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らいど・おん!-リトル・シティポップ・デイズ-  作者: inosuke.55555


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プロローグ:邂逅

甲府 × シティポップ × 青春!


本作は山梨県甲府市を舞台に、シティポップを鳴らす女子高生バンドの活躍を描く青春物語です。

甲府の風景や文化が多く登場しますが、実在の人物・団体とは関係がございません。


アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』に触発されて創作した、初の執筆作品でございます。

温かい目でお楽しみいただければ幸いです。


※毎週土曜日更新(予定)です。

そのカッティングは、心に波を刻んだ。

そのファルセットは、世界を書き替えた。

そのパフォーマンスは、人生を定義した。


そうして山下美都梨(みどり)という少女は、音楽という熱にあてられた。


彼女の原点は小学6年生の初夏にあった。

ロック好きの父親に連れられて足を運んだ、地元山梨での野外音楽フェス。むせ返るような青草の匂いと、肌を刺す初夏の日差しが、少しだけ退屈していた彼女を包み込んでいた。


音楽そのものは嫌いではなかったけれど、特定のバンドに熱を上げるような年齢でもなかった美都梨は、ステージの上で次々と入れ替わる大人たちを、ただ年相応の好奇心で眺めているだけだった。まだ自分だけの特別な何かを見つけていない、どこにでもいる平凡な少女の瞳に、その男は唐突に映り込んだ。


やがて、次の演者がステージに姿を現した。季節外れのニット帽を目深に被り、長髪を揺らすその男は、使い込まれた焦茶色の渋いエレキギターを抱えていた。マイクの前に立ち、彼がその弦を弾いた瞬間。空気が、いや、世界そのものの位相が変わった。


スピーカーから放たれたその音は、鼓膜を通り越して、美都梨の心臓を直接鷲掴みにした。周囲を埋め尽くしていた観客の歓声も、初夏の風の音も、すべてが遠くへ退いていく。全宇宙の暗闇の中に、ただ彼女とその人のみが取り残されたかのような、圧倒的な孤独。だが、衝撃はそれだけでは終わらなかった。


彼が静かに息を吸い込み、マイクを通して第一声を発した瞬間。美都梨の内に閉じこもっていた暗闇は、眩い光の奔流によって一瞬にして打ち砕かれた。それは、どこまでも高く、伸びやかな歌声だった。甲府盆地を囲む山々を越え、初夏の青空の果てまで突き抜けていくような、圧倒的な透明感と力強さ。


都会の洗練を纏いながらも、なぜか魂の根源に触れてくるような神聖な響きを持っていた。鋭いギターの音色が少女の心をかっさらい、天から降り注ぐようなその歌声が、空っぽになった彼女の心を優しく、しかし絶対的な力で満たしていく。


あまりの美しさに、彼女はただただ圧倒されていた。完全に、心を奪われてしまっていたのだ。12歳の少女が抱えていたちっぽけな世界観は、その音と声の完璧な調和によって、見事なまでに塗り替えられてしまった。彼女の視線の先で、一切の無駄を削ぎ落とした職人のような手つきでギターを奏でるその男の名は、峠達郎(とうげたつろう)


80年代のシティポップ全盛期に数々の名曲を生み出し、孤高の天才と称されたシンガーソングライター。メディアへの露出を極端に嫌い、ただひたすらに完璧な音を追求し続けるその妥協なき姿勢は、多くの若手ミュージシャンにとって手の届かない憧れであり、生きた教典でもあった。


今なお語り継がれる生きるレジェンドが放つ、圧倒的な本物の輝き。それが、山下美都梨が真の意味で音楽の洗礼を受け、人生をかけて追い続けるべき絶対的なお手本を見つけた、運命の出会いであった。

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