表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/3

目が覚めたら、森だった

目が覚めたら、森だった。


カフェにいたはずだ。

窓際の席でコーヒーを飲みながら、何か考え事をしていた。


気づけば視線が落ち、そのまま意識が途切れた。

うたた寝だろう。


その記憶に、不自然な抜けはない。


鼻に土の匂いが届く。

背中が冷たく、硬い。

仰向けに寝ているらしく、視界の半分は枝と葉で埋まっていた。


身体を起こす。

腰と肩に重さが残る。

寝違えた痛みとは違う。

地面の感触が、身体に残っている。


夢にしては、やけに現実的だなと思った。


指を握って、開く。

感覚はある。

意識もはっきりしている。


「ああ……なるほど」


口に出して、少し考える。


「これは――転生、だな」


そう結論づけた瞬間、不思議と混乱は起きなかった。


小説やアニメで何度も見てきた状況だ。

実際に自分の身に起きるとは思っていなかったが、

起きてしまったものは仕方がない。


まずは確認だ。


身体に怪我はない。

持ち物は、着ている服だけ。

周囲に人影はなく、森は静かだ。


そのとき――


森の奥から、悲鳴が聞こえた。

反射的に、立ち上がっていた。


考えたわけじゃない。

正義感でもない。

日頃から護身術を学んでいる人間として、

その音に対して、身体が先に動いただけだ。


足元の枝を避け、音の方向へ走る。


視界が開けた先で、

刃物を持った男と、倒れ込む女性の姿が見えた。


――間に合う。


そう判断した瞬間、身体が踏み込んでいた。


狙いは一点。

踏み込んできた脚の脛に、横から蹴りを叩き込む。


鈍い衝撃が、足裏から返ってきた。


男は体勢を崩し、その場に落ちた。

喉の奥から、押し殺した悲鳴が漏れる。


視界の端で、動きがあった。


想定内だ。

女性を襲う状況で、一人とは限らない。


「誰だ、てめぇ!」


……誰?


……そう問われると、答えがない。

この世界で、俺は何だ?


旅人か。通行人か。


「通りすがりの――」


言い切る前に、相手が踏み込んできた。

向き直り、距離を取る。


一瞬、動きが止まった。


剣先がこちらを向いたまま、揺れる。

相手は前に出ない。

下がりもしない。


間に、短い沈黙が落ちる。


こちらの出方を伺っているようだ。


片手剣。

斬りも来るし、突きもある。

当たれば、取り返しがつかない。


視線は相手に向けたまま、地面を探る。


落ち葉、転がる石――。

使えるものはないか。


――あった。


地面に落ちた枝。

長さは肘から指先ほど。


素早く拾う。

軽い。


とてもじゃないが剣を受け流すことには使えない。

だが、それでいい。


小枝一本で違う。

間合いが広がる。


まずは観察だ。

相手の力量を見定める。


見るのは剣じゃない。

剣の動きは結果だ。


手の形。

腕の動き。

肩の入り。

肘の角度。

そして、剣全体の軌道。


相手が前に出る。

剣が上に上がる。


円を描くように、斜め後方へバックステップする。

足裏で地面を踏み締め、上体はぶらさない。


――上段からの振り下ろし。

力任せに、真っ直ぐ落ちてくる。


さっきまで立っていた場所に、剣が叩き込まれる。


遅くはない。

だが、怖さがない。


当たれば切れる。

骨にも届くだろう。

腕なら、持っていかれるかもしれない。


その程度の想像はつく。


振りは強いが、剣をコントロールできていない。


相手は止まらない。


右手の剣を身体の左側へ流す。

溜めが浅い。


――横薙ぎ。


脚が遅れる。

腕だけが先に走る。


剣が振られるより速くバックステップする。

振り抜いたあとの戻しが遅い。


――剣に振り回されている。


視線は刃とこちらの上体を行き来している。

足元は見ていない。


もう一度、剣が上に上がる。


今度は踏み込みが深い。


——ここだ。


斜め前へ入る。


小枝を横に走らせる。

突かない。

相手の目を薙ぐ。


目が閉じる。

視界が消える。


剣が、さっきまでいた場所を薙ぐ。


剣を握る前腕を押さえ、

小枝を握った拳の外側を、後頭部に押し当てる。


膝を上げ、股間に入れる。


息が止まる。

喉の奥から押し殺した声が漏れ、顔が歪む。


前腕を掴んだまま、右腕を上へひねり上げる。

同時に、後頭部を左へ回す。


ひねるだけでは崩れない。

自分の側へ引く。


身体が崩れる。

そのまま、背中から地面に叩きつける。


同時に、剣を蹴り飛ばす。

刃が土の上を転がる。


動かない。


……まずい。


やりすぎたか。

胸の奥がひやりとする。


息は――あるか。

胸がわずかに動く。


脈を探る。

ある。


気絶しているだけだ。


周囲を見る。

他に人影はない。


「はぁぁぁぁ……よかったぁぁぁぁ……」


その場に座り込む。

両手を後ろにつき、脚を投げ出した。


張り詰めていた力が抜けた。

呼吸を整える。

初めての実戦だったが、なんとかなった。


そこで、背後から声がした。


「あの……」


その声の方を見る。

…そうだ。助けに入ったんだった。


怪訝な表情の女性が、こちらを見ている。


「お怪我はありませんか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ