうした!?」
「……――あ?」
ものすごい勢いで飛び起きた大樹は、ぽかんとした面持ちでこっちを見た。
寝ぼけているのかしばらくその状態が続く。
十秒くらい経っただろうか。
彼はやがて、盛大なため息をついて身体中の力を抜いた。
「なんだ……夢かあああ」
「ゆ……めぇ?」
それくらいであんな大声を上げたのか?
「どんな夢だったんだ?」
「それがすっげー変な感じでさ。肉まんに襲われたんだ。しかも大量の」
「…………うわあ」
「あっ、何だよその反応!」
真面目な顔で「ホントにビビったんだぜ!?」と詰め寄る大樹をなだめ、春樹は素早く部屋の時計に目をやった。
彼の相手をしているとどうも忘れそうになるが、本当はこんなことをしている場合ではない。
「大樹、さっさと着替えろ。葉兄のトコ行くぞ」
「へ? ……何で?」
「呼び出されたから。多分何かあったんだよ」
もちろん春樹の予想は当たっていた。
当たっていたのだが――その「何か」は全く予想のつかないものであった。
◇ ◆ ◇
「遅え」
どーん、と。
思い切り不機嫌なオーラを出され、二人は引きつった笑みを浮かべた。
こんなときの葉には逆らわない方がいい。
(おまえが早く起きないからだぞっ)
(春兄の起こし方が悪いんだろっ)
(何でそうなるんだよ)
(だってこんな夜遅くに起きろって方がりふじんだ)
(……『理不尽』の意味もわからないくせに使うなよ。意味わかんないし)
「オイ」
ぼそぼそと会話していた二人は、葉のじろりとした眼と言葉によって遮られた。
その言葉はやっぱり不機嫌なもので、春樹は思わず姿勢を正してしまう。
しかし予想とは裏腹に、彼の言葉は咎めるものではなかった。
「おまえら、稽古はちゃんとやってるか?」
「……は?」
「けいこぉ?」
二人は同時にすっとんきょうな声を上げ、互いに顔を見合わせた。――いきなり何のこっちゃ。
確かに倭鏡には正体不明な生物も多いし、それらから身を守るための簡単な稽古なら行われている。
自分たちも何回か参加はした。
……とは言っても、倭鏡にはあまり長く滞在していないので、特に役に立ったということもない。
「最近は忙しくてあまり来てなかったけど……ここに来たときは結構やってたよ?」
「……そうか。なら……まあ大丈夫かもな」
「だから何がっ」
じれったそうに大樹が問い詰める。
彼が短気なのはいつものことだが、春樹も少し気になった。
はっきりしないのは葉らしくない。
「葉兄?」
「……非常に言いにくいんだが」
そう切り出し、ため息を一つ。
たったそれだけで思い切りがついてしまったのだろう。
葉はさっきまでと違い、すっぱりきっぱり告げてきた。
言いよどむどころか偉そうに。
「多分昨日の夜中だと思うんだけどな、“渡威”が盗み出された」
「え? 渡威が……? 封印されていたやつ?」
「ああ」
難しい顔をしてうなずく葉に、驚きで目を見開いてしまう。
「犯人はわかって」
「『とい』って何だ?」
「…………」
――真面目な顔でずいっと割り込んできた大樹に、二人の視線が大量に注がれた。
ちなみに冷たかったり痛かったりするものばかりだ。
どう見ても本気で悩んでいる大樹の両肩にがっしりと手を置く。
どうか神様、今のは聞き間違いでありますように。
「大樹……『渡威』が何か……わかるよな?」
「何だよソレ? 動物か? 食べ物か?」
「き、聞いたことくらい……あるよなっ?」
「うん。今ここで」
「アホ――――っ!!」
見当違いな答えに、春樹は力任せに彼を揺さぶった。
おまえは! おまえは本当に倭鏡の人間か!?
「春兄! 落ち着け……っ、だあ! 気持ち悪くなるーっ」
「……やめとけ、春樹。そんなことして、コイツがそれ以上バカになったら救いようねえ」
「これ以上バカになんてなれないって」
「何だよ二人してぇ~っ!」
真っ赤になって大樹が叫ぶが、二人はこれ以上ややこしくならないように無視することにした。
何だかとても無駄な時間を過ごしてしまった気がする。
「とりあえず渡威の説明は後回しだ。やっかいな生き物だと思っとけ。
それで犯人の話だが……どうも歌月家の仕業らしいんだ」
「それって最近ウチと仲が悪くなった?」
「ああ。急に、しかもあっちが一方的に嫌ってるんだけどな。親父も原因がわかんなくて頭抱えてらあ」
めんどくせえ、といつものように葉が吐き捨てる。
確かにそうだろう。
これでは親同士の問題に巻き込まれてしまったようなものだ。
「ちなみに封印した渡威は袋に入ってたんだけどよ、二、三袋盗られちまって。
一つの袋にたくさん詰め込んどいたのが仇になったな……」
「葉兄がケチのせいじゃんか」
「あ? 黙れチビ樹」
「チビ樹ゆーなっ」
「チビ樹はチビ樹だろ! てめーに『大』なんて字はもったいねーんだよ!」
「葉兄のアホーっ! つり目! 人殺しーっ!!」
「誤解を招くようなこと言うんじゃねえっ! 俺がいつ人を殺したよ!? ああ!?」
……また始まったよ。
こんなときまでケンカされると何だか止める気さえ失ってしまう。
もう好きにさせておこうと、春樹はぼんやり二人を眺めた。
どうでもいいが早く寝たい。また朝になれば学校があるのだから。
「……危ねえ。大事なこと言い忘れてたぜ」
力ずくで大樹を黙らせようとしていた葉がハタと動きを止め、春樹の意識を引き戻した。
俺としたことが、と呟いている葉へ顔を向ける。
「大事なことって……まだ何かあるの?」
「つーか、さっきの用件だけならわざわざ呼ばねーよ。むしろ『邪魔だからしばらく来んな』って追い出す」
「うっわ」
もっとマシな言い方があるだろうに。
「大事なのはその先なんだよ。盗み出された何体かの渡威が――そっちの世界に逃げたんだ」
「そっちの世界……?」
「だから地球。つーか日本?」
――は?
一瞬意味をつかみ損ねた。
何とか落ち着いて考えようと、今までの言葉をゆっくりたどってみる。
まず歌月家が渡威を盗み出して。
その渡威はなかなかやっかいな生き物で。
しかも盗まれた数は結構多かったりもして。
その一部が――こちらの世界に逃げ込んだ?
「葉兄! それってヤバイんじゃねーの!?」
「お? てめーにしちゃ飲み込み早いじゃねーか」
「葉兄……呑気に感心してる場合じゃないよ……?」
クラクラと目眩に近いものを感じる。
どうしてそんな展開になってしまったんだ。
「急いで結界みたいなもんを張ったからよ、とりあえずおまえらの町から逃げることはねえ。……ま、ここまで来りゃ言いてーこともわかるだろ?」
「つまり……僕たちにその渡威を封印して来いと……?」
おそるおそる尋ねると、葉は軽く口の端を上げた。
にっと、珍しくも極上の笑顔で。――それはそれで怖いのだが。
「大正解。どんぴしゃりだ」
「~~~~……」
「おまえらも“法”は知ってるだろ?」
「……何ソレ?」
「あぁ悪い。おまえにわかるハズなかったな」
もう面倒になったのか、葉は大樹の疑問をさらりと流した。
さすがにそれは少しかわいそうなので、こっそり助け舟を出してやる。
「法ってのはルールみたいなものだよ。こうしちゃいけない、とか。――今回で大事なのは『王家の人間以外は別世界を出入りしてはいけない』……だよね?」
「そっ。かといって俺が倭鏡を離れるわけにもいけねーだろ、一応王なんだし。だからそっちの世界を任せるにはおまえらしかいねーんだ。頼んだぞ」
葉の口調は決して厳しいものではなく、むしろあっさりしすぎていた。
しかし……断る余地などないと、二人ははっきりと感じていたのだった。
◇ ◆ ◇
そんなこんなで渡されたもの。
変なやけに長い棒二本、手の平サイズより少し大きめの袋一袋、――以上。
「……これだけ?」
葉からそれら一式を受け取った春樹を見て、大樹は思わず呟いた。
「封印」と言っていたから、もっとすごそうなものを想像していたのに。
「渡威の封印の仕方は単純だからな。その辺は春樹が知ってるだろ」
「うん、大丈夫」
「……ほんっと、春樹は物わかりいいな」
あいつと違って、という葉の呟きを聞き逃すことはなかった。
さっきからバカにされっ放しで思い切りむくてれやる。
……どうせ自分は渡威の存在すら知らなかった奴だ。
どうでもいいが早く渡威の説明をしてほしい。
あんなアバウトな説明じゃ何が何だかさっぱりである。
「じゃ、帰ったらすぐ寝ろよ」
「言われなくてもわかってるよ……」
「またなー」
手を振り、春樹と共に葉へくるりと背を向ける。
やっと寝れる、とどこかホッとして――
「あ、おまえはちょっと残れ」
――葉にぐいっと引き戻されたときは、本当に焦った。
「ぐえっ……葉兄! フード引っ張るなよっ!」
一瞬だが本気で息が出来なかった。
やっぱり奴は自分を殺す気なんじゃないだろうか。
もしかして本当に人殺しの経験があるのか!?
「ぐだぐだ言ってんじゃねーよ。……あ、春樹。てめーは戻っていいからな」
「え?」
呆けたようにしていた春樹がこちらと視線を合わせた。
どうすればいいのか決めかねているようだ。
大樹としては迷わず一緒にいてほしい。
葉と二人きりだなんて自分がひどい目に遭うのは目に見えている。
だが。
「うん……わかった。じゃあね、葉兄」
「おう」
「春兄!? 見捨てる気か!?」
慌てて叫ぶと、春樹は微かにこちらを見た。
にこりと微笑む。
「頑張れ」
「いや、頑張れって……」
何をどう頑張れというのだろう。
そう問い詰めたい気もしたが、彼はそのまま走り去ってしまった。
バタン、と無情にもドアの閉まった音がする。
――なんて薄情な兄だ。
「春兄~~~~」
「いちいちうるせー奴だな……。声変わり前の声で騒ぐなよ。てめーの声は耳に響くんだから」
「んなもんしょーがねえだろっ。それより何だよ葉兄! オレだけ引き止めて!」
「……おまえなあ、短気は損気だぞ?」
「って頭叩くなあっ!」
ぺしぺしと叩いてくる手を振り払う。
どうしても頭をやられるのだけは好きになれないのだ。
特に葉にやられると「チビ」だと強調されている気がする。
――というより、彼もそのつもりでやっているのだろう。奴はそーゆう人間だ。
「いっつもいっつもバカにして……いつかグレてやる」
むすっとして呟くと、一瞬目を丸くした葉が鼻で笑った。
「やれるもんならやってみろよ。でも、そのときはオフクロが黙ってねーぜ」
「母さんが?」
「まず平手打ちだろ? それからボロボロ涙をこぼして、『私はあなたにたくさんの愛情を注いでいるのよ!? 愛してるの!』とか言いながら抱きしめる。そしてこっちが折れるまで放さねえ」
「……うわ、ありえそう」
セリフが見当違いな気もするが、そこがまた母らしい。
確かに母はそんなキャラだ。
変なところではじけているというか、オーバーだというか。
「……グレるのやめた」
「それが得策だろうな。じゃなきゃ俺の二の舞だ」
「ん? ……葉兄の?」
意味がわからなくて首を傾げると、葉は渇いた笑いを見せた。
深くため息をつき、声を絞り出す。
「今のはな、俺の経験談。王になってくれって頼まれたとき、ソッコーで断ったらやられたんだよ」
「葉兄が……? 母さんに?」
ボーゼンとしてしまう。この葉兄が? 母さんに抱きしめられて?
何だかあまり信じられない。
信じられないが――想像したら面白い光景だというのは確かだ。
「……ぷっ……あは、あはははははっ!!」
「笑いすぎだチビ」
「だってだって! 葉兄が! ~~~~笑いすぎてハラ痛いーっ」
この大きな図体で母親にオロオロしている葉を想像したら……やばい、めちゃくちゃ見てみたい。
「いつまで笑ってんだよ。つーかこの話はどうでもいいんだって。
……おまえ、春樹から聞いたんだろ?」
「へ? 何を?」
「跡継ぎの話」
「跡継ぎー……ああっ」
眠かったときの会話だったので危うく忘れるところだった。
そういえば寝る前にそんな話をしたような。
「聞いた聞いた」
「おまえ、それ聞いて何とも思わなかったのか?」
「は?」
言われ、記憶を探ってみる。
もちろん何とも思わなかったわけではない。
自分だって色々考えることはある。
「……葉兄のワガママ。めんどくさがり屋。無責に――」
「それ以上言ったら殴るぞ、そこの単細胞」
「何だよっ! 葉兄が思ったこと言えって言うからっ」
「アホ。誰も俺のことなんて聞いてねーよ。内容に対してだ。――王になりたいとかなりたくないとか、てめーは何も感じなかったのかよ?」
呆れたような視線に、大樹は言葉を詰まらせた。
葉の眼にはいつも威圧感がある。
とはいっても、自分は春樹ほど葉を恐れていないが。
大樹は少し考え込み、やがて肩の力を抜いた。
やっぱり難しい話は苦手だ。
「しゃーないじゃん。つーかまだ先の話だし。少なくとも今のままじゃオレも春兄も力なんて全然ねーけど……そんなの、この先どうなるかなんてわかんねーもん。決めらんねーよ」
「いや、決めらんねーって……そりゃ一理あるけどよ。てめーはもう少し考えた方がいいんじゃねーか……?」
「全く考えないとは言ってないだろっ!」
「そう吠えるなよ。んじゃどーゆうつもりなんだ?」
またもや頭を叩いてくる彼の手を再び振り払おうとする。
が、今度はそうさせてはくれなかった。
力ずくで頭を掻き回したり羽交い締めにしたりしてくる。
「こらーっ! オレで遊ぶな―――っ!」
「おもちゃ玩具で遊んで何がわりーんだよ? いいからさっさと質問に答えろ」
「おもちゃあ!?」
とうとう生き物以下の扱いか!?
「早く答えろっつってんだろ」
「く、苦しい! 苦しいっ! 答えるから放せっ」
必死に叫ぶと、彼はようやく手を緩めた。
思わず安堵の息をついてしまう。
――憎い。敵わない力の差がどうしようもなく憎い。
「おいおい、キレんなよ。ほんのジョークだろ。……で、結局どーゆうつもりなんだ?」
「~~~~そりゃ、少しは意識もするし頑張ってみようとも思うけど。でも今から焦る必要もないじゃん? 焦ったって答えは見えねーんだし。後からわかることもあるだろうし」
第一、自分はいまだに実感がわいてないのだ。焦りようもない。
「……おまえ、何も考えてねーくせになかなかだな」
「?」
「春樹もチビ樹くらい呑気なら楽だろーになあ」
しみじみと葉が呟く。
どうでもいいがやっぱりバカにされている気がする。
「春兄は春兄なりの考え方があるんだろ」
「まあな。でもあいつは損な性格だしよ。――ま、二人で適当に頑張れや」
「てきとーかよっ」
なんて気の抜ける応援だろう。やる気が失せてしまう。葉らしいといえばらしすぎるが……。
大樹は小さく息をつくと、葉に向けてにっと笑ってみせた。ついでにVサインもつけてやる。
「まっ、オレと春兄なら何とかやれるぜっ! 任せときなっ」
「……おうよ」
苦笑する葉に満足し、大樹はさらに笑顔になった。そこでふと気づく。
「ってヤバッ! 今何時!? 学校あるのに!」
「もう話も終わったし、さっさと帰って寝るんだな」
「ん。じゃあな、葉兄!」
「ああ」
葉と別れのあいさつを交わし、バタバタと走り去る。
――春樹の方はもう寝ているだろうか。
「……春樹が色々言ってたのもわかる気がするな」
苦笑混じりの葉の言葉は、誰に届くこともなく部屋に消えた。




